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第158話 決戦! 南都の戦い(中編)

 大暴れのマッスルたち。天守は粉塵を上げながら崩れ去ろうとしていた。


「ワッハッハッ! 自慢の筋肉、もっと見せてやれ!」


「マッスルゥゥゥッ!!」


 カルロスが鼓舞すると、マッスルたちの破壊行動が激化する。

 その様子を静かに見つめる改革戦士団。透かさずカルロスが挑発する。


「おうおう! 黙って見てるだけじゃ、この城は潰れちまうぜ? それとも怖気づいて何もできねえか? ワッハッハッハッ!」


 カルロスは態とらしく高笑いを上げた――その直後、彼は足元から殺気を感じ取る。

 カルロスは恐る恐る視線を下に向けた。

 そこには、不気味な笑みを浮かべるダミアンの姿が――カルロスの顔が強張る。


(いつの間に……!?)


 ――刹那。悪魔の右拳がカルロスの腹部を襲う。


「グハッ!!」


 鍛え抜かれた腹筋だったが、ダミアンの一撃を防ぎきれなかった。

 腹部に走る激痛――蹲るカルロス。ダミアンはその彼を冷たい眼差しで見下ろしながら、言葉を吐き捨てる。


「クソジジイが、調子に乗りすぎだ」


 ダミアンは右脚を振り上げる。


「マジでウザいんだよ――」


 その右脚は、カルロスの頭部目掛けて振り落とされた。


「ぬはっ!!」


 ダミアンの踵はカルロスの頭部を捉える。ダミアンはそのままの勢いでカルロスを踏み倒し、彼の顔面を床に叩き付けた。

 大理石の床はカルロスを起点に大きな亀裂が入る。


「地獄に落ちなっ!」


 ダミアンはそう言いながら、カルロスを踏み付ける足に力を入れた。

 亀裂が入った大理石の床は原型を留めることができず、階下へと崩れ落ちていく。同時にカルロスの身体もその大きな穴に飲み込まれ――落下した。


「カ、カルロス様っ!?」


 落下するカルロスを目撃し、マッスルたちが焦る。

 

「野郎ども! あの黒髪の青年を先に仕留めるぞ!」


 マッスルたちは標的をダミアンに変更。一斉に襲い掛かる。

 四方八方から迫るマッスルたち――その動きがピタッと止まる。


「か、体が……動かねえ……」


 黒い霧がマッスルたちの身体に絡み付く。

 そして――崩落寸前の玉座の間に、あの男の不気味な声が響き渡る。


「目障りだ。失せろ――」


 マッスルたちが視線を向けた先――そこには右手を構えるマスターの姿。彼は構えていた右手を振り上げた。

 次の瞬間、マッスルたちの身体が急浮上。彼らはそのまま天井を突き抜け、姿を消した。


 静寂を取り戻す玉座の間――




 ――マッスルの脅威はまだ終わっていなかった。


 再度、玉座の間に走る衝撃音。と同時に聞こえてきたのは男の悲鳴だった。

 一同、視線を向けた先。そこには腰を抜かすエドガーの姿。そして彼の脚は、床から突き出る太い腕に掴まれていた。エドガーが叫ぶ。


「やめろっ! 離せっ! だ、誰か、助けてくれっ!」


 焦る改革戦士たち。ダミアンは床から伸びる太い腕を見ながら、舌打ちする。


「ちっ! さっきの筋肉ジジイかっ!?」


 安易に想像できる。この腕の持ち主が、先程階下へ落下した、あの男のものであると。

 案の定、あの老年マッスルの声が下から聞こえてきた。


「ワッハッハッ! エドガーは貰っていくぞ!」


 呆気に取られるダミアンたち。マスターが怒声を上げる。


「何をしている!? 早くあの腕を叩き斬れっ!」


「お、おうっ!!」


 チャールズは慌てた様子で湾曲した短刀(カットラス)を構えると、エドガーの元まで駆けていく。


 ――だが、少し遅かった。

 太い腕は大理石の床を破壊しながら、エドガーを階下へと引きずり込んでしまった。


「追えっ! 逃がすなっ!」


 マスターの声を聞いたダミアンたちは、床に空いた大きな穴に飛び込む。

 一つ階下の大広間に着地したダミアンたちは、辺りを見渡す。


「ダミアン! 居たよ!」


「どこだ!?」


 一同、ジュエルが指差した方向へと視線を向ける。

 粉塵で霞んだ先に、カルロスの後ろ姿を捉えた。


「逃さねえぞ!」


 ダミアンたちはカルロスの後を追った。



 ――辿り着いた場所は、この階層の最南端。そこにカルロスと拐われたエドガーの姿は無かった。

 そして、ダミアンたちが見つめる壁には、人型の大きな穴。恐らくカルロスはこの穴から脱出したのだろう。

 ダミアンは壁に空いた穴を覗き込む。そこには朝日で輝く大海原が広がっていた。


「ちっ! 逃げられちまった! 最悪の始まり方だ!」


 舌打ちのダミアン。続けてアンディとチャールズが不機嫌そうに言葉を漏らす。


「なんてこったい! いきなり総大将を拐われちまった! ありえないよ〜」


「それって要するに敗北だろ? 格好つかねえじゃねえかっ!」


 一方のジュエルは落ち着いた口調で3人を宥める。


「3人とも落ち着いて。奪われたら奪い返せばいいでしょ? まだ遠くへは逃げていないはず。陸地で待ち伏せしていれば、必ずあの男は――」


 本日何度目だろうか? トロピカル城が激しく揺れる。先程までの振動とは桁違い――立っていられるのがやっとだった。ダミアンたちは膝を落としながら揺れに耐える。


「畜生っ! まさか、あの筋肉シジイの仕業か!?」


 ダミアンは穴越しに見える大海原を見つめた。




 ――その大海原の海中。トロピカル城がそびえ立つ断崖の真下には、先程マスターに排除された数十名のマッスルと、ぐったりとしたエドガーを抱えるカルロスの姿。


『イチ、ニの……マッスルゥゥゥッ!!』


 マッスルたちは足並みを揃えながら、渾身の力で断崖に体当たり。やがて断崖には大きな亀裂が生まれ――それは四方八方へと走り出す。断崖の亀裂を確認したカルロスが撤収命令を下す。


「ヨッシャ! もう十分だ! 引き上げるぞっ!」

 

『マッスルゥゥゥッ!』


 作戦を終えたブラントマッスル部隊は、本陣へと帰還していくのであった。




 ――場面変わり、再びトロピカル城。

 天守は壊滅的被害。崩落寸前だった。

 ダミアンは天井を見上げながら、悔しそうに歯を食いしばる。


「クソッ! やりたい放題暴れやがって……」


 ジュエルは彼の袖を引っ張る。


「ダミアン。ここに居ても仕方ないわ。早く城から脱出するわよ」


「――ああ。わかった」


「さあ、皆も急ぐわよ!」


 ダミアンたちはジュエルに促されると、足早にその場を後にした。


 


 ――崩落を始める玉座の間には、マスターの姿。

 彼は天井見上げながら一人呟く。


「――どうやら誘き出されたのは……我々みたいだな……」


 ――突如、玉座の間に光球が発生する。その大きさは成人と同じくらいの大きさだ。

 マスターが光球に視線を向けると、その中から2人の男女が姿を現す――ソードとサラだった。

 2人はマスターの姿を目にするなり頭を下げる。

 ソードが重たい口を開いた。


「――総帥、申し訳ありません。メテオを取り逃がしました」


 マスターは少し間を置いた後、言葉を返す。


「――頭を上げてくれ。私もお前たちを責める立場にはない……」


 ソードとサラがゆっくりと頭を上げる。

 サラは、変わり果てた城内を見渡しながら尋ねる。


「総帥。この有り様は……? 一体何があったのですか……?」


「エドガーをリゲルに奪われた……」


「!!」


 マスターの衝撃的な言葉にソードとサラは互いに顔を見合わす。

 この城にはマスターの他にダミアンたちも籠もっていた――警備は万全だったはず。なのにエドガーを拐われたとは穏やかな話ではない。2人はこの状況を理解できずにいた。

 マスターは動揺の側近を横目に嘆く。


「やはりこの世は、思い描いた通りに事が進まないのう……」

 

 ――そして彼はある命令を下す。


「――作戦を変更する。これより全軍打って出る。狙うは虎の首一つだ。タイガーを討て!」


「承知……!」


 命令を受けたソードとサラは深々と頭を下げる。一方のマスターは怒りを滲ませ、声を震わせる。


「我々は総大将をいきなり奪われた――屈辱の極みである。ならば、同じ屈辱を奴らにも味わせてやらねばな……」


 完璧主義者のマスターにとって、自身の計画を狂わされることは、何よりも耐え難いことだった。




 ――その頃、南都平野部中央付近・リゲル軍本陣

 タイガーたちは、崩れ去るトロピカル城を静かに見つめる。


「父上! カルロスがやったようです!」


 タイガーは不敵に笑う。


「今頃、改革の連中も(さぞ)慌てふためいていることじゃろう……」


 重臣バーナードが指示を仰ぐ。


「タイガー様。そろそろご下知を……」


 タイガーはゆっくりと頷く。そして椅子から立ち上がると、采配を頭上高くへ振り上げた。


「邪悪なる悪魔共を殲滅せよ――全軍、掛かれっ!」


 采配が振り下ろされると、リゲル兵たちは雄叫びを轟かせた。



つづく……


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