表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/401

第142話 ブルーム夜戦(後編)



「カルムタウンは焼け野原」「住民・兵士たちを虐殺」「カルム学院守衛を殺害」――ロイドの発言にヨネシゲたちの思考が停止する。


(コイツが言っていることは本当なのか!? だとしたら……ソフィアやルイス、姉さんたちはどうなった!?)


 顔面蒼白のヨネシゲに、ロイドがカルムの惨劇を語る。


「それにしても愉快な一時だったぜ。逃げ惑う想人(ひと)を追い回すのは最高の娯楽だ。特に女と子供はいい声で泣き叫ぶ。最後に見せるあの絶望の表情と言ったら……」


 突然ロイドが腹を抱えながら笑う。


「ブッヒャッヒャッヒャッ! 思い出しただけで笑いが止まらねぇ! 奴らの顔芸は最高だったぜ! これだから殺しはやめらんねえ!」


 イワナリは涙を流しながら怒号を上げる。


「カルムの人々に何の恨みがあるっていうんだよ!? 何でこんな酷いことをするんだ!?」


「別に恨みはねえ。ただ俺の視界に入ったから殺しただけだ。まあこれは、総帥の命令でもあるがな……」


 温厚なドランカドが声を荒げる。


「救いようのねぇクズ野郎だな! 想人(ひと)はお前の遊び道具じゃねえ!」


 ロイドはドランカドを徴発する。


「黙れ、真四角野郎。想人は僕ちゃんの玩具なの! 僕ちゃんが満たされれば、それでいいんだよ!」


 この男、完全に狂っている。

 ヨネシゲは、怒りとはまた別の強い憤りを感じていた。そして、ヨネシゲの脳裏にあの()()の姿が蘇っていた。


(本当に救いようのない野郎だ。まるで、ダミアンを見ているようだ……)


 現実世界でソフィアとルイスを惨殺したあの男――ダミアンの姿が、目の前で狂乱するロイドの姿と重なる。


(これ以上、コイツを生かしちゃおけねえ……コイツは俺がこの手で始末する……!)


 ヨネシゲは静かなる怒りの炎を心に灯す。その彼を嘲笑うかのようにロイドが蛮行に及ぶ。


「ギャッハッハッ! 教えてやるよっ! お前らも俺の玩具に過ぎないということをな!」


 突然ロイドがサバイバルナイフを振り回す。すると先程と同じ疾風がブルーム平原を駆け巡る。

 空気の刃によって切り裂かれるカルム男児たち。男たちの悲痛な叫びが真夜中のブルーム平原に響き渡る。


「ヒャッハー! 全員地獄送りにしてやるよっ! 泣き叫び、苦しんで死ねっ!」


 狂ったようにサバイバルナイフを振り回し続けるロイド。鎌鼬(かまいたち)がブルーム平原を支配する。

 その時だった。正義の拳がロイドの顔面を捉える。


「地獄に落ちるのはお前だ!」


「!!」


 吹き飛ばされるロイド。その瞬間、鎌鼬現象がピタリと止まる。

 蹲っていたロイドが悔しそうな表情で顔を上げる。彼の前歯は折れ、鼻から血を流していた。そしてロイドの視界にあの男の姿が映し出される。


「クッ! ヨネシゲ……クラフト……!」


 ロイドの目の前には、拳を構え仁王立ちするヨネシゲの姿があった。

 ヨネシゲの腕や脚、顔に刻まれた傷からは血が流れ落ちていた。ロイドの風の刃を受けた為である。

 ヨネシゲの姿を見たドランカドが叫ぶ。


「ヨネさん! 無理しちゃいけません!」


 ヨネシゲはドランカドに視線を向ける。


「ドランカド。お前はイワナリと協力して他の皆を援護してくれ。コイツは、俺が殺る……!」


 ヨネシゲの怒りを宿した鋭い眼差し。ドランカドは身震いさせた後、静かに頷き了承した。


「俺を殺るだと? 自惚れるなよ、クソジジイ! お前は俺を本気で怒らせたようだな!」


 鬼の形相で怒りを露わにするロイド。彼は立ち上がるとサバイバルナイフを振り上げた。


「肉片にして鳥のエサにしてやる!」


 ロイドはサバイバルナイフを勢いよく振り落とす。

 風の刃がヨネシゲに襲い掛かる。

 ロイドは勝ち誇った様子で口角を上げた。


「俺に喧嘩を売ったらどうなるか……思い知るんだな!」


 ロイドが高笑いを上げようとした時だ。彼が予想打にしなかった出来事が起きる。

 ヨネシゲが迫りくる風の刃を拳で弾き飛ばしたのだ。

 ロイドは驚いた様子で言葉を漏らす。


「馬鹿な! 俺の鎌鼬を見切っただと!? こんなジジイに俺の技が見えるというのか!?」 


 ヨネシゲが淡々と答える。


「お前が放った風の刃は無色透明。通常では見えない存在だ。だが、お前の風の刃は空気を歪ます。そしてその歪みは、空想術で視力を強化すれば容易く見破る事ができる!」 


「畜生っ! 冗談じゃねえぞっ!」


 怒り狂ったロイドはサバイバルナイフを振り回し、ヨネシゲに向かって無数の風邪の刃を放つ。

 対するヨネシゲはロイドに向かって猛進する。そして、無数の風の刃を拳で受け止め、捻じ伏せ、弾き返す。

 ヨネシゲを通過していった風邪の刃は、ドランカドとイワナリ、クボウ家臣のリキヤや腕の立つ者たちが受け止め、()なす。

 ヨネシゲとロイドの距離が次第に縮まる。


「これで、終わりだっ!」


「来るなぁぁぁっ!!」


 ヨネシゲの青白く発光した鉄拳が、ロイドの顔面を捉える。彼の顔面は粉砕音と共に陥没した。

 地面に倒れた金髪青年の顔はもう「ロイド」だと判別できなかった。


 ヨネシゲは肩で大きく息をしながら、ロイドの亡骸を見下ろす。


 勝負が付いた。

 一同、胸を撫で下ろしたのも束の間。新たな刺客がヨネシゲの前に姿を現した。


「お見事ね、ヨネシゲ・クラフトさん。あなたの戦いぶり、全て見させてもらったわ」


「だ、誰だ!?」


 突然、夜空から聞こえてきた若い女の声。

 ヨネシゲは上空を見上げる。そこには、月明かりに照らされながら空中を浮遊する、一人の女の姿があった。

 ヨネシゲが彼女に正体を尋ねる。


「姉ちゃん、君は何者なんだ? まさか姉ちゃんも改革戦士団の一員か?」


 青い瞳の魔女風の女は、赤い髪を靡かせながら微笑みを浮かべる。


「ご名答。私は改革戦士団幹部のサラよ。一応、組織の中では四天王と呼ばれているわ」


「改革戦士団の幹部……四天王だと……」


 ヨネシゲたちの前に立ちはだかったのは、改革戦士団四天王「サラ」だった。

 彼女は髪を耳に掛けながら意味深な言葉を口にする。


「戦闘長相手に中々やるじゃないの。褒めてあげるわ。流石、腐っても『ヨネシゲ』は『ヨネシゲ』みたいね……」

 

 ヨネシゲは眉間にシワを寄せる。


「姉ちゃん……それはどういう意味だ?」 


 ヨネシゲが言葉の意味を確認するも、サラはそれを聞き流し、次なる台詞を口にする。


「ねえ、ヨネシゲさん。私と少し遊びましょう」


「遊びだと?」


 遊びとは何か? 美しい見た目の彼女とはいえ、改革戦士団幹部が口にすることだ。まともな事では無いだろう。案の定、サラは不敵な笑みを浮かべた後、銀色のステッキを地上に向かって振り下ろす。

 ステッキが紫色の光に包まれたと思うと、地上である異変が発生した。

 

 突然、絶命した筈のロイドが体を起こし立ち上がる。


「まだ生きてやがったか!?」


 ヨネシゲは咄嗟に身構える。だがヨネシゲは直ぐに違和感を覚えた。ロイドからはまるで生気が感じられない。いや、そもそもあの陥没した顔面で生きていられることが不思議だ。そしてヨネシゲは更に目を疑う光景を目にする。

 

 ロイドによって殺害されたカルム男児、改革戦士団戦闘員も次々と体を起こし立ち上がるのであった。彼らもロイドと同じく生気が感じられない。

 イワナリが怯えた様子で言葉を漏らす。


「ま、まるでゾンビだぜ……」


 ヨネシゲは上空のサラを睨み付ける。


「死体を操るとは……姉ちゃんも中々の外道だな……」


 サラは笑いを漏らす。


「フフフ。外道ね……それ、最高の褒め言葉よ」


 サラが再びステッキを振り下ろすと、屍がヨネシゲたちに襲い掛かる。



つづく……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ