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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
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第200話 ヨネシゲVSダミアン 〜正義の鉄拳〜(前編)

「――あれは……!?」


 王都各地の改革戦士団戦闘長を制圧したウィンター。今は火の手が次々と上がる王都南部飲食街の上空にいた。そして守護神の瞳に映るのは、黒髪隻眼と対峙するヨネシゲ一行の姿だった。

 ウィンターは瞳を細め隻眼を見つめる。


「――写真で見た黒髪の炎使いと特徴が一致していますね。片目を失っているようですが、彼は『ダミアン・フェアレス』で間違いないでしょう……」


 その黒髪隻眼の青年。それは、過去に保安局から入手した写真に写し出されていたダミアンと特徴が完全に一致していた。失ったであろう左目を除いては。

 ウィンターは、隻眼が黒髪の炎使いであると確信する。だが、直ぐには動こうとしなかった。


「ヨネシゲ殿と何やら話しているようですね。少し、様子を見させていただきましょう……」


 今は、ヨネシゲとダミアンの会話を上空にて見守る事にした。




 守護神が真上に居るとも知らず、因縁の二人は視線をぶつけ合い、火花を散らす。

 ヨネシゲは唇を真一文字に結び、鋭い眼差しでダミアンを睨む。

 一方の黒髪隻眼は、歯を剥き出し広角を上げ、カッと開いた瞳で角刈りを見る。

 角刈りの背後で、いつでも戦闘できるように身構えるドランカドとノア。歯を食いしばり、緊張を隠しきれない表情で額から汗を流す。

 ダミアンの隣では、ドランカドとノアを監視するように、桃色髪の改革戦士団幹部ジュエルが冷たい眼差しを向けていた。

 

 一触即発。この場の雰囲気を表現するならこの言葉がピッタリだろう。


 そんな空気の中、ダミアンが愉快そうに口を開く。


「久々だな、おっさん。てっきり、ブルームで死んだかと思ってたぜ」


 ダミアンの言葉を聞いたドランカドが透かさずヨネシゲに尋ねる。


「ヨネさん、アイツのこと知ってるんですか?」


「――ああ、ちょっとな……」


 ヨネシゲは少し間を置いた後、言葉短めに返答。二人のやり取りを聞いていたダミアンはニタッと笑みを浮かべる。


「へっへっへっ。俺と()()()()は、色々と因縁があってな」


「気安く愛称で呼ぶんじゃねえ……」


 ヨネシゲは、気安く愛称で呼んでくるダミアンを睨む。しかしダミアンは気にせず言葉を続ける。


「まあ俺たちの関係は――そう簡単には話せねえよな? ヨネさんよ。フッフッフッ……」


「――ああ、そうだな……」


 まだ自分のことを「ヨネさん」と呼ぶダミアンに、角刈り頭は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。だが、自分が「別世界からやって来た転移者」などとは話せない。周りから要らぬ誤解や不審化を抱かれることになるだろう。少なくとも、今は言及を避けるべきだ。


 ヨネシゲは話題を切り替えるようにして、黒髪隻眼に尋ねる。


「――そういうお前は、南都で命を落としたんじゃなかったのか? タイガー・リゲルに討ち取られたという噂が出回っているぞ?」


 ダミアンは失った左目に左手を添えながら、愉快そうに歯を剥き出す。


「ヨネさんよ。そいつは古すぎるニュースだぜ?」


「――だから、気安くヨネさんと呼ぶな……」


「ハッハッハッ! ヨネさんよ。俺は見ての通り生存している。悪魔は――不死身なんだよ……!」


「……畜生……」


 ヨネシゲは唇を噛み締める。


(――何故、こんな野郎が生き延びている?)


 現実は無情だ。果たして神は誰の味方なのか? ヨネシゲは悔しさで身を震わす。そんな彼を嘲笑うようにダミアンは顔を歪ました。


 その様子を固唾を呑みながら見守るドランカドとノア。ヨネシゲとダミアンの間で生まれた因縁とは何か? その真実は気になるところだが、とても二人の間に割って入って質問できる雰囲気ではない。

 そんな二人の存在に気が付いたダミアンが、狂気の笑顔を見せる。


「フッフッフッ……ヨネさん、仲間って最高だよな? 大切な家族と等しい存在だ――」


 ゆっくりと右手を構えるダミアン。ヨネシゲに緊張が走る。


「何をするつもりだ!?」


 ダミアンの右手が赤色に発光する。


「さあ、守ってみせろよ、大切な仲間をな! グズグズしてると、あの時の()()()()()()()()みたいに、丸焦げになっちまうぞ?」


「貴様ぁぁぁっ!!」


 怒号のヨネシゲ、嘲笑のダミアン。


「ハッハッハッ! あの時の悪夢、もう一度見せてやるよっ!」


 ダミアンが光線を放とうとしたその時――


 角刈り怒りの鉄拳がダミアンの視界いっぱいに飛び込む。


(――いつの間に!?)


「これ以上! お前の好きにはさせねえ!」


 地面を蹴り上げたヨネシゲは、空気を歪ませながら、音速でダミアンに接近。青白く光る瞳は黒髪隻眼を捉えていた。

 だが、ダミアンは咄嗟に首を左に曲げる。

 ヨネシゲ渾身の鉄拳を回避――


「……くっ!!」


 ――出来ず。鉄拳は黒髪隻眼の頬をかすめる。悪魔の頬には一筋の傷。血が滲み出る。

 ダミアンは大きく飛翔すると、ヨネシゲとの間合いを取った。


「へぇ~。この俺に傷を負わす事ができるなんて。少しは成長したみたいじゃん」


 ニヤッと口角を上げるダミアンに、ヨネシゲが挑発するようにして言う。


「どうした? 拳の避け方も忘れちまったか?」


「何?」


「黒髪の炎使いだかなんだかしらねえが、所詮、自分の拳に自信がねえから、光線ぶちかましたり、火を吹いて誤魔化しているんだろ? 今のお前じゃ、俺と殴り合いの喧嘩でタイマン張っても勝てねえよ」


 ヨネシゲの挑発にダミアンは薄ら笑いを浮かべる。


「フッフッフッ。俺も随分と侮辱されたもんだな。おっさん、殴り合いの喧嘩で俺に本気で勝てると思ってんのか?」


「ああ。少なくとも、今のお前には勝てる。偽物の拳には負ける気はしねえ」


「笑わせるなよ! そういうおっさんも、空想術で強化した偽物の拳だろ?」


「違うっ!」


「何が違うんだ?」


「例え空想術で強化した拳でも、俺の拳には魂と、人々の想いが宿っている。重みが違う。価値が違う。ただの鈍器でしかないお前の安っぽい拳と一緒にするな……!」


「舐めんなよ、おっさん……」


 先程まで余裕に満ちた表情を浮かべていたダミアンだったが、今は不愉快そうに唇を歪曲させる。

 そんな隻眼の悪魔に角刈りが挑戦状を叩きつける。


「ダミアン。文句があるなら――拳で語り合おうぜ。俺が本物の拳を教えてやるよ!」


 ダミアンは高笑いを上げる。


「フッハッハッハッ! 上等じゃねえか! 受けて立ってやるよ! 俺に殴り合いの喧嘩を売ったことを後悔させてやるぜ!」


 これからヨネシゲとダミアンの決闘が始まる――

 しかし、相手は南都を一瞬で焼き払った、圧倒的な力を有するあの黒髪の炎使いだ。


 ――今のヨネシゲが勝てる相手ではない。


 ドランカドが堪らず角刈り頭を制止する。


「ヨネさん! 無茶だっ! 相手はあの黒髪の炎使いっすよ!?」


 だがヨネシゲは首を横に振り、真っ直ぐとドランカドを見つめる。


「ドランカド、止めてくれるな。これは――譲れない戦いなんだ」


 力強い眼差しで訴えるヨネシゲ。ドランカドはこれ以上何も言えない。


(ヨネさんと奴の間に何があったかは知らないが、これ以上は俺が足を踏み入れちゃいけない領域だ――)


 だが、彼は一言だけヨネシゲに伝える。


「――ヨネさん、信じてますからね!」


 ヨネシゲは、力強く首を縦に一回振り、応えた。



 睨み合う両者。

 ジュエルがダミアンの隣に並ぶ。


「ダミアン、援護するよ?」


「フフッ、手出し無用だぜ。でも暇だというなら――」


 ダミアンの狂気じみた瞳が、ドランカドとノアに向けられる。


「奴らにちょっかいでも出してきな」


「うん、わかったわ」


 ジュエルはニコッと可愛らしい笑みを浮かべると、ドランカドたちの方へ歩みを進め、対峙する。真四角野郎とサンディ家臣に向けられる彼女の眼差しは、冷酷なものへと変貌していた。


「あなた達の相手は私よ」


「へへっ。こりゃ、偉い別嬪さんが接待してくれるんですね……」


 その様子を横目にヨネシゲは額に汗を滲ませる。


「ドランカドたちに手を出すのは、俺を倒してからにしてくれないか?」


 ダミアンは不敵に笑う。


「大丈夫だって。ちょっとジュエルの遊び相手になってもらうだけさ。お友達は俺が後で可愛がってやるから安心しろ」


 ダミアンは言葉を終えると、ファイティングポーズを取る。対するヨネシゲも両拳を構えた。

 角刈りの額から一筋の汗が流れ落ちる。


(――まさか、今日コイツと決闘することになるとはな。正直、体の震えが止まらねえ。今になって怖気づいてやがる。我ながら情けねえぜ。だが、もう後戻りはできん。この勝負、絶対に負けられねえ――)


 ヨネシゲは目の前の悪魔を睨む。


(亡くなったソフィアとルイス、今この世界を生きるソフィアとルイスの為にも――)


 ヨネシゲの瞳が青く光る。


「俺はっ! 絶対に負けねえっ!!」


 角刈りの拳、全身から、青白色の光焔が放たれた。

 

「フフッ。少しはできそうじゃん。せいぜい楽しませてくれよ――ヨネさん!」


 ダミアンの右眼が赤色に発光。その全身に赤く燃え盛る火炎を纏わせた。


 ――その上空。

 守護神が地上に向かって右手を構えていた。


「――相手はあのダミアン・フェアレス。ここで暴れられては、王都に甚大な被害を及ぼすことでしょう。そうなる前に黒髪の炎使いを始末しなければなりませんね。だけど……」


 ウィンターは、ヨネシゲの胸元で輝く、具現石のペンダントを見つめる。


「――もし貴方が、私の思っている通りのお方であれば……そのペンダントが、貴方の奥底に眠る力を引き出してくれることでしょう……」


 ウィンターは構えていた右手を下ろす。


「ヨネシゲ殿。見定めさせてください」


 守護神は二人の決闘を静観する選択肢を選んだ。



「さあ、行くぜっ! ヨネさんよっ!」


 黒髪隻眼は煮えたぎる溶岩のような拳を構え突進していく。


「掛かってきやがれっ! この悪魔がっ!!」


 角刈り頭は青白く光る彗星の如く剛拳を振り上げながら疾走する。


(ソフィア、ルイス……もし天で見ているなら――俺に力を貸してくれ……!)



 ――正義の鉄拳、炸裂。



つづく……

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