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第144話 サラ



 絶叫のヨネシゲは地上に向かってまっしぐら。

 その彼を地上のドランカドとイワナリが受け止めようとする。


「イワナリさん! もう少し右っす! あぁ! 行き過ぎ!」


「えっ!? こっちか? いやいや! ドランカド、もう少し前だ!」


 そうこうしているうちにヨネシゲの体と絶叫が近付いてくる。


「く、来るぞっ!」


「来る来る来る!」


 2人は両腕を広げる。その直後ヨネシゲが、ネットとなった両腕に受け止められる。

 落下の衝撃は相当だったらしく、ドランカドとイワナリは、彼を受け止めたと同時に尻餅をついた。

 透かさずイワナリがヨネシゲに問い掛ける。


「お、おい! ヨネシゲ、大丈夫かっ!?」


「ああ、俺は大丈夫だ。助かったぜ、イワナリ、ドランカド。お前たちの方こそ大丈夫か? 腕はもげてないか?」


 心配するヨネシゲにドランカドが笑顔で答える。


「大丈夫っすよ! ほら、俺たちの剛腕は見ての通り健在です!」


「そいつは良かった」


 ここでイワナリがヨネシゲのある異変に気付く。


「ってか!? ヨネシゲ! おでこから流血してるぞ!?」


 ヨネシゲの額は流血していた。流れ出た血は眉間、鼻翼、口尻を伝って、顎から滴り落ちていく。

 ヨネシゲは自分の額を(さす)りながら返答する。


「ああ、大したことねえ。あのお姉ちゃんにちょっとデコピンされただけさ……」


 ヨネシゲは上空を見上げる。

 そこには不敵な笑みを見せながら、地上を見下ろすサラの姿が――無かった!


「ヨネシゲ・クラフト。自力で着地できないとはあなたもまだまだね〜」


 突然、背後から聞こえてきた若い女の声に、ヨネシゲたちの背筋が凍り付く。3人が一斉に後ろを振り返ると、そこには腕を組み仁王立ちするサラの姿があった。

 サラはドランカドとイワナリの顔を見つめた後、ニヤッと笑みを見せる。


()()……仲間には恵まれているようね」


 ヨネシゲは横目でドランカドたちを見つめながら、険しい表情で彼女に尋ねる。


「まさか……お姉ちゃんの居場所って……!?」


 サラが失笑する。


「勘違いしないで。私の居場所はもっと()()()()よ……」


「それは……つまり……!?」


 ドランカドが2人の会話に割り込む。


「ヨネさん。この姉ちゃんと何か因縁でもあるんですか?」


「そ、それは……」


 ヨネシゲが言葉を濁していると、サラが口を開く。


「おじ様、お気になさらないで。これは私とヨネシゲさんの問題ですから」


「へへっ、おじ様か……そう言われるのも悪くねえが、俺はこう見えてもまだ22歳なんだけどな……」


 苦笑いを見せるドランカドの隣で、イワナリが声を荒げる。


「姉ちゃんとヨネシゲの問題だと!? こんだけ暴れておいて、ふざけた事を抜かすなよ!」


 サラは冷たい眼差しをイワナリに向ける。


「それはそれ……これはこれ……私たちの関係なんか、低能な熊野郎には理解できないわよ」


 彼女の言葉にイワナリが激昂する。


「俺が低能だとっ!? 大人を馬鹿にするのも大概にしろっ! 舐めた口聞くガキは俺が張り倒してやるっ!」


 イワナリは怒号を上げた後、サラに襲い掛かる。


「待て、イワナリ! 迂闊に手を出すな!」


 ヨネシゲが制止するも、巨大熊イワナリが腕を振り上げる。


「小娘! これはシーチキン屋のオヤジ……お前らに殺されたカルム男児たちの仇だっ! 仲間たちの無念、俺が晴らしてやるっ!」


 イワナリは鋭い爪をサラに突き出す。


「うおぉぉぉっ! 喰らえっ!」


 イワナリは全身を赤色に発光させると、怒りの斬撃を繰り出した。


 サラは迫りくる爪を見つめながら――不敵に笑う。


 突然、イワナリの動きが止まる。

 彼は両膝を落とすと、そのまま地面に吸い寄せられるようにして、うつ伏せで倒れた。


「おい、イワナリ! 大丈夫かっ!?」


 ヨネシゲが尋ねると、イワナリは苦しそうにして声を振り絞る。


「重い……押し潰される……!」


 イワナリは苦悶の表情を浮かべながら吐血する。しかし、重圧を訴えるイワナリの背中には何も載っていない。


「お前っ! イワナリに一体何をした!?」


 怒鳴り声を上げるヨネシゲに、サラがステッキを構える。


「知りたい? なら教えてあげるわ!」


 サラのステッキが紫色に光る。

 次の瞬間、ヨネシゲの体に異変が起こる。

 突然何か、途轍もなく重い何かがヨネシゲの全身に伸し掛かる。

 気付くとヨネシゲの身体は、イワナリと同じく、うつ伏せの状態で地面に押し付けられていた。

 余りの重さに体を動かすどころか、呼吸をすることも困難。ヨネシゲは僅かに動く眼球を右へ左へとスライドさせる。そしてヨネシゲは恐ろしい光景を目の当たりにする。

 ヨネシゲの視界に映った光景。それはドランカドやリキヤ、カルム隊メンバーたち全員が地面に這い蹲る姿だった。それに加え男たちのうめき声が周囲に響き渡る。

 異様な光景だ。

 ヨネシゲは戦慄する。この空想世界に降り立ってから、ここまで恐怖を覚える体験は、恐らく初めてだろう。

 やがてヨネシゲの顔前に、茶色いブーツが踏み降ろされる。ヨネシゲが上を見上げると、冷たい眼差しでこちらを見下ろす、サラの姿があった。そして彼女は綺麗な右足を上げると思わぬ暴挙に出る。

 サラの右足がヨネシゲの頭部を踏み付ける。


「もうお終いなの? ヨネシゲ・クラフト。私は……この程度の術で制圧できる男に、人生を狂わされてしまったのね。我ながら情けないわ……」


 落胆した様子のサラに、ヨネシゲは怒りの眼差しを向ける。


「悪いけどな、俺はお姉ちゃんの人生を狂わせたつもりはねぇ。俺が空想世界(ここ)に来る前に、何があったか知らねえが、逆恨みもいいところなんじゃねえのか?」


「何?」


 ヨネシゲの言葉を聞いたサラの表情が一気に気色ばむ。ヨネシゲは彼女の様子には気にも留めず、言葉を続ける。


「もし仮に、現実での俺の行動が反映されているのであれば、俺は本当にお姉ちゃんから居場所を奪ってしまったのかもしれない。けどな……居場所っていうもんは、自分で作るもんじゃねえのか?」


 サラは激昂する。


「黙れっ! クソジジイ! テメェのせいで……私がどれだけ惨めで……どれだけ辛い思いをしてきたか、わかって言ってんのか!? 綺麗事言ってんじゃねえよ!」


 サラは美貌を歪めながら、汚い言葉を並べてヨネシゲを怒鳴り散らす。余りの剣幕にヨネシゲは言葉を失う。

 サラは怒鳴り終えると我に返ったのか、大きく深呼吸をする。


「私としたことが……取り乱してしまったわ……」


 落ち着きを取り戻したサラだったが、その怒りは収まっていないようだ。

 サラはヨネシゲに向かってステッキを構える。


「俺を……殺すつもりか……?」


 ステッキに紫色の光が宿る。


「元凶は……この手で始末してやる……!」


 次の瞬間。辺りは紫色の閃光に包まれた。



つづく……

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