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第13話 カルムのヒーロー



 ついにヨネシゲはチンピラたちと対峙する。

 ヨネシゲがチンピラたちを威圧すると、彼らは意外な反応を見せる。


「ヨ、ヨネシゲだと!?」


「入院してたんじゃなかったのか!?」


 ヨネシゲを見たチンピラたちは動揺した様子だ。


(コイツら、カルムのヒーローと呼ばれる俺の存在にビビってるな? よし、そうとわかったら!)


 チンピラたちは自分に怖気づいている。それを理解したヨネシゲが攻勢に出る。ヨネシゲはチンピラたちとの間合いを少しづつ詰めていくと、肉屋に絡む理由を尋ねる。


「何があったが知らねぇが、何でお前ら肉屋に絡んでる?」


 ヨネシゲの問にチンピラたちは素直に応じる。


「みかじめ料を貰いに来たッスよ」


「みかじめ料だと!?」


「そうッスよ。ここの肉屋には沢山納めてもらってるんで助かってるんですよ」


 チンピラたちは悪びれた様子もなく説明しているが、みかじめ料とは穏やかな話ではない。ヨネシゲがウオタミに真相を確認する。


「ウオタミさん、本当なのか?」


「う、うん。毎週売上の半分近くを納めているよ」


「は、半分も!?」


 ヨネシゲは驚く。チンピラたちはみかじめ料として売上の半分近くをウオタミから巻き上げていた。

 ウオタミの店に並ぶ肉は鮮度抜群。それなりに値も張ることだろう。にも関わらず、店のあちらこちらに完売御礼と書かれたの札が掲げられており、その売上金も相当なものと窺える。

 しかし、その売上金の半分程がこのチンピラたち没収されていた。恐らく、このチンピラたちのバックには何らかの犯罪組織の存在があり、多くの金が流れていることだろう。だとしたら、他の店も同じ目に遭っているのか? ヨネシゲはヒラリーに尋ねる。


「ヒラリー、他の店もみかじめ料を払ったりしてるのか!?」


 するとヒラリーから意外な答えが返ってくる。


「カルム市場でみかじめ料なんて初めて聞いたよ!」


 ヒラリーの説明によると、カルム市場は領主や保安署による監視の目があり、簡単に犯罪組織が手を出せないらしい。ところが、ウオタミはチンピラたちにみかじめ料を納めていた。ここである憶測がヨネシゲの脳裏に浮かぶ。


(もしかして、ウオタミはチンピラたちに弱みを握られているんじゃないか?)


 ヨネシゲはウオタミにみかじめ料について詳細な説明を求める。


「ウオタミさん、何故みかじめ料の支払いに応じた? コイツらに何か弱みを握られているのか?」


「え、えっと。実は………」 


 説明しようとするウオタミの言葉を、チンピラたちが遮る。


「おい、ジジイ! 余計なことは話すんじゃねぇぞ! わかってるんだろうな!?」


 透かさずヨネシゲがチンピラたちを一喝する。


「お前らは黙っておけ! 俺はウオタミに話を聞いたいるんだ!」


「あ、はい」


 チンピラたちが大人しくなると、ウオタミは涙目になりながら弱々しい声で説明を始める。


「2ヶ月ほど前、この人たちに肉を売ったんだけど、その肉が腐ってたと因縁をつけられて。それで事を荒立てたくなかったら、みかじめ料を納めろと言われてしまったんだ。支払いに応じなければ家族に危害を加えると脅されて……」


「やっぱりな……」


 ヨネシゲの予想は的中していた。

 ウオタミはチンピラたちに因縁を付けられた挙げ句、家族に危害を加えると脅され、為す術もなくみかじめ料の支払いに応じてしまった。

 それにしても、何故チンピラたちはウオタミに対して激怒していたのか? 支払いに応じていたなら今回の騒ぎは無かった筈。

 ヨネシゲが疑問に思っていると、ウオタミがその理由について説明を始める。


「だけど、売り上げを半分も持っていかれると、商売どころか生活も厳しくてね。おまけにみかじめ料の値上げの話もされちゃって、今日は勇気を持って断ろうとしたんだ」


 酷い話である。ウオタミから話を聞かされたヨネシゲは鋭い目付きでチンピラたちを睨みつける。


「お前ら、随分酷いことしてくれるな」


 ここでチンピラたちの態度が急変する。


「うるせぇ! お前には関係ねぇ!」


 先程まで大人しくしていたチンピラたちだったが、ウオタミに全てを話され開き直ったのか、ヨネシゲに対して攻撃的な態度を見せる。


「カルムのヒーローだか知らねぇが、俺たちのバックにマフィアがいる事を忘れるなよ!」


「マフィアだと?」


「そうだ! お前が今まで倒してきた小物たちとは訳が違うぜ。あの人達は敵と見なした相手は躊躇いもなく殺したりする。お前も大人しくしねぇと殺されちまうぞ!?」


 チンピラたちは、マフィアの存在を盾にいきり立つ。やはり、チンピラたちの背後には、残虐非道と呼ばれるマフィアの存在があった。

 チンピラの説明では、そのマフィア組織は「悪魔のカミソリ」と名乗っており、カルムタウンを拠点に王国全土で活動している。利益のためなら子供でも平気で命を奪うこともあるらしい。

 チンピラたちはそんなマフィアの存在をちらつかせながらヨネシゲを脅そうとする。


「いいのかにゃあ? 俺たちに楯突くということは、悪魔のカミソリに宣戦布告すると同じことだぞ? だけど、僕ちゃん優しいから、今すぐ土下座して謝れば許してやってもいいぜ」


 チンピラはヨネシゲに降参を促す。しかし怒りで頭に血が上っていたヨネシゲに脅しは通用しなかった。

 ヨネシゲはいきなり無言でチンピラの一人を殴り飛ばす。その瞬間、周囲が静まり返る。


 ヨネシゲは倒れたチンピラを見下しながら、ドスの効いた声で伝える。


「そんな恐ろしいマフィアが居るなら連れて来いよ。俺が一人残らずぶっ潰してやる!」


 チンピラたちは歯を食いしばり悔しそう表情を見せると、店を後にしようとする。そしてチンピラたちは去り際に言葉を吐き捨てる。


「覚えてろ! お望み通りマフィアを連れてきてやるからな!」


 まるで犬の遠吠えだ。チンピラの言葉を聞いたヨネシゲはニヤついた表情を見せる。


「さて、大丈夫なのかい?」


「あ? 何がだ!?」


「マフィアを俺の所へ連れてくるのは簡単かもしれないが、仕事をしくじった事をマフィアが知れば、お前らもタダじゃすまんだろうな」


「う、うるせぇ! 強がってんじゃねぇよ! お前ら、こんなオヤジの相手なんか時間の無駄だ! 行くぞ!」


 ヨネシゲの言葉にチンピラたちは顔を青くさせると、足早に店を立ち去った。その瞬間、群衆から歓声が沸き起こる。するとウオタミがヨネシゲの元へ駆け寄ってきた。


「ありがとう、ヨネさん! 助かったよ! だけど……」


 難を逃れたウオタミであったが、何故か浮かない表情をしていた。ウオタミはチンピラとマフィアの報復を恐れている様子だった。ヨネシゲはウオタミを安心させようとする。


「安心しろ。チンピラ共が来たらまた俺が追い払ってやるさ」


「だけど、ヨネさん。本当にマフィアが来たら……」


「大丈夫。あのチンピラ共は小物だ。奴らが本当に恐ろしいマフィアの手先というなら、仕事を失敗したなんて口が裂けても言えないはずだ。仮にマフィアが動いたとしても標的は俺。ウオタミさんを危険な目に遭わせはしないよ」


「ヨネさん……ありがとう……!」


 ヨネシゲの言葉を聞いてウオタミは落ち着きを取り戻した様子だ。

 ちょうどチンピラたちと入れ替わるようにして、ソフィアと魚屋のオヤジが肉屋に到着した。

 ソフィアはヨネシゲの元へ駆け寄ると安心した表情を見せる。そして彼女はヨネシゲの手を両手で握る。


「良かった。怪我な無かったみたいね」


「おう。心配かけたな」


 そして魚屋のオヤジはヨネシゲを褒め称える。


「よっ! 流石ヨネさん!」


「へっへっへっ。まあな!」


 ヨネシゲは照れた様子で頭を掻く。しかし、次の魚屋のオヤジの一言に周囲が静まり返る。


「記憶を失っても、やっぱりヨネさんはカルムのヒーローだ!」


 記憶を失ったとはどういうことか? ヒラリーとウオタミが目を丸くさせる。そしてヒラリーは魚屋のオヤジに説明を求める。


「おい、魚屋! それはどういう意味なんだい?」


「え? まだヨネさんから聞いていないのか?」

 

 一同、ヨネシゲの方へ体を向ける。


(そういえば、まだ説明してなかったからな)


 ヨネシゲはこの世界の記憶を持たない。ここでは記憶を失った人間として生きていく必要がある。そのことについて周りの人間に周知させなければならない。


(いきなりここへ連れてこられたから、みんなに記憶のこと説明する間もなかったからな。だけどちょうどいい。これだけ大勢の人にまとめて説明できる。一人一人に説明する手間が省けて、おまけに人伝てで噂もすぐ広がるだろう)


「みんな! ちょっといいかな? そのことについて詳しく説明したいのだが」


 ヨネシゲが呼び掛けると、群衆たちはヨネシゲを取り囲む。

 ヨネシゲはこの世界の人に「記憶を失った人間」であることを認めてもらうため、医師による診断結果などの事細かく説明を始めるのであった。



つづく……

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― 新着の感想 ―
[良い点] いざヒーローになってみると大変ですね。 でもそれでもきっちりチンピラを追い返すヨネシゲはカッコいい! しかしこの異世界はまだまだ謎を秘めているようですね。
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