第150話 奮闘! 南都戦士達
――ブルーム平原、中央付近。
今、南都連合軍と改革戦士団との間で激しい攻防戦が繰り広げられていた。
改革戦士団第6戦闘長・想獣使いのナイルが勇ましい声を上げる。
「いでよっ! 地獄の使者たち!」
ナイルの空想術で召喚されたのは、数百体もの想獣たち。その構成は飛竜型を中心に、獣鳥型のもの、陸上歩行タイプの恐竜型、爬虫類型、虫型など様々である。
「ゆけっ! 我が下僕たちよっ! 南都の残党を喰らい、引き裂き、焼き尽くせ!」
ナイルの声を合図に、想獣の群が咆哮を轟かせ、南都連合軍に襲い掛かる。
「ヨッシャー! 俺達もナイルさんの想獣に続くぞっ!」
猛進する想獣に便乗して、改革戦士団戦闘員も勢いを増す。
対する南都連合軍。
南都兵たちは迫りくる想獣を前にして顔を引き攣らせる。思わず後退りする者多数。南都兵たちは弱音を漏らす。
「む、無理だ……あんな化け物に敵いっこねえ……」
「喰われる……喰われちまうよ……!」
瞬く間に間合いを詰める想獣の群れ。青ざめる南都兵たち。
すると、立派な甲冑に身を包んだ一人の中年男が、想獣の前に立ちはだかる。
「ここは儂に任せよっ!」
「マ、マロウータン様!?」
「今からここは修羅場となる! 儂から離れよ!」
中年男の正体はマロウータンだった。
彼は南都兵たちを周囲から退避させる。そして、想獣を見据えると、鉄のように表情を変えぬまま、扇を広げ、舞を披露する。
「クボウ秘奥義! 鮮血の舞っ! その瞳に焼き付けよっ!」
舞を踊るマロウータンを起点に、強烈な旋風が吹き荒れる。
旋風は想獣や戦闘員を飲み込み、空中に巻き上げ、その胴体を引き裂いていく。
マロウータンは、空から降り注ぐ鮮血を浴びながら舞を続ける。
まさしく、これぞ「鮮血の舞」である。
マロウータンが不敵に微笑み、南都兵を鼓舞する。
「皆の者! この戦い、儂は勝つことにした! 斯様な外道共に負けていられぬ! さあ、宴に出す料理の準備じゃ! 想獣の解体ショー、始めようぞ!」
その瞬間、兵士たちから割れんばかりの雄叫びが沸き起こった。
同じ頃、影武者の二人が改革戦士団の戦闘員を撹乱していた。
ブルーム平原北側では、ダンカンが……
「我こそは、南都大公メテオ・ジェフ・ロバーツである! この首欲しくば、命懸けで取ってみせよっ!」
「メ、メテオだっ! 捕まえろ! 生け捕りにしろっ!」
ダンカンは、敵を引き付けるだけ、引き付ける。
そして――逃げる。
「はいやーっ! はいやーっ!」
ダンカンの掛け声を合図に、跨っていた馬が見事なスタートダッシュを見せる。馬が蹴った地面からは砂煙が立ち込める。
改革戦士団戦闘員たちが、ダンカンの後を追い掛けようとする。
「ケホッケホッ! 畜生っ! 追えっ! 追えっ!」
「させるかっ! メテオ様をお守りしろっ!」
「!!」
突然、砂煙の中から南都兵たちが出現。戦闘員たちを大剣で突き刺し、斬り裂いていく。
――ブルーム平原南部、もう一人の影武者、アーロンも敵を掻き乱す。
「トロイメライ王弟、南都大公、メテオ・ジェフ・ロバーツ、見参! 貴様ら全員、この聖剣で地獄へ送ってやろう!」
馬上のアーロンは高らかと大剣を掲げた。
その姿を目にした戦闘員たちが興奮する。
「おい、見ろよ! 南都大公だっ!」
「ヨッシャー! 俺が捕まえて手柄にしてやる!」
「何をっ!? メテオを捕まえるのはこの俺だっ!」
先程まで統率が取れていた改革戦士団の戦闘員たちだったが、突如現れた大きな手柄を前にして、理性を失い始めていた。「我先に手柄を!」と仲間同士で揉み合いとなっていた。
アーロンはニヤッと笑みを浮かべる。
(所詮、改革戦士団の下級戦闘員など烏合の衆に過ぎない。奴らには信念などなく、目先の利益のことしか考えておらん。そんな連中に……この誇り高き南都戦士が討ち取られてたまるか!)
アーロンが愛馬を走らせる。
馬鎧を装着した愛馬は装甲車の如く。迫りくる戦闘員を次々と撥ね飛ばす。アーロンもまた大剣で戦闘員の首を刎ねていく。
アーロンは絶叫する。
「散っていった者たちの無念、この私が晴らさせてもらうぞ!」
アーロンは、群れとなった戦闘員の間を駆け抜けると、再びその集団に向かって突進していくのであった。
奮闘する南都戦士たち。
しかし、決して優勢とは言えず、犠牲者は次から次へと増えていた。
南都連合軍本陣。
もう一人の影武者バンナイは、本陣を代わる代わる出入りする伝令の対応に追われていた。
「申し上げます! オイスター少将、想獣の襲撃に遭いお討ち死にっ!」
「も、申し上げますっ! クボウ家・家臣オハグロ様、敵陣に単騎で乗り込み、お討ち死にあそばされました!」
「そうか……オイスターに……オハグロまで……」
次々と舞い込む討ち死にの知らせに、バンナイは焦りを隠しきれない様子だ。
「まだ日付が変わったばかり。夜明けにはまだ早い。だが……」
バンナイは、明るさを増す、東の空を見つめる。
「もし……本当に……夜明けが近いというのであれば……儂らにとっても……敵にとっても引き際だ……」
彼は上空を見上げる。
「吹飛鶴神のご加護を信じよう……」
そしてバンナイは、側近を呼び寄せる。
「――頃合いだ。作戦を始めるぞ。すまんが……黄泉まで付き合ってくれ……」
「承知っ! バンナイ様! どこまでもお供致しまする!」
「これっ! 今の儂は……メテオ様じゃ……」
バンナイは僅かな手勢を引き連れ、本陣を後にした。
――激突する南都連合軍と改革戦士団。
戦闘の様子を上空から眺める一人の銀髪男。その顔上半分は仮面で覆われていた。
このミステリアスな雰囲気漂わす銀髪男の正体は、改革戦士団四天王のリーダー格「ソード」だった。
ソードが一人呟く。
「最後の悪足掻きと言ったところか。影武者まで投入しているようだが……この俺の目を欺けるとでも思っているのか?」
ソードは、背後の東天を見つめた後、正面に見える南都連合軍本陣の篝火に視線を移す。
「時間も余りないな。このままナイルに任せていては夜が明けてしまう。部下に手柄を持たせたかったが……仕方ない。俺自ら本陣に赴こう……」
ソードが移動を開始しようとした時、彼の名を呼ぶ女の声が上空に響き渡る。
「ソード、待たせたわね」
「遅かったな。サラ」
その声の主は、先程までヨネシゲたちを襲っていた改革戦士団四天王のサラだった。サラは上空を移動してソードの元までやって来たのだ。
ソードはサラの顔を見て早々、あることを尋ねる。
「サラ。その頬の傷はどうした?」
サラはニヤッと笑みを見せる。
「フフッ。ヨネシゲ・クラフトにやられたのよ……」
ソードは特に驚いた様子も見せず、淡々と言葉を返す。
「奴と接触したのか?」
「ええ。調子に乗ってたから、殺そうと思ってね……」
「おいおい。総帥の楽しみを奪うつもりか? まさか本当に殺してはいないだろうな?」
「大丈夫、安心して。ちゃんと生かしているから……」
「そうか……」
「それにしても……」
「なんだ……?」
「ヨネシゲ・クラフト。本当に悪運が強い男ね……」
サラはそう言葉を口にすると、東の空を見つめた。
そして、ソードの口元が緩む。
「そうだ。それでいい。あの男には……もっと抗ってもらわねばな……」
ソードは再び南都軍本陣の方角を見つめる。
「この夜戦。そろそろフィナーレだ」
四天王最強が動き始める。
つづく……




