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ヨネシゲ夢想 〜君が描いた空想の果てで〜  作者: 豊田楽太郎
第五部 トロイメライの翳り(カルム・ルポ編)
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第165話 絶望は続く

 南都の戦いから4日が過ぎた。

 カルム領に帰領したヨネシゲたちは、領境の街「ラルスタウン」に到着していた。一週間程前、南都に向かう最中に一夜を越したオスギの故郷である。


 現在ヨネシゲたちは、このラルスに3日ほど滞在している。負傷したドランカドの治療のためだ。


 ブルーム夜戦終結直後、想獣軍団の襲撃にあったヨネシゲたちは、平原に隣接する広い森に逃げ込んだ。本来であればカルム領まで数日かかる道のりを僅か一日足らずで駆け抜けた。負傷したドランカドの治療を急ぐため、男たちは一睡もせず移動を続けたのだ。

 軍事用快速靴の効果も相まってか、移動時間を大幅に短縮することができ、最速でドランカドを病院に運び入れることができた。



 ――ラルスの街が夕色に染まる頃。ラルス中央病院の一室には、ベッドの上で鼾をかくドランカドの姿があった。そのベッドの周りをヨネシゲ、イワナリ、オスギが囲む。

 ちなみにここまで行動を共にしていたモンゾウは、一足先に帰宅の途についている。


 ヨネシゲはドランカドの幸せそうな寝顔を見て安堵の表情を見せた。


「この様子なら明日の朝にはラルスを出発できそうだな」


「そうだな。それにしても、あの背中にできた深い傷を殆ど跡も残らずに完治させるとは……()()()()さんはマジで凄いぜ」


 イワナリの言葉に、ヨネシゲが誇らしげに微笑む。


「ああ! 流石、ジョナス義兄(にい)さんだ!」


 ここで病室をノックする音。

 ヨネシゲたちが応答すると、一人の白衣を着た中年男が病室に姿を現した。

 ヨネシゲが嬉しそうに歯を見せる。


「おっ! ジョナス義兄さん! ちょうど噂していたところなんですよ!」


 そう。この白衣を身に纏った、白髪混じりの紫髪オールバック男は、ヨネシゲの実姉メアリーの夫「ジョナス・エイド」だ。つまりヨネシゲの義兄だ。

 

 軍医を務めるジョナスは、南都連合軍の一員としてブルーム平原で負傷者の手当を行っていた。ところがブルーム夜戦開戦前にジョナスたち軍医は撤収命令を受け、ブルーム領から離脱する。

 その後は、共に戦場を離脱した負傷者の治療を行いながら移動を進め、このラルス中央病院に辿り着く。

 ジョナスはこの病院に到着してからも次々と運び込まれてくる負傷者の治療にあたっていた。そんな中、ドランカドを担ぎ込んできたヨネシゲと再会。ドランカドの背中の傷を空想術で治療した次第だ。


 ジョナスはヨネシゲたちに笑顔を向けると、爆睡するドランカドの元まで歩みを進める。そして彼は真四角野郎の脈を測りながらヨネシゲたちに伝える。


「うむ。問題ないな……明日には退院の許可を出すことができるでしょう」


「良かった~」


 一同、安堵の笑みを浮かべた。直後、ヨネシゲが心配そうな表情で尋ねる。


「それにしても、ジョナス義兄さん。ここ何日も働きっぱなしで……ちゃんと休んでいますか?」


「ええ、ご心配なく……と言いたいところですが、休息が取れず、睡眠も足りていないのが実情です。ですが今は人命優先。泣き言は言ってられません」


「そうですか……」


 暗い表情で俯くヨネシゲにジョナスは微笑み掛ける。


「ヨネシゲさん、大丈夫ですよ。負傷者の治療も既に終わっており、あとは彼らの回復を待つのみです。ドランカド君の退院が決まれば、私もヨネシゲさんたちと一緒にカルムタウンに戻る予定です――」


 ジョナスは窓に視線を移すと、夕色に染まるラルスの街を眺める。


「――早く、妻と子の元へ帰らなければ……」


 憂いの表情のジョナス。ヨネシゲたちは険しい表情で彼を見つめた。

 

 ジョナスもこのラルス中央病院で知った――カルムタウンの惨事を。

 今はただ、妻子の無事を祈る事しかできなかった。




 ――その夜。

 ラルスタウンにある、オスギの親戚宅にヨネシゲたちの姿があった。ラルスに滞在している間は、ここで寝泊まりをさせてもらっている。

 

 そしてつい先程のこと。

 このオスギの親戚宅にある人物たちが訪れる。それはオスギの妻とその息子家族たちだった。住処を失った彼女たちはこの家に身を寄せてきたのだ。

 感動的な再会を果たしたオスギとその家族たち。ヨネシゲたちの顔からも自然と笑みが溢れた。


 ――だが、その感動も束の間。彼女たちはカルムの惨劇を生々しく語る。

 街の大半は破壊され、カルム学院も、カルム市場も瓦礫の山と化した。同時に数え切れない程の人々が命を奪われた。腐敗が進んだ遺体は街の至る場所に積み上げられており、身元がわからないまま埋葬や火葬されるなどしている。特にヨネシゲが住む西地区の被害は甚大。そこに人々が暮らしていた痕跡は残っておらず、生存者もごく僅からしい――


 ――借りている部屋に戻ったヨネシゲ。

 彼は頭を抱えながら床に座り込む。

 

「冗談じゃねえぞ……こんなことあってたまるか……!」


 絶望のヨネシゲ。その後ろ姿をイワナリが静かに見つめる――掛ける言葉が見つからなかった。

 だがイワナリ自身もヨネシゲを気遣っている余裕はなかった。彼も愛娘の安否が不明なのだから。


 男たちは眠れぬ夜を過ごす。



つづく……

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