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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(王都編)
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第194話 ドリム城までの道中

 東西南北の関所から伸びる石畳のメインストリートは、王族の居城「ドリム城」へと続いている。

 その沿道には、貴族の屋敷や役所、大型商店や飲食店などが建ち並んでおり、連日多くの貴族や王都民で賑わっている。


 南部関所から王都に入ったヨネシゲ、ソフィア、シオンの三人は、正面に聳え立つ、夕色に染まったドリム城を目指していた。

 その道中には、ヨネシゲが密かに惹かれつつある「快速靴」の専門店や、ソフィアやシオンが喜びそうなアクセサリー店や洋服屋があった。

 もし、マロウータンが関所で足止めを喰らわなかったら、これらの店に立ち寄っていたことだろう。だが今は、主君の生存を証明するため、急ぎ足でショッピング街を駆け抜ける。

 ヨネシゲは残念そうな笑みを浮かべながら、ソフィアに声を掛ける。


「王都を散策するのは明日以降になりそうだな……」


「うん、仕方ないよ。もし明日、時間があったら、さっきのアクセサリー屋さん見てみたいな」


「おう! 行こう行こう! ついでにその斜め向かいにあった快速靴の店、寄ってもいいか?」


「ええ。もちろんよ!」


 楽しそうに言葉を交わすクラフト夫妻。二人を先導するようにして歩みを進めていたシオンが申し訳なさそうに言う。


「ヨネシゲさん、ソフィアさん、ごめんなさい。お父様が生存していることを事前に王都側に根回ししておけば、このような事にならずに済んだのに……」


 角刈りはシオンを気遣う。


「いやいや、仕方ありませんよ。メテオ様がタイガーに言いくるめられない為にも、王都へ急ぐ必要がありましたからね。根回しする時間がなくても当然です」


「――お気遣いありがとうございます。ヨネシゲさん!」


 シオンは満面の笑みをヨネシゲに向けた。

 そして、ヨネシゲは思う。


(なんて可愛らしい眩しい笑顔だ。申し訳ないが、あのマロウータン様の娘さんとは到底思えん……)


 ヨネシゲはさり気なく探りを入れることにした。


「シオン様。とても素敵な笑顔ですね」


「なっ!? ……そ、そうでしょうか?」


 ソフィアも角刈りに便乗する。


「ええ、とても素敵で可愛らしい笑顔ですよ。まるで女神様みたいです」


「め、女神様ですか!? 女神様みたいなソフィアさんに褒められると、照れてしまいますね……」


 シオンは両頬に手を添えながら顔を真赤に染める。そんな彼女にヨネシゲが尋ねる。


「やはり、シオン様はお母様似なのですか? 愚問ながら、マロウータン様似ってことは無いですよね?」


 マロウータン似などあっちゃいけねえ。ヨネシゲがそんなことを思っていると、シオンが豪快に笑う。


「フッハッハッハッハッ! ご覧の通り、私の顔はお父様には似ておらず、お母様似です」


 ヨネシゲは恐る恐る尋ねる。


「そ、そうですよね! ちなみに……お母様はどちらに?」


 シオンの母親――つまり、マロウータンの妻に関してヨネシゲは、一切の情報を知らない。先の戦もあり、聞く余裕も無かったが、思い返してみればマロウータンが妻について語ることは一回も無かった。

 語りたくない理由でもあるのか?

 現実世界で妻ソフィアを亡くしたヨネシゲ。確かに自分の妻が殺害されたことなど、自ら好き好んで話すことはなかった。

 ――だとしたら、マロウータンにも自分と似たような過去が?

 そうなると、シオンには悪い質問をしてしまったかもしれない。

 ヨネシゲが後悔し始めた時、シオンから意外な言葉が返ってきた。


「あら? お父様から聞いていませんの? お母様は――この王都に住んでいます」


「え? 王都に……ですか……?」


 ヨネシゲは首を傾げる。

 マロウータンらクボウ家は南都を所縁とする「南都貴族」。当然、その妻も南都で公務を行っていたはずだ。しかしシオンは、母が南都から遠く離れた王都に住んでいると話す。


(まさかの別居か!? いや。南都での戦火を逃れるため一時的に王都で生活しているのかも……)


 ヨネシゲの脳内に憶測が飛び交う。

 だがすぐにシオンが事情を説明する。


「――母は、私が幼い頃から王都で生活しております。陛下のご命令でね……」


「国王の命令ですか?」


「ええ。これは私の母だけではありません。親・国王派とされる南都貴族やその他の貴族、あのカルム領主カーティス様の奥様も王都のお屋敷で生活されております」


「カーティス様の奥様も!? 一体何故――ま、まさか……!?」


 不可解な話だ。そう思っていたヨネシゲだったが、その全てを察した。

 シオンは悲しげな笑みを浮かべながら頷く。


「――ええ。私の母は人質。お母様は王都と言う名の鳥かごに閉じ込められているのです――」


 刹那。時報の鐘と共に生暖かい風が吹き抜ける。


 親・国王派とされる貴族の妻たちは、国王ネビュラに人質として差し出されていたのだ。


 ショッキングな事実にヨネシゲとソフィアが表情を曇らす。シオンはそんな夫妻を気遣うようにして言う。


「でもお母様、案外王都での生活を満喫しておりますのよ。それに――」


 シオンは微笑む。


「毎年、お母様の誕生日には、お父様と一緒に王都を訪れております。お母様とは半年前にお会いしましたが、今日私たちが顔を出したら、さぞ驚くことでしょうね!」


 そしてシオンは呟く。


「――早く、お母様に会いたいな……」


 クラフト夫妻は互いに顔を見合わせると、シオンの両隣に並ぶ。


「シオン様。関所の件、早いところ片付けてしまいましょう!」


「そうすれば、お母様とゆっくり過ごす時間が増えますよ?」


「そうですわね! 急ぎましょう!」


 三人は互いに顔を見合わせ笑みを浮かべると、ドリム城へ急いだ。






「――で・す・か・らっ! 私はマロウータンの娘、シオン・クボウですよ!? 事情を話せばメテオ様もきっと理解してくれる筈です。だから早くメテオ様に会わせてくださいよ!」


「事情はわかりましたが……いきなり会わせろと言われましてもね〜」


「まったく! 話がわからない殿方ですわねっ!」


 ドリム城前に到着したヨネシゲたち。城門で足止めを食らっていた。

 門番に訴えるシオン。時折彼女の口から聞いてはいけないような言葉も出てくるが、ヨネシゲとソフィアはその後ろ姿を静かに見守る。


(――城門で足止めか。なんとなく予想はできていたが……やっぱりこうなるよな……)


 大きく息を漏らすヨネシゲ。


 その時だった。

 城門の内側から一人の老年男が姿を現した。


「一体、何の騒ぎだ?」


 ヨネシゲとシオンは老年男の顔を見た瞬間、大声でその名を叫ぶ。


「「バ、バンナイ様っ!?」」


 そう。その老年男は、一度は主君を裏切ったものの、その主君を守るため捨て身でブルーム平原で戦った老将――南都五大臣「バンナイ」だった。




 ――その頃。王都メルヘン「東部関所」。


「おっ、来たぞ! コッテリオ伯爵の馬車だ! 直ぐにお通しするのだ!」


「ほらほら、君たち! 下がって、下がって! 伯爵様の馬車の進路を塞いじゃだめだ!」


 関所の保安官たちは、群がる一般市民たちを掻き分け、馬車の進路を確保する。

 その直後、カーテンが閉められた銀色の馬車とその護衛たちが、無条件で関所を通過していく。保安官たちは敬礼し、一行を見送った。


 その馬車の内部には、眼帯を装着した黒髪の青年と、桃色髪の若い女の姿があった。

 黒髪眼帯の青年は、甘ったるいドーナツを齧りながら、言葉を漏らす。


「――フフッ。こんな簡単に通過できるとはな。総帥さんの言った通りだぜ……」


「鉄壁の守りと呼ばれる王都にも抜け目はあるわ。そして――硬い殻に覆われたその中味は、想像以上に柔らかい――」


 桃色髪の言葉を聞き終えた黒髪眼帯が不気味な笑顔を見せる。


「――なら、その柔らかい黄身は掻き回してやらねえとな!」


 黒髪眼帯が桃色髪に尋ねる。


「で? これからどこに向かうんだ?」


「コッテリオ伯爵の舎弟――ワイロ男爵の屋敷よ。そこでこの馬車を乗り捨てる。王都に入った今、もうこの馬車は用済みだからね」


「了解。馬車はもうお荷物ってことだな。それにしても――」


 黒髪眼帯は咀嚼していたドーナツを床に吐き出す。


あのおっさん(コッテリオ)、こんなクソ不味いドーナツをよく食えたもんだ。砂糖の塊だろこりゃ……」


 黒髪眼帯は、持っていた激甘ドーナツを投げ捨てると、口直しのフライドチキンに手を伸ばした。


 そして、黒髪眼帯はカーテンを開き、夕色に染まるメルヘンの街並みを見渡す。


「フフッ、今夜が楽しみだ。南都の鬱憤を晴らさせてもらうぜ!」


 銀色の馬車とその護衛兵たちは王都の街中へと姿を消した。



つづく……

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