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第18話 黒髪の炎使い



 黒髪の炎使いの正体はダミアンだった。

 そしてメアリーの話を聞くうちに、入院前のヨネシゲの行動が、次第に明らかになっていく。


「約一週間前の夜中、カルムタウンの北側にある森へ向かうシゲちゃんを何人かの人が目撃してるの」


「北側の森へか?」


「そうよ。そしてシゲちゃんが森へ向かうちょっと前に、怪しげな黒尽くめ集団も森へ向かってたそうよ」


「怪しげな黒尽くめ集団?」


「恐らく、シゲちゃんはその集団を追っていたんじゃないのかしら?」


 メアリーの推測によると、カルムのヒーローと呼ばれ正義感の強いヨネシゲは、怪しげな黒尽くめ集団を追って森へ向かった。あわよくばその怪しげな集団を退治するつもりだったが、ヨネシゲは返り討ちにあったのだとメアリーは話す。

 更にその怪しげな黒尽くめ集団の中には、ダミアンの姿もあったらしい。

 メアリーの推測にヨネシゲが疑問を投げかける。


「でもよ、姉さん。ダミアンとその黒尽くめ集団は何の関係があるっていうんだ?」


「改革戦士団よ」


「改革戦士団? 何だそれは?」


 改革戦士団。ヨネシゲが初めて聞く言葉であった。早速ヨネシゲは改革戦士団についてメアリーに説明を求める。


「改革戦士団。黒髪の炎使い、つまりダミアンが率いているとされる新手の武装集団よ」


 メアリーは更に説明を続ける。

 改革戦士団と呼ばれるメンバーたちは黒尽くめの衣装を身に纏った武装集団。それに加え強力な空想術を自在に使いこなす者も多数いるらしい。

 彼らは反王国を掲げ、王国内に点在する軍や保安局の施設を襲撃し、多数の死傷者を出しているらしい。時には民間人相手にも躊躇いなく危害を加えており、見過ごせない集団となっている。


「黒髪の炎使いと改革戦士団は罪のない民間人にも手を出してる。本当に許せない連中だわ!」


「ダミアンの野郎、本当奴は野蛮な野郎だ……!」


 メアリーは怒りを顕にする。一方のヨネシゲもダミアンがこの世界でも悪事を働いていることに怒りを隠しきれない様子だ。

 するとメアリーはヨネシゲにある疑問を投げかける。


「そういえば、シゲちゃん。ダミアンのこと知ってそうだけど? 面識あるの?」


「え、いや。確かあの時、あの男がダミアンと名乗っていた記憶があったからさ。それに奴の行動は常軌を逸していたから記憶に焼き付いている」


 メアリーにダミアンを知ってるのかと問われ、ヨネシゲは咄嗟に誤魔化す。ヨネシゲは記憶の一部を失った人間ということになっている。下手に知ってるなどと答えると、後々の説明が面倒であり、ボロも出ることだろう。

  

 一方のヨネシゲも姉に対してある疑問を抱いていた。それは何故ここまで詳細な情報を知っているのかだ。


「そういえば姉さん。何でこんなに情報を持ってるんだ?」


 メアリーは待ってましたと言わんばかりのドヤ顔を見せると、ヨネシゲの質問に答える。


「私は元軍人よ。軍や保安局には知り合いが大勢いるから、その辺の情報は入手が容易いのよ」


「なるほどな……」


「シゲちゃんが森で倒れていた原因を探るため、あちこち聞き回ったんだからね」


「ありがとな、姉さん」


 メアリーは元軍人。階級もそれなりに高かった。故にメアリーが情報を欲しがると、彼女を知る人々はあっさり情報を提供してしまうのだとか。


(情報の管理に少々疑問はあるが、このフットワークの軽さは流石姉さんだよ)


 メアリーが一通り、黒髪の炎使いの説明を終えたところで、ルイスが庭に現れる。


「おばさん、トムが寝ちゃったよ」


「あらま。それじゃ、そろそろ帰らなくちゃね。今そっちに行くよ」


 ルイスはメアリーに要件を伝えると家の中へと戻っていく。そしてメアリーが再びヨネシゲに体を向ける。


「この話はまた時間がある時にしましょう」


「おう、そうだな。さあ、トムの所に行ってやりな」


「わかったわ」


 ヨネシゲとの会話を終えたメアリーは足早に家の中へと戻っていく。


 一人庭に取り残されたヨネシゲは夜空を見つめながら、メアリーとの話を振り返る。

 ヨネシゲはダミアンという不穏分子が、この世界に存在していることに憤りを感じていた。


(ダミアンの野郎、この世界にも存在しているなんて。やはり、少なからず俺の記憶が反映されているのか?)


 この世界はソフィアの描いた物語の世界と、ヨネシゲの記憶と空想が入り混じっている模様。もしそうだとしたら、あのダミアンが現れても不思議でもない。


 ヨネシゲの全身に悪寒が走る。


(もし奴が、またソフィアとルイスを襲ってきたら……!)


 ヨネシゲの額から大量の汗が流れ出る。


(奴の好きなようにはさせない。絶対にさせんぞ! 2人は俺が何が何でも守り切る!)


 ヨネシゲは拳を強く握りしめながら、ダミアンの魔の手から妻子を守り切ることを心に誓うのであった。



 楽しかった夕食会もあっという間に終わりを迎えた。気付けば夜も耽っていた。

 ヨネシゲはソフィアとルイスと共に、メアリーたちを見送るため、家の外に出ていた。

 メアリーは眠ってしまったトムを背負い、リタは先程ヨネシゲが貰った見舞いの品をいくつか譲り受け、両腕に抱えていた。

 そしてヨネシゲは2人にお礼の言葉を述べる。


「姉さん、リタ。今日はありがとな。楽しかったよ。トムにも起きたらお礼を言っといてくれ」


「わかったわ。私もシゲちゃんの元気そうな姿が見れて安心したわ」


「まあ、おじさん。今日はゆっくり休みなよ」


「おう。そうさせてもらうよ」


 ヨネシゲの後にソフィアとルイスもお礼を述べると、メアリーたちは別れの挨拶をして、帰路につくのであった。


「さあ、夜は冷えるから、早く家の中に入りましょう」


 ソフィアはそう言いうと家の中へ入っていき、ルイスも後に続いた。その2人の後ろ姿をヨネシゲは見つめていた。


(ダミアンがこの世界に存在しているということは、ソフィアとルイスをまた襲うかもしれない。それだけは何としても阻止せねば!)


 ヨネシゲは先程のメアリーとの会話で、ダミアンがこの空想世界にも存在していることを知る。

 この世界で黒髪の炎使いと呼ばれるダミアンは蛮行を働いており、人々の脅威となっている。その脅威はヨネシゲにとっても例外ではない。

 実際ヨネシゲは、現実世界でダミアンにソフィアとルイスを殺されている。ダミアンがソフィアたちに再び魔の手を伸ばすことは十分に考えられる。


(今度こそ俺は2人を守り切る! 2人の幸せを守るんだ!)


 ヨネシゲが強く心に誓っていると、ソフィアが玄関の扉を開けて顔を覗かせる。


「あなた、風引いちゃうわよ。早く中に入ってきな」


「お、おう! 今行くよ!」


 ヨネシゲはふくよかな腹を大きく揺らしながら、小走りで家の中に入ろうとする。ソフィアはそんなヨネシゲを見てクスッと笑いを見せるのであった。




 ――風呂を済ませたヨネシゲは、リビングでソフィアとホットミルクを飲みながら談笑していた。ルイスは一足先に床に就いているようだ。

 ソフィアとの会話でこの世界でのヨネシゲの年齢も判明する。ヨネシゲも例外なく3年前の年齢の40歳だそうだ。しかし、ヨネシゲに若返った実感はない。鏡を見ても普段の自分と何ら変わりもない。それに自分の年齢など大して興味はなかった。


(40も43も大して変わらんよ。健康な体であればそれでいい)


 それからしばらくソフィアとの会話を楽しんでいたヨネシゲであったが、突然睡魔に襲われる。ヨネシゲが大きな欠伸をすると、ソフィアに今日はもう休むよう促される。


「今日は色々あって疲れたでしょ? もう寝たほうがいいわよ」


「ああ、そうだな。今日は突然の退院から始まって、チンピラ退治、そして姉さんたちと夕食会と盛りだくさんだったからな。流石の俺も疲れたよ。だけど、とても楽しかった」


 ソフィアが頷く。


「ええ、私もよ。あなたの元気そうな姿が見れて嬉しかったわ。ルイスも凄く喜んでいたんだからね」


 ヨネシゲは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「そうか、よかった。じゃあ、俺は寝るよ」


「おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 何はともあれ、無事退院したヨネシゲにソフィアはとても安心している様子だ。

 そしてヨネシゲは2人の温かさに触れて、心が満たされていくのであった。まるで失われたものを取り戻すかのように。



つづく……

最後までご覧いただき、ありがとうございます。

次話投稿は、明日の12時半頃を予定しております。

次回もお読みいただけると幸いです。

よろしくお願い致します。

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