表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(カルム・ルポ編)
180/399

第174話 白塗り顔は突然に(前編) 【挿絵あり】

 夜暗に浮かぶ白塗り顔。

 それはまるで幽霊のようだ。

 余りにも恐ろしく、不気味な光景に、中年男は腰を抜かし動けなくなっていた。彼だけではない。中年男の悲鳴を聞き、駆け付けた数名の市民たちも目の前の白塗り顔を見て体を震わせていた。

 そこへ駆け付けたヨネシゲ。彼は白塗り顔を見るやいなや、驚愕の表情を見せる。

 

「あ、あれはっ!?」


 ヨネシゲは後退りする。

 何故ならば、もうこの世に存在しないはずの男が目の前で直立しているからだ――


「マ、マロウータン様だ……!」






    挿絵(By みてみん)






 ヨネシゲが漏らした言葉に、市民たちは顔を青くさせる。

 

「え? だってよ、ヨネさん。マロウータン様って……ブルーム平原で……亡くなったんじゃ……?」


「そ、そうだよ……」


 ヨネシゲも顔を真っ青にさせながら、首を縦に振った。

 一同、白塗り顔を凝視。

 市民の一人が唇を震わせる。


「つ、つまり……あれは……」


 ヨネシゲが叫んだ。


「マロウータン様の亡霊だ〜っ!!」


『うわぁぁぁぁっ!!』


 ヨネシゲたちは白塗り顔に背を向けると、一斉に走り出す。

 

 ――逃げる、逃げる。逃げる!

 ヨネシゲたちは、マロウータンの亡霊から全速力で逃げ始める。


(どうなってやがる!? この世界には幽霊までも存在するのか!?)


 動揺を隠しきれないヨネシゲ。

 すると背後から甲高い中年男の声――ヨネシゲの名を叫ぶマロウータンの声が聞こえてきた。


「ヨネシゲ〜! 待たぬか〜!」


「うわぁっ!!」


 ヨネシゲが背後に視線を向けると、絶叫の表情を見せるマロウータンの姿があった。そしてマロウータンはヨネシゲとの間合いを瞬く間に縮める。

 ヨネシゲは悲鳴を上げた。


「た、頼むから来ないでくれぇぇぇっ!!」


 必死になって走るヨネシゲたち。


 ――無情にも、白塗りの魔の手が彼らを襲う。


「無礼者っ!!」


 夜暗を切り裂く甲高い声。と同時に「ぺしんっ!」という、乾いたような打撃音が数回響き渡った。


「……な、何故、幽霊がハリセンを……」

 

 ヨネシゲは頭を押さえながら蹲る。

 そこへ騒ぎを耳にしたソフィア、ドランカド、多くの市民たちが駆けつけてきた。

 彼女たちが見た光景とは、蹲るヨネシゲたちと、ご立腹の様子でハリセンを握り仁王立ちするマロウータン。


 ――状況が飲み込めない。

 一体何があったというのか?

 呆然と立ち尽くすソフィアたちであったが、ドランカドがマロウータンに恐る恐る問い掛ける。


「あの〜、すんません……マロウータン様、お亡くなりになられたのでは……?」


「無礼者っ! 見てのとおり、生きておるわっ!」


 彼に問い掛けられると、マロウータンは悔しそうな表情を浮かべ、大粒の涙を零す。


「酷い……酷いぞよっ! 儂を生き埋めにして置いてきぼりにするとは、あまりにも酷い仕打ちじゃ! 一体、儂が、何をしたというのじゃっ!! うわあぁぁぁん!!」


 声を荒げて泣き叫ぶマロウータン。そんな彼にヨネシゲが尋ねる。


「し、しかし……瀕死の重傷を負っていたのは事実じゃないですか。あの埋葬された状態から、どうやって復活されたというのですか?」


 ヨネシゲに尋ねられた途端、マロウータンはピタッと泣き止む。そして何故か誇らしげな表情で懐からある物を取り出した。


「これじゃ!」


「バ、バナナ……?」


 ヨネシゲは目を丸くさせる。

 ドヤ顔を見せるマロウータンの右手には、一本のバナナが握られていた。

 一体このバナナが、彼の奇跡の復活と何の関係があるというのか?

 困惑するヨネシゲ。その隣でドランカドが納得した様子で頷く。


「なるほど……そういうことか!」


「ドランカド。どういうことなんだ?」


 透かさずヨネシゲが説明を求めると、ドランカドがバナナに隠された秘密について解説を始める。


「バナナなどの果実には、空気中のものを遥かに上回る量の具現体が凝縮されているんです。そして俺たち想人は怪我を負ったりすると、体内から自己再生想素を放出させるんですが、一般的にその想素の放出量は空気中の具現体の濃度で左右すると言われています」


「つまり、マロウータン様と一緒に埋葬したバナナが自己再生想素の放出を増進させ、回復を早めたと?」


「そのとおりじゃ!」


 ドランカドの説明を聞いてマロウータンが満足気に頷く。

 

 想人(人間)は空想術を使用する際、脳内で思い描いた光景を想素に変換して体外へと放出する。そしてその放出された想素と、空気中の具現体が結合することで初めて空想術の現象が発生する仕組みだ。

 また、想人は自分の意思とは関係なく、微量の生命維持想素を脳から常に放出させている。その内の一つに自身の怪我や病気などを回復させるための自己再生想素がある。自己防衛本能と言ったところだろうか。

 自己再生想素もまた、具現体と結合することで治癒効果が得られる。


 一方の具現体。

 具現体という物質は、この星に存在する全てのものを形成していると言われている、非常に重要な存在だ。

 具現体の核は、この星の奥底に眠っており、地上に直接的な影響は与えていない。

 地上の生物や物体に影響を与えるとしたら、トロイメライ王都を含む、この世界の4箇所の地中に埋まっているとされる「具現岩」の存在だ。

 具現岩は、とてつもない質量を持つ具現体の塊であり、この具現岩から放出される具現体は生物や物体の維持に欠かせない。

 また、具現体が含まれた土で育ったバナナなどの果実には、具現体が高濃度で凝縮されており、生命維持想素と結合することもある。

 恐らく、マロウータンの傷付いた腹の上に置かれたバナナが、自己再生想素の具現化と放出を促し、早期回復に至ったのだろう。

 もっとも、あれだけの傷を負っておきながら命を落としていないのだから、彼の生命力の高さは相当なものだ。



つづく……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ