第19話 眠れぬ夜に温もりを
満天の星が浮かぶ夜、カルムの街は既に寝静まっていた。
少々夜更かしをしてしまったヨネシゲは、自室に到着するなり、ベッドに横たわる。
ベッドの硬さはヨネシゲ好みであり、とても寝心地が良さそうであった。
「今日は色々あったから、ぐっすり寝れそうだよ……」
ヨネシゲは天井を眺めながら今日あったことを思い返していたが、一分もしないうちに眠りにつくのであった。
ところが、ヨネシゲは数分もしないうちに目を覚ます。体を起こしたヨネシゲは大きく息をしていた。
ヨネシゲはしばらくそのままの状態でいたが、突然ベッドから下りると、自室から出ていくのであった。
ヨネシゲが向かった先はソフィアの部屋だった。
ヨネシゲがソフィアの部屋の扉をノックすると、すぐにソフィアから返事があり、ヨネシゲは部屋の中へ入っていくのであった。
部屋に入るとソフィアはベッドに腰掛け読書をしていた。ソフィアはヨネシゲに要件を尋ねる。
「あなた、どうしたの?」
「ちょっと寝れなくてな」
ヨネシゲはそう言うと、ソフィアの隣に腰掛ける。
先程まで元気そうだったヨネシゲは、今は暗い表情を浮かべている。ソフィアが心配そうに尋ねる。
「何かあったの?」
「いや、その。怖くてな」
「怖い?」
ヨネシゲの言葉にソフィアは驚いた表情を見せる。ヨネシゲが弱音を吐くことは滅多にない。それどころか、ヨネシゲから怖いという言葉を耳にしたのはソフィアは初めてだった。
そしてヨネシゲは弱音の理由について説明する。
「このまま眠ってしまったら、お前たちにもう会えなくなりそうで……」
ここはソフィアの描いた空想世界。恐らく間違いはないだろう。だが、自分がただ単に夢を見ているだけだとしたら?
夢から目覚めれば現実に戻される。現実に戻れば、もうそこにソフィアとルイスは居ない。
ヨネシゲは現実世界に戻ってしまい、この空想世界で手にした幸せを失うことがとても怖かった。
とはいえ、そのような事情をソフィアは知らない。困惑した表情のソフィアにヨネシゲは胸の内を伝えることにした。
「理解してもらえないかもしれないが、俺は一度お前たちを失っている」
「失った? 私とルイスをですか?」
「ああ。俺の記憶が何よりの証拠だ。だからこうしてまた、ソフィアとルイスに会えてるのが夢のようなんだ。もう大切なものは失いたくない。朝起きたら、居なくなっているなんて、そんなのは絶対嫌だぞ……!」
「あなた、落ち着いて」
ソフィアはそう言うとヨネシゲをそっと抱きしめる。そしてソフィアはヨネシゲを落ち着かすようにゆっくりと肩を叩く。
「大丈夫だから、落ち着いて。さっきお義姉さんから聞いたわ。森で幻覚を見せられたんでしょ? 私なら生きているよ。感じるでしょ? 私の温もりと心臓の音が。それに突然消えたりもしない。ずっとあなたの側に居るから安心して」
「ソフィア……」
ソフィアの言葉にヨネシゲは落ち着きを取り戻す。その様子を見たソフィアはヨネシゲをベッドの中へ招き入れる。
「今日は一緒に寝ましょう」
「え、いいのか? でも、俺いびき凄いぞ?」
「大丈夫よ、慣れているから。あなたが眠るまで起きててあげる。何だったら子守唄でも歌ってあげるよ」
「大丈夫だよ、子供じゃないんだから」
「フフフッ、そうね」
ソフィアの見せる優しい笑みにヨネシゲの顔も自然と緩む。
「それじゃ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
やがてヨネシゲは深い眠りについた。そしてソフィアも続けて眠りにつくのであった。
お互いに握られた手は眠りについても離されることはなかった。
つづく……
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