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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(カルム・ルポ編)
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第183話 クボウ父娘

 診療所職員の控室。

 その部屋のベンチ椅子の上には、シオンが横たわっていた。

 先程シオンは、亡くなった筈の父マロウータンと再会を果たす。しかし父の顔を見て安心したのか、張り詰めていた緊張の糸が切れ、彼女は意識を失い倒れた。

 無理もない。ここ(ルポタウン)に来てから、骨身を惜しまず急病者の治癒を行っていたのだから。


 シオンが眠るベンチ椅子の前には、丸椅子に座り、娘の手を握る、父マロウータンの姿。その隣には老年執事のクラークが控えていた。

 ヨネシゲと、戦場泥棒ブラザーズのイッパツヤとイヌキャットが少し離れた位置からその様子を見守る。


 マロウータンは眠り続ける娘に語り掛けるようにして、口を開く。


「すまんのう。本当はベッドの上で寝かしてやりたいのじゃが、生憎全て埋まっておってのう……」


 謝る白塗り顔だったが、優しい微笑みを浮かべていた。


「――じゃが、無事で良かった……」


 マロウータンの瞳からは一筋の涙が流れ落ちていく。その涙をクラークが持っていたハンカチで拭ってあげる。


「――旦那様もご無事で、本当に良うございましたな」


「うむ。爺よりも先に死ぬことはできぬからのう。爺も無事で何よりじゃ!」


「嬉しいお言葉です! 爺は感激の余り涙しますぞ!」


「まったく。爺は大袈裟じゃのう」


 互いに無事を喜ぶ二人の主従。


 すると突然、シオンがうめき声を上げる。


「うっ……うぅ……ぬぅ……」


「シ、シオン!? 大丈夫か!?」


「お嬢様! しっかり!」


 慌てた様子でベンチ椅子の上の姫に声を掛ける白塗り顔と執事。ヨネシゲと戦場泥棒ブラザーズが心配そうにその様子を見守る。


 程なくすると、シオンがゆっくりと瞳を開く。マロウータンは娘の顔を覗き込んだ。


「――シオン……目覚めたか……」


 彼女はまだボーッとした様子だが、父親の声と顔ははっきりと認識できている様子だ。

 そしてシオンが尋ねる。


「――お父様……どうしてここに……? 亡くなったと聞いておりましたが……」


 マロウータンは微笑みを浮かべながら言葉を返す


「――それは誤報じゃ。どこかのヤブ軍医が、勝手に儂を死亡判定(殺した)のじゃ。じゃが安心いたせ。儂はこの通り――生きておる!」


 シオンは体を起こすと瞳を潤ます。


「夢では……ないのですね……?」


「誠じゃ。父はのう、娘の晴れ姿を見るまでは、地獄の淵からでも這い上がってくるぞ!」


「お父……様……」


「――爺から聞いたぞ。辛い状況だったというのに、他領(カルム)の民のためによく尽くしてくれたな。大儀じゃった。そなたは、強いクボウの女子――儂自慢の娘じゃ!」


「お父様っ!」


 次の瞬間。シオンは父親の胸に飛び込む。マロウータンは泣きじゃくる娘を優しく抱きしめる。


「――私っ……お父様が亡くなったと聞いて……現実を受け入れられなくて……夜が怖くて……眠れなくて……!」


「――気苦労掛けたのう……」


「本当に……本当に……無事で良かった……!」


「儂も……こうしてまた、娘を抱きしめることができて、幸せじゃ……」


 再会を喜び合う親子。

 その様子を号泣しながら見つめる戦場泥棒ブラザーズだったが、ヨネシゲに肩を叩かれる。


「――俺たちが居たら再会の邪魔になる。外に出よう」


「グスン……そうっすね……旦那の邪魔しちゃいけねえ……」


「本当に良かったワン……もう少しだけ、この感動的再会を見ていたいけど……邪魔しちゃ悪いニャン……」


 ヨネシゲたちは、クボウ親子の再会を横目にしながら診療所を後にした。その表情はとても晴れやかだった。



 ――その後、戦場泥棒ブラザーズと別れたヨネシゲは、ソフィアたちが待つテントへ戻る。


「みんな! ただいま!」


 ヨネシゲは元気な声と共にテントの入口を開くも、その中にソフィアたちの姿はなかった。


「あれ? どこに行ったんだ?」


 ヨネシゲが不思議そうに首を傾げていると、背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。


「ヨネさ〜ん! おはようございます!」


「おお、ドランカドか。おはよう!」


 そう。ヨネシゲの元を訪れてきたのは、相棒ドランカドだった。

 ドランカドはヨネシゲの前までやって来るやいなや、気が抜けた声で口を開く。


「ヨネさん。朝飯食いに行きましょうよ〜。俺、もう腹ペコっすよ〜」


「そういや……朝飯まだだったな……」


 ドランカドの言葉を聞いて、急にヨネシゲの腹が鳴り出す。

 白塗り顔の襲来により早朝から振り回されていたヨネシゲ。当然、朝食など食べている余裕はなかった。

 待ちに待った朝食タイムといきたいところだが、その前に確認しておくことがある。


「ドランカド。ソフィアたちが居ないんだが……彼女たちの姿を見てないか?」


「あれ? 聞いてないんですか? ソフィアさん達ならリサさんと一緒に炊き出しの手伝いに行ってますよ」


「炊き出しか……」


「ええ。この広場で避難生活を送ってる者たちには、朝昼晩、炊き出しの料理が振る舞われているらしいっすよ」


「なるほどな……」


「ということで、ヨネさん。とりあえず朝飯食いに行きましょう! 積もる話はそれからと言うことで」


「積もる話?」


「またまた惚けちゃって。知ってますよ、仕官の話……」


「いつの間に……」


「盗み聞きしたつもりは無いんですけどね。今朝ヨネさんのテントを訪れたら、中からそんな会話が聞こえてきましたから……」


「そうだったか……」


 ヨネシゲは雲一つない青空を見上げながら、顎に手を添えた。



つづく……

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