表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/399

第147話 必殺! 角刈り針千本 【挿絵あり】



 ブルーム平原を走る、紫色の閃光。

 改革戦士団四天王サラが、ヨネシゲにとどめを刺そうとしていた。

 サラの空想術が、ヨネシゲたちカルム隊メンバーの身体から自由を奪う。彼らは全身に伸し掛かる謎の重圧に耐えながら、地面に張り付いていた。

 逃げも隠れもできず、救援も期待できない状況。ヨネシゲは悔しそうにして、サラを見上げる。


「畜生、畜生っ! 俺はまだ……こんな所で終わる訳にはいかねえんだよっ!」


 叫ぶヨネシゲ。サラは紫色の閃光を放つステッキを構えながら、嘲笑う。


「アッハッハッ! 諦めなさい、ヨネシゲ・クラフト。ここがあなたの墓場となるのよ。大人しく朽ち果てなさい!」 


「くっ……! 何か……何か良い方法は……!?」


 ヨネシゲは瞳を閉じると、思考をフル回転させる。何かこの状況を打開する良い策はないものか? 


(駄目だっ! 何も思いつかねぇ……)


 何も閃かない。

 ヨネシゲは、この空想世界に転移してから数々のピンチを切り抜けてきた。しかし、今回に関しては打開策が何一つも思い付かない。

 絶体絶命の状況、為す術がない――もはやここまでだ。


 ヨネシゲは腹を括る。生まれて初めて死を覚悟した。


(ソフィア、ルイス、姉さん、みんな……必ず帰ると約束したが……多分、帰れない……許してくれ……)


 ヨネシゲの脳裏を駆け抜ける、ソフィアやルイス、姉家族や仲間達との思い出。それはまるで走馬灯。

 ヨネシゲは呟く。

 

「良い夢だった……」


 それを聞いたサラがニヤッと笑う。


「でしょうね! あなたが良い夢を見る為に、()()()が地を這っててあげたんだから!」

 

 ヨネシゲは再び瞳を開き、サラを見上げる。


「俺が憎いか……?」


 サラが冷たい眼差しを向ける。


「憎いわ。あなたは私たちから幸せを奪ったのだから……!」


 サラがステッキを振り上げる。


「せめてもの慈悲よ、一発で楽に逝かせてあげる。良い夢の続きは……あの世で見なさい……!」


 サラがステッキを振り下ろそうとした時。突然、強烈な突風がブルーム平原を吹き抜ける。

 重圧に押し付けられ、地面に張り付いていたヨネシゲたちは、風の抵抗を然程(さほど)受けずに済んだ。だが、突風と一緒に地面を駆け抜ける小石や砂が、ヨネシゲたちの眼球を襲う。彼らは瞳を閉じ、風が収まるのを待つ。

 一方のサラは、その突風を全身に受けていた。彼女は堪らず座り込む。被っていた三角帽子は飛ばされ、宙を舞う。

 突風は直ぐに収まり、辺りは静寂に包まれた。

 ヨネシゲがゆっくりと瞳を開くと、そこには、目を擦りながら立ち上がろうとする、サラの姿があった。彼女は不機嫌そうに独り言を漏らす。


「何だったの、今の風は!? あ〜もうっ! 目に砂が入っちゃったじゃないっ!」


 その様子を見ていたヨネシゲは何か閃いた様子だ。


(これは……使えるかもしれん……! 黙って殺されるくらいなら、試してみるか!)


 ヨネシゲは彼女の動きに注視して、タイミングを見計らう。

 果たして、彼は何をするつもりなのだろうか? 


 サラが天に向かって右手を伸ばす。彼女は空想術を発動して、飛ばされた三角帽子を引き寄せる。宙を舞う三角帽子は、白い光に包まれながら持ち主の元へと降下していく。

 その様子を眺めるサラの視界には、徐々に明るさを増す、東の空が映り込む。


「あれ? もうそんな時間……?」


 サラは、戻って来た三角帽子を再び被ると、懐からお気に入りの懐中時計を取り出した。

 懐中時計が示す時刻。日付は変わっているが、日の出には早すぎる時刻だ。

 サラは懐中時計を懐にしまう。


「タイムリミットが迫っているわね……」


 彼女はお気に入りの懐中時計ではなく、空の明るさを信じた。


 サラはヨネシゲを見下ろすと、再びステッキを構える。


「悪いわね。私、急がなくちゃいけないの。もうお終いにしましょう。さようなら、ヨネシゲ・クラフト……」


 ヨネシゲは、慌てた様子で彼女を制止しようとする。


「ま、待ってくれ!」


「何? 命乞いでもするつもり?」


「違うっ!」


 ヨネシゲは、真剣な表情でサラの瞳を真っ直ぐと見つめる。彼女もまた、彼の瞳に引き込まれるようにして、見つめ返す。

 ヨネシゲは言葉を続ける。


「最後に一つ……教えてほしい事がある……」


「何、教えてほしい事って? 言ってみなさい……」


 ヨネシゲは少し間を置いた後、サラにある事を尋ねる。


「お姉ちゃん! 何色の下着履いてんだ?」


「!?」


 サラは言葉を失う。

 唐突に、ヨネシゲの口から発せられた、理解不能な質問。この状況で一体何を考えているのだろうか? 

 サラは瞳と口を大きく開き、拍子抜けした表情を見せていた。


 ――だが、これこそヨネシゲが望んでいた状況。サラが見せた一瞬の隙を見逃さなかった。


 突然、ヨネシゲの頭部が黄金色に発光。

 そして、ヨネシゲが叫ぶ。


「喰らえっ! 角刈り針千本っ!」


「!!」


 ヨネシゲ自慢の角刈りヘアから、黄金色に輝く無数の剛毛が放たれる。







    挿絵(By みてみん)







 ヨネシゲの剛毛は、金色に輝く針となって、サラの美貌、瞳、口内を襲う――刺さる、貼り付く、入り込む。

 サラが怯む。

 彼女は目に涙を浮かべながら、口に入った剛毛を唾と一緒に吐き出す。続けて、瞳と顔に刺さったり、貼り付いたりしていた剛毛を除去する。その必死な姿は、まるで汚らわしい何かを取り除くが如く。

 彼女の集中力は完全に途切れた。

 と同時に、ヨネシゲたちは全身に伸し掛かっていた謎の重圧から解放された。

 今のヨネシゲたちは自由だ。


「クソッ! 中々取れないわっ! この私が、あんな下らない技で……!」


 サラは涙を流しながら、目に入り込んだ剛毛を取り除くのに苦戦していた。

 

 ――そこに、ヨネシゲが飛び掛かる。


「お姉ちゃんっ! 観念しろっ!」


「きゃっ!」


 ヨネシゲはサラを押し倒すと、その両手首を剛力で押さえ付けた。


「汚らわしいっ! 離しなさいっ!」


「離すもんかっ! お姉ちゃんには、大人しくしててもらうぞ!」


 暴れるサラ。流石の彼女も腕力ではヨネシゲに敵わない様子だ。

 ヨネシゲは、同じく解放されたドランカドに視線を向ける。


「おいっ! ドランカド! 縄だ、縄をよこせ!」


「縄っすか!? 縄なんてないっすよ!」


「縛れるものなら何でもいい! ってか、イワナリっ! 熊みたいに突っ立ってないで、お前も縄を探し……!」


()()……」


「!?」


 突然、少女のか弱い声がヨネシゲの耳に届く。

 ヨネシゲは視線を下ろす。そこには、怯えた表情で涙を流し、こちらを見つめる、サラの姿があった。


「怖いよ……痛いよ……もう許して……」


 サラの掠れるような弱々しい声。ヨネシゲは思わず、腕の力を緩める。


 ――次の瞬間、ヨネシゲに悲劇が訪れる。


「甘いわっ! ヨネシゲ・クラフトっ!」

 

「!!」


 気付いた時には、ヨネシゲの股間にサラの右膝がめり込んでいた。


「ぐはっ!!」


 ヨネシゲは白目を剥くと、サラから手を離し、倒れる。


「うわっ! 痛そうだな……ありゃ強烈だぜ!」

 

 イワナリは、悶絶の表情で転げ回るヨネシゲを同情の眼差しで見つめていた。


 サラが高笑いを上げる。


「アッハッハッハッ! 私を押し倒すとは、いい度胸してるじゃないの? ヨネシゲ・クラフト!」


 サラの瞳に入り込んでいた剛毛も、先程の涙で完全に流れ出たようだ。



つづく……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ