第199話 トロイメライの守護神
――王都の夜空に巨大髑髏が出現する少し前。
ヨネシゲたちは、ウィンターの厚意で、王都南部の飲食店を訪れていた。
サンディ家臣ノアの案内でウィンターが行きつけだという店に案内されたが、そこは他の飲食店とは少々異なるスタイルだった。
「ニャーオ!」
テーブル席を囲む客たちの膝や肩、頭に乗っているのは「猫」だ。
猫たちは、客が振りかざす猫じゃらしで遊んだり、おやつを要求したり、昼寝をするなど思い思いの時間を過ごす。そして、猫と戯れる客たちは幸せそうな笑みを零していた。
そう。ここは猫と触れ合いながら飲食ができる異世界版「猫カフェ」である。
カフェといっても多種多様な料理を提供しており、例えそれが腹を空かしたマッスルであっても、ガッツリと食事できるメニューが揃っている。
夕食時ということもあり、多くの猫好き王都民で多いな賑わいを見せていた。
そして、その客の中に、ヨネシゲ、ソフィア、ドランカド、クラーク、ノアの5名がテーブルを囲む。
ヨネシゲは猫を左腕で抱きかかえながら、シーフードパスタを頬張る。
「ウメェ! このパスタ絶品すぎるぜ! 特にこのイカが柔らかくて堪らねぇ!」
「あなた。そんなに慌てて食べると喉に詰まらせちゃうよ?」
無我夢中でシーフードパスタを食べるヨネシゲ。その様子をソフィアたちは微笑ましく見つめる。
先程まで落ち込んだ様子のヨネシゲ一行だったが、頬が落ちそうになる絶品料理を堪能し、猫の癒やし効果も相まってか、彼らはいつもの調子を取り戻しつつあった。
ヨネシゲたちの元気そうな姿を見て、ノアが安堵の笑みを浮かべる。
「皆さん、元気を取り戻してくれて良かった!」
ヨネシゲは猫を抱きかかえながら言葉を返す。
「いや〜! この絶品料理とニャンちゃんたちに癒やされましたよ!」
「それは良かった!」
「それでノア様――」
ヨネシゲが質問を行おうとしたところで、ノアから待ったがかかる。
「ヨネシゲ殿、堅苦しいのは無しです! 様なんか付けなくていいですよ! ノアって呼んでください!」
「いやいや! 流石に呼び捨ては――ノアさんで良いですか?」
「ええ! それで構いませんよ」
フランクな接し方を望むノアの求めにヨネシゲが応じたところで、会話が再開される。
「そんじゃ、ノアさん。それで、このお店がウィンター様の行きつけの?」
ノアは「待ってました!」と言わんばかりに瞳を輝かせながら、ヨネシゲの問に答える。
「はいそうです! 旦那様が王都を訪れた際に立ち寄るお店がここなんですよ!」
ノアは語る。
無類の猫好きであるウィンター、王都へ出張の際は、必ずこの猫カフェに立ち寄るそうだ。
人前であまり感情を表に出さない彼だが、猫と接している際は、年相応の少年らしい無邪気で可愛らしい笑顔を見せるそうだ。
「――あんなにデレデレした旦那様の顔は他じゃそうそう見れませんよ」
「へぇ~。あの鉄仮面のウィンター様がねえ……」
ヨネシゲが抱いたウィンターの第一印象は「無表情な少年」だろう。時折、僅かに微笑んで見せることはあるが、人によっては「無愛想な少年」と感じるかもしれない。
だが、側近のノアはこう説明する。
「――旦那様は10代半ばとまだまだ幼い。故に周りから侮られまいと強がっておられるが、本当は少々気弱で、争い事を好まない、心優しい男の子なんですよ……」
「それがウィンター様の素顔ということですか……」
「ええ。生まれ持った才能と、この荒れに荒れたトロイメライが、旦那様に重責を負わせ、鉄の仮面を被ることを強要させているんです……」
ノアは憂いた表情で天井を見上げるのだった。
その後もヨネシゲたちは、絶品料理に舌鼓を打ちながら談笑を交わす。
――だが、それは突然起きた。
突然、地をも鳴らす轟音がヨネシゲたちの耳を襲う。
その瞬間、店内は一気にパニックと化す。
響き渡る客たちの悲鳴、猫たちの鳴き声。轟音に驚いた猫たちは、ヨネシゲの腕の中から飛び出すと、角刈り2人の頭を踏み台にして飛び越え、店の奥へと逃げ去っていく。
「――ヨネさん。俺たちの角刈り頭、まるでニャンちゃんたちの跳び箱っすね〜」
「ドランカド! そんな呑気なこと言ってる場合じゃねえ! それよりも今の爆発音は何なんだ!?」
ヨネシゲは、冗談を言うドランカドを一喝すると、席から立ち上がり、窓の外の大通りに視線を向ける。そこには、夜空に向って指をさす者、悲鳴を上げながら走り去っていく者たちの姿が見えた。
――ただ事ではない。
角刈りたちはノアと目を合わす。
「ノアさん! 様子を見に行きましょう!」
「了解です!」
「俺も行くっすよ〜!」
力強く頷く男たち。
すると、角刈り頭の手をソフィアが握る。
ヨネシゲは不安げな表情を見せる彼女に体を向けると、その両肩に手を添え、落ち着かすような優しい声で語り掛ける。
「――ソフィア、外は危ない。君はここで待っていてくれ」
「怖いよ……私を置いていかないで……もうあの時と同じような思いはしたくない……」
「ソフィア……」
改革戦士団によるカルムタウンの襲撃。それはソフィアに大きなトラウマを植え付けた。ヨネシゲはそんな妻の心情を察する――そばに居てあげたい。
だが、クボウ家臣となったヨネシゲは公人。もう一般市民と言える立場ではない。市民たちを守る立場にある。
「ソフィア、俺は行かなくちゃならない」
「嫌だ……離ればなれは……もう嫌だよ……」
瞳を潤ませるソフィア。ヨネシゲは力強く訴え掛ける。
「大丈夫だ! 例え離れていても、もう君を危険な目には遭わせない! 絶対にな! だから……俺を信じてくれないか? ソフィアは俺が守る! そして、必ず戻る!」
――あとは瞳で訴える。
「――あなた……約束だよ……」
「ああ! 約束するさ!」
互いの手を強く握る二人。
そしてソフィアは、瞳を閉じ、ヨネシゲに唇を向ける。角刈り頭は応えるようにして、自分の唇を彼女の額に当てた。
「お楽しみは取っておかないとな!」
「もう……あなたは……」
満面の笑みのヨネシゲに、ソフィアは微笑みを返した。
「クラークさん、妻とここで待っていてください!」
「かしこまりました! お気を付けて!」
「皆さん、気を付けてくださいね!」
ソフィアとクラークに見送られながらヨネシゲたちは店の外へと飛び出した。
――そして男たちは目撃する。夜空に浮かぶ巨大髑髏を。
――王都東保安署前。
改革戦士団第4戦闘長チェイスとその戦闘員十数名が、巨大髑髏が爆発した夜空を見上げる。
「フフッ、ダミアン。俺たちの復活を祝う祝砲、見てくれたか?」
一人笑いを漏らすチェイス。すると保安署の庁舎から続々と保安官たちが姿を現す。
「何者だっ!? 今のはお前たちの仕業か!?」
問い掛ける保安官にチェイスは冷酷な眼差しを向ける。
「それを調べるのが、アンタらの仕事だろ……!」
刹那。チェイスは右手を構えると、保安官たちに向かって、バチバチと音を立てる球体――白色の雷撃砲を放った。
至近距離から放たれた雷の砲弾は、瞬きする間もなく保安官の集団を捉える。運悪く雷撃の餌食になってしまった保安官たちの体は、雷撃と共に保安署庁舎の壁をぶち抜いた。
「さあ、お前ら。残りを一人残らず始末するんだ」
チェイスの命令を受けた戦闘員たちが一斉に保安官たちに飛び掛かる。一方の保安官たちも空想術でシールドを発動し、戦闘態勢に入る。
「新生・改革戦士団の進撃。お前らに止められるかな?」
立ち込める土煙の中、保安官と戦闘員の死闘が始まるのであった。
王都西側の歓楽街。
そこは、昼夜問わず男女が行き交う誘惑の街。夜を迎えた今、色鮮やかに発光するネオン管が妖しげな雰囲気を醸し出している。
一本路地へ入ると、そこは子供が立ち入る事ができない、大人の世界が広がっている。
ずらりと軒を並べる店の前には、露出の多い衣装を身に纏った若い女たち。そして彼女たちの姿を見て性欲を掻き立てられた男たちは、好みの女と一緒に店の中へと姿を消していく。店からは甘い声が漏れ出していた。
そして、とある若い女が路地を歩く。
お団子ヘアに結わえられた金髪。妖艶に口角を上げる厚い唇には、真紅の口紅。彼女が身に纏うのは漆黒のレザーのワンピース。極限まで短い丈は細くて長い美脚を曝け出し、大きく開けた胸元からは深い谷間。今にも零れ落ちそうなその大きな膨らみを揺らす。
一際色気を放つ彼女の正体は、改革戦士団第3戦闘長グレースだ。彼女は男性たちは勿論、女性たちの視線をも釘付けにさせる。
グレースは妖艶に笑いを漏らす。
「ウフフ……あなた達は幸運よ。だって、私に気持ちよくさせてもらえるんだから……!」
次の瞬間。彼女は全身から薄紅に発光する煙霧を放出させる。それは、周りにいた男女たちの身体に絡み付き、激しく発光を始めた。
刹那。男女たちに異変が起こる。突然、喜悦の声を漏らしながら地面に倒れたのだ。男女は満悦の表情で身体を痙攣させる。
「――みんな、イイ顔してるわよ……」
グレースはとびきり妖艶な笑みを浮かべながら、倒れた男女たちを見下ろす。すると、快楽に浸る一人の中年男が、声を振り絞りながら彼女に尋ねる。
「お……お姉ちゃん……名前を……教えて……よ……」
「ウフフ……私は改革戦士団のグレース。覚えておきなさい」
「グ……グレース……ちゃんか……ウヘヘ……ウヘッ……」
中年男は意識を失った。
彼女は倒れた男女たちに背を向けると、薄紅の煙霧を放出させながら歓楽街の中心部へと向かった。
王都北側の住宅街。
あちらこちらから火の手が上がっていた。
人々は悲痛な悲鳴を上げながら逃げ惑う。
その背後――空高くには百体近くの想獣の群れ。
想獣は逃げ惑う人々を追い掛け回すようにして、光線や火炎を吐き散らす。それを直に受けた者たちは一瞬にして灰と化してしまった。
その無差別攻撃を行う想獣の背中には、一人の青年の姿があった。彼は改革戦士団第6戦闘長ナイルである。この想獣軍団を操る想獣使いだ。
普段からクールを装う彼だが、今はその本性を剥き出しにしている。
「フハハッ! 想獣たちよ! 焼き尽くせ! 王都の街を! 逃げ惑う虫けら共を!」
ナイルは口から唾液を垂れ流しながら地上を見下ろす。
「一度記憶に刻み込まれた恐怖は、そう簡単に消すことはできねえ。そしてその恐怖は人々を支配する――」
想獣使いは両腕を広げながら高笑いを上げる。
「――つまりだ。お前たちは俺たち改革戦士団に支配されたも同然! これから一生怯えながら過ごすんだよっ! フハハハハッ!」
「――そうですか。それは見過ごすわけには参りませんね……」
「!!」
ナイルの高笑いが止まる。
彼の耳に届いてきたのは、少年の透き通るような声だった。
彼は恐る恐る右側方へ視線を向ける。そこには自身が跨る想獣と並走しながら浮遊する、銀髪少年の姿があった。
――そう。銀髪少年の正体はトロイメライの守護神、ウィンター・サンディだ。
だがナイルは、この少年が守護神だとは気付いていない様子だ。
「な、何者だっ!?」
「さて、何者でしょう?」
主の敵意に反応した後方の想獣が、口から光線を発射。ウィンターの背中を射抜いた。
その様子を間近で目撃したナイルは不敵に顔を歪ませた。だが、それは一瞬のことだった。
光線に射抜かれ絶命している筈の少年は、何事も無かった様子で自分と並走しているではないか。
ナイルは戦慄する。
「な、何故!? 俺自慢の想獣の光線が効いていない!? ありえねぇだろっ!?」
絶叫する想獣使いに、ウィンターは冷たい眼差しを向ける。
――そして、守護神の空色の瞳が青白く光る。
「――秩序を乱す外道なる者たちよ。八切猫神に代わって、私が裁きを下しましょう……!」
刹那。ウィンターを起点に、冷気の衝撃波が放たれた。
冷気の衝撃波はナイルを、百体近い想獣を一瞬で飲み込み凍結させる。と同時に氷塊とかしたナイルと想獣の身体は、結晶サイズまでに粉砕された。
氷の粒となった想獣軍団とその主は、月明かりに照らされながら、キラキラと王都の街に降り注いだ。
「――次は東側です……」
王都東部から放たれる悪意を察知したウィンター。時を凍てつかせると、悪意の元へと急行した。
王都東保安署前では、保安官と改革戦士団との間で激しい攻防戦が行われていた。双方共に多くの犠牲者を出しているが、改革側が優勢。戦闘員たちは空想術を駆使して保安官たちを追い詰めていく。
チェイスはその様子を眺めながら口角を上げる。
「まったく、期待外れだぜ。王都の保安官ならもう少し張り合えると思っていたが……」
狂気じみた笑みを浮かべながら猛攻を繰り返す戦闘員たち。保安官たちの士気も次第に低下していく。
「も、もうだめだ……俺たちの敵う相手じゃない……!」
「何弱気になっているんだ!? 諦めるんじゃねえ!」
ヒビ割れた、今にも砕け散りそうな光のシールド。それで敵の攻撃を受け止める保安官が天を見上げた。
「――ああ、神よ……どうか、我々をお救いください……」
光のシールドが限界を迎えたその時だった。
天から氷の矢が降り注ぐ。
氷の矢は改革戦士団戦闘員たちの心の臓を貫いた。
力を失い次々と倒れていく戦闘員たち。チェイスと保安官たちは矢が放たれた天を見上げた。そこには青白い光を身に纏う、銀髪少年の姿があった。
保安官たちが彼の名を叫ぶ。
「ウィンター様っ!!」
保安官たちの元に守護神が降臨する。
彼らの盾になるようにして、天から舞い降りてきたウィンターは、目の前の戦闘長に視線を向けた。
「ヘヘッ……守護神様のお出ましか……」
チェイスは口角を上げる。その額からは冷や汗が流れ落ちる。
「――悪いことは言いません。大人しく投降しなさい」
「そんなこと、聞けるかよっ!」
ウィンターに降参を促されるチェイス。だが、その提案をこの男が受け入れる筈もなく――
「守護神よっ! 俺の気合い玉、一発喰らってみなっ!」
チェイスはそう言い放つと、お得意の雷撃砲をウィンター目掛けて放った。
ニヤリと顔を歪ませるチェイスだったが、その表情は一気に驚愕したものへと変わる。
チェイス渾身の雷撃砲は、ウィンターの右掌に吸収されるようにして消滅した。
「――な、何をしやがった!?」
驚きを隠しきれないチェイス――その背中に凍りつくような感覚を覚える。
彼が背後へ視線を向けると、たった今まで前方にいたウィンターが、自分の背中に手を触れていたのだ。
「ヤバっ……!」
チェイスがそう思ったのも束の間。彼の動き――いや、彼の時間は、守護神の凍てつく空想術で停止させられていたのだ。
呆然と立ち尽くす保安官たちにウィンターが指示を出す。
「この男の動きを停止させました。今のうちに空想錠をかけて、身柄を拘束してください」
「りょ、了解しました!」
ウィンターは敬礼する保安官たちに軽く微笑み掛けると、次なる悪意の放出地、西の歓楽街へと向かった。
その西の歓楽街では、薄紅の煙霧が猛威を振るう。
歓楽街を通行していた人々は、煙霧に襲われ、路上で意識を失っていた。そんな倒れた通行人を眺めながら、グレースは一人笑いを漏らす。
「ウッフッフッフッ! 皆さん、そんなに気持ち良かったですか? 我慢して起きていれば、もっと気持ち良くなれるのに――」
歓楽街に降り立った守護神は、そんな彼女の背中を捉えた。
「――なんて酷いことを……」
痴態を曝け出す男女たちの姿を目にして、ウィンターは嘆いた。
そんな彼の気配を察したグレースが背後に視線を向ける。
「ウフフッ! あら〜! なんて可愛らしい男の子なの〜!」
「!!」
突如、背後に現れた自分好みの美少年に、グレースは舌舐めずり。
「あれあれ? 坊や、今までどこに隠れて居たのかな? まあいいわ。お姉さんね、君みたいな可愛い男の子が大好物なの――」
「………………」
グレースは無言のウィンターに語り掛けながらゆっくりと歩みを進める。そして、ウィンターを抱きしめられる距離まで迫ったグレースは、小柄な彼を見下ろしながら、その色白の頬に手を伸ばす。
「さあ、おいで。お姉さんが色々と教えてあげ――」
刹那。グレースの動きが停止した。
ウィンターは彼女からゆっくりと後退りすると、ほっと胸を撫で下ろす。
「――はぁ。本当に怖かった……」
ウィンターは、ちょっぴりだけ瞳から溢れた涙を指で拭うと、歓楽街の上空へ浮上。そして地上へ向かって、治癒効果がある氷のミストを降り注いだ。
「これで、街の皆さんは直に目を覚ますでしょう……」
氷のミストが到達した地上。程なくすると人々は意識を取り戻した。
停止したグレースの身柄は、通報を受けた保安隊によって拘束された。
この時、守護神は新たな悪意を察していた。その悪意は今までとは比べものにならない程、邪悪に満ちていた。
「――これは……まずいですね……」
ウィンターは王都南部へと急いだ。
――ちなみに、守護神が三人の戦闘長を制圧するまでに掛かった時間は、僅か一分程だった。
大混乱の南部飲食街。
次々に上がる火の手、逃げ惑う王都民。
黒髪の隻眼――改革戦士団最高幹部のダミアン・フェアレスは、悪びれた様子もなく、王都の街に火炎を放射する。その背後には桃色髪の女――幹部ジュエルが続いていた。
ダミアンは、途中にあった屋台から掠めた骨付き炙り肉を頬張りながら、高笑いを上げる。
「ハッハッハッ! 王都も案外脆いもんだな。まだ南都の方がタフだったかもしれねえぞ?」
「ダミアン、油断は禁物。ほら、敵襲だよ」
ジュエルの指差す先には、王都領軍の兵士団が迫っていた。
「貴様かっ!? 街に火を放っているのは!? これ以上の蛮行は許さんぞっ!!」
兵士たちは、大剣を構えながらダミアンに斬りかかる。
「あーっ。うるせー!」
ダミアンは右手を構えた。
次の瞬間。その掌から赤色の光線が放たれた。
周囲に走る強烈な閃光。
光線の進路上に居た兵士団、建ち並んでいた建物は跡形もなく消え去った。
ダミアンは顔を歪ませる。
「これじゃ……準備運動にもならねえぞ、おい」
――強烈な閃光が轟いた場所へ急行する一行は、ヨネシゲ、ドランカド、ノアの三人だ。
ヨネシゲは額に汗を滲ませながら、ドランカドと言葉を交わす。
「――こりゃ、とんでもねえことが起きてるぞ!」
「そうっすね。まるで、ブルームの夜戦を見ているようだ……」
「縁起でもないこと言うんじゃねえ……」
二人の後方を走っていたノアが前方を指差す。
「ヨネシゲ殿。先程の閃光、あの曲がり角を左に曲がった辺りですよ!」
「了解です! 気を引き締めて行こう!」
「「おうっ!」」
角刈り一行は、曲がり角を左折――足を止めた。
――そこには、漆黒のレザーコートを羽織る黒髪青年の後ろ姿があった。
「おい、コラッ! お前の仕業かっ!?」
怒鳴るヨネシゲ。
黒髪青年が背後に視線を向ける。
その青年は隻眼。ヨネシゲの顔を見て一瞬驚いた表情を見せるも、直ぐに狂気じみた笑みを見せる。
「――へぇ。まさか、アンタがここに居るとはな……」
一方のヨネシゲ。顔を強張らせた。
「――ダミアン……!」
突如、目の前に現れたのは、因縁の敵――妻子の命を奪った悪魔だった。
――鉄拳と魔拳、交わる。
つづく……




