第167話 ルポの街(前編)
日が沈み掛けた頃。
ヨネシゲたちは瓦礫と焼け野原のカルムタウンで、家族の居場所を知る手掛かりを探り始める。
先ず彼らの視界に飛び込んできたのは、ここから少し離れた場所で動き回る数十名の人影。その人影は単独行動をしている模様で、映し出される視界全体に散らばっていた。
ヨネシゲたちは互いに顔を見合わせる。
「とりあえず、あそこに居る人たちから情報を聞き出してみようぜ。何か知っている筈だ」
「そうっすね。皆で手分けして虱潰しに探ってみましょう!」
男たちは頷くと人影目指して走り出した。
やがて、その姿が徐々に鮮明になっていく。
――人影の正体。それは、行方不明となった家族を探し回る、老若男女たちの姿だった。
その表情は憔悴仕切っており、我が父、我が母、我が子の名前を掠れた声で何度も呼び続ける。
――とても情報を聞き出せる状態ではなかった。
ヨネシゲの瞳から涙が零れ落ちる。
(何故!? 何の罪もない彼ら彼女らが……こんな辛い思いをしなくちゃいけねえんだ!? 可笑しいだろ!?)
ヨネシゲは、やるせない気持ちを込めて、拳を強く握りしめた。
(絶対に、絶対に許さねえからな! 改革戦士団!!)
怒りと悲しみで身を震わすヨネシゲ。その隣でドランカドがある一行を発見する。
「――あれはっ! カルム署の保安官たちだ!」
ヨネシゲたちは、ドランカドが指差す方角へと視線を向ける。
そこには、青色の活動服に身を包んだ十数名の保安官たちが、周囲を見渡しながら移動していた。恐らく行方不明者の捜索を行っているに違いない。
彼らならきっと、何か重要な情報を知っている筈だ。
ヨネシゲたちは淡い期待を抱きながら、保安官たちの元まで駆け寄っていく。
ヨネシゲたちは手を振りながら、大声で保安官たちに呼び掛ける。
「お〜い! みんな〜! 待ってくれ!」
「あ、あれは!? おい! 見ろよ! ヨネさんだ! カルムのヒーローヨネさんが帰ってきたぞ!」
「本当だっ! ジョナスさんまでいるぞ!」
その声に気付いた保安官たちは、ヨネシゲたちに視線を向けると、歓喜の声を上げた。
保安官たちは駆け寄ってきたヨネシゲたちを笑顏で出迎える。
「ヨネさん、みんな! おかえり! よく無事に帰ってきてくれた!」
ヨネシゲは嬉しそうに微笑みながら、力強く頷く。
「ただいま! 色々とあったが無事に帰ってこれたよ!」
『おかえり』――この言葉を言ってもらえる日がようやく訪れた。この言葉を掛けてもらって素直に嬉しい。だが、まだ喜ぶわけにはいかない。
『おかえり』は、愛する家族たちに言ってもらわねば意味がない。そこが男たちの帰る場所なのだから。
ヨネシゲは挨拶を程々に済ませると、早速生き延びた者たちの行先を尋ねる。
「保安官さん。早速だが教えてくれ! ソフィアとルイス――生き残った人たちは、今どこにいるんだ?」
保安官は前置きした上で、ヨネシゲの質問に答える。
「――誰が生き延びて、誰が亡くなったか、我々も把握しきれていない。だから、ヨネさんの奥さんと息子さんの生存も保証できない。だが、もし奥さんたちが無事ならば、隣町のルポタウンに逃れている筈だ……」
「ルポタウン……」
『ルポタウン』――カルムタウン北側に隣接する小規模な街である。そこにカルムタウンの人々は戦火を逃れ、避難しているとのことだ。
ヨネシゲたちの行先は決まった。男たちは北の方角に身体を向ける。
(――きっとそこに……ソフィアとルイスたちが……!)
ソフィアとルイスは必ず待っている――ヨネシゲは妻子の無事を信じ、快速靴が装着された足で地面を蹴った。
――日没を迎えた頃。
快速靴を装着したヨネシゲたちは、僅か一時間足らずで隣町「ルポタウン」の入口に到着。
その入口付近の広場は、カルムから避難してきた人々の避難場所として開放されており、無数のテントが張られていた。
ちょうど夕食時ということで、炊き出しが行われており、広場は数え切れない程の人々で埋め尽くされている。
男たちは広場から溢れかえる群衆たちを見渡す。
「ヨネさん、凄い数の人っすね……」
「ああ。カルム中の人々がここに集まっているからな……」
立ち尽くすヨネシゲたちに、ジョナスが提案する。
「皆さん。ここで立ち止まっていても仕方ありません。手分けして家族を探しましょう!」
ヨネシゲは了解する。
「そうですね。とりあえず一時間後に一旦一区切りということで、この場所に集合にしましょう!」
オスギとイワナリも納得した様子で返事する。
「その方がいいだろう。長々と探していても、既に他の者が自分の家族を見つけているかもしれんしな」
「わかったぜ! 仲間の家族も見つけたらここに連れて帰ってくるということで!」
「そんじゃ、行こうぜ!」
ヨネシゲの声を合図に、男たちは群衆の中へと姿を消した。
男たちが愛する家族を捜索する中、炊き出しを手伝う一人の女性の姿があった。
金色の長い髪。誰もが振り返る美貌と透き通るような青い瞳。それに加え、たわわな胸、曲線美の身体は高身長。優しく微笑む彼女は――
『ヨネさん! ヨネさんだろ!? やっぱりヨネさんだ!!』
「!!」
聞こえてきたのは夫の名を叫ぶ男の声。
彼女は声が聞こえた方角へ視線を向けると、そこには大勢の人集りができていた。
その人と人の隙間から時折覗かすのは、黒髪の角刈り頭。
――彼女は確信した。
彼女は作業を中断させると、人集りを掻き分け、その角刈り頭に呼び掛ける。
「――あなた!」
――その瞬間。時が止まったように思えた。
角刈り頭は、ゆっくりと、声がした方へ、瞳を向ける。
「――ソフィア……!」
角刈り頭の中年オヤジ「ヨネシゲ・クラフト」の瞳には、最愛の妻「ソフィア・クラフト」の姿が映し出されていた。
つづく……




