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第141話 ブルーム夜戦(中編)



 ――南都連合軍本陣。

 馬車に乗り込むメテオにマロウータンら南都五大臣が見送る。

 

「メテオ様。後は我々にお任せを」


 マロウータンの言葉に、メテオが申し訳無さそうに頭を下げる。


「本当にすまない。私の力が及ばないばかりに……」


 メテオ……いや、メテオの姿に変身して影武者となった五大臣バンナイが、主君を気遣う。


「メテオ様、頭をお上げくだされ。そのメテオ様の力不足を補う為に我々が居るのです。まあ、一度裏切っておいて、このような台詞を口にするのは可笑しな話ですがね……」


 するとメテオが、苦笑いを浮かべるバンナイの手を握る。


「バンナイ……お前を信じて正解だった。理由はともあれ、こうしてまた私の力になってくれた」


「メテオ様……」


「これからも……ずっと……私を傍で支えてほしい。少々口煩いが、お前は私の自慢の臣下であり、父親のような存在だ……」


「勿体無い……お言葉……」


 バンナイは瞳を潤ませながら頭を深く下げた。


 やがて、メテオを乗せた馬車がゆっくりと動き始める。

 メテオが馬車の小窓から身を乗り出す。


「皆、必ず生きて……私の元に戻ってきてくれ……!」


 マロウータンが満面の笑みを見せる。


「ええ。王都でまた、お会いしましょう!」


 メテオを乗せた馬車は、親衛隊に護衛されながらブルーム平原を後にした。


 そして、マロウータンがバンナイたちに指示を出す。


「方々、配置についてくれ。抜かりないよう頼むぞ」


 3人の影武者は静かに頷くと、持ち場へと向かった。


「さて、後は……」


 ここでマロウータンは、ある人物の名を叫ぶ。


「アッパレ、アッパレは居るか?」


「叔父上、お呼びですか?」


 姿を現したのは、茶色い髪を坊ちゃん刈りにした、童顔の青年だった。

 彼の名は「アッパレ・クボウ」

 その正体は、亡きヨノウータンの息子、つまりマロウータンの甥である。


「アッパレよ。折り入って頼みがあるのじゃ……」


「頼み……ですか……?」


(ちこ)う寄れ……」


 マロウータンは、首を傾げるアッパレを呼び寄せる。そして扇子を広げると、それで口元を隠し、アッパレに耳打ちするのであった。




 

 ――同じ頃、南都連合軍の本陣から北西へ少し離れた場所。ここで2人の男が激戦を繰り広げていた。

 桃色長髪の中年男は、空想術を使用して無数の光球を発生させると、それを空中に浮遊させる。彼の正体は、ブルーム領主「ライラック」だった。


「これ以上、我が領土での狼藉は許さないぞ!」


 対する紫髪の青年は、淡々と持論を述べる。彼は改革戦士団第6戦闘長のナイルだ。


「弱者が強者に喰われるのは世の常。貴様らブルームの者たちは弱者だったということだ」


 ナイルが右手を振り上げると、上空から咆哮が轟く。ライラックが天を見上げると、数体の想獣(ドラゴン)がこちらに向かって急降下してくるのが見えた。

 ナイルが不敵に笑う。


「さあ、弱者よ! 想獣に喰われるがよい!」


 ライラックは、無数の光球を想獣に向かって放つ。


「咲かせてみせよう! 想素の花を!」

 

 光球が想獣に当たる。

 次の瞬間。その身体に異変が起こる。

 想獣の頭部、胴体、翼、脚に、真っ黒い花が無数に咲き始める。花の大きさは次第に増していき、想獣の身体は花で埋め尽くされた。

 成長が止まらない花。想獣は断末魔を上げながらその姿を消滅させた。

 ナイルは悔しそうにライラックを睨みつける。


「相手の空想術を餌にする植物系統の技か……」


 ライラックが自慢げな表情を見せる。


「想獣は想素の塊。そしてこの花は、想素を栄養素にして成長する。弱者の想素をたっぷり吸い尽くしてな……」


 舌打ちするナイルにライラックが言葉を続ける。


「それにしても……これ程ドス黒い花を咲かすとは、君が生み出した想素は余程汚れているみたいだね」


「黙れっ!」


 ナイルは再び数体の想獣を召喚する。その様子を見ながらライラックはため息を漏らす。


「何度やっても同じことだ。また君の想獣に花を咲かせて……!」


 次の瞬間。突然、ライラックは胸に違和感を覚える。彼は自分の胸元に視線を下ろすと、左胸に一本のペーパーナイフが刺さっていた。


「ペーパーナイフ……何故……? ぐはぁ!」


 ライラックはその場に倒れ、力尽きた。

 突然の出来事にナイルは驚いた表情を見せるも、直ぐに察しが付いたようだ。


「ペーパーナイフ……まさか……!」


 ナイルは上空を見上げる。そこには空中を浮遊する、2人の男女の姿があった。


「ソードさん……サラさん……」


 そう。2人の正体は改革戦士団四天王、ソードとサラだった。

 ソードは振り下ろしていた右手をコートのポケットに戻す。ライラックにペーパーナイフを放ったのは彼である。

 サラはソードの隣で腕を組みながら、地上のナイルに冷たい眼差しを向けていた。

 サラが不機嫌そうに言葉を吐き捨てる。


「おい、能天気野郎。何こんな所で油売ってんのよ? 遊んでいる暇は無いのよ?」


「す、すみません。コイツが予想以上にしぶとくて……」


「ウフッ。『弱者が強者に喰われるのは世の常』ですって? この程度のジジイ相手に手こずるとは、あなたも中々の弱者よ。こんなんでよく戦闘長を任されているわね? 人選ミスかしら?」


 サラはナイルを嘲笑う。彼は歯を食いしばりながら顔を俯かせる。だが、悔しがる時間は与えて貰えなかった。ソードがナイルに指示を出す。


「ナイルよ。俺に付いて来い。南都軍本陣を急襲する」


「了解しました!」


 ナイルは慌てた様子で準備を始める。

 やがて、ソードはナイルが用意した小型の想獣に跨ると、サラに視線を移す。


「サラ。お前はロイドの援護を頼む」


「任せて。カルム隊を始末したら直ぐに合流するわ」


「ああ。それと、わかってると思うが、くれぐれもあの男は……」


「わかってるわ。あの男に引導を渡すのは総帥の役目。殺めたりしないわ。まあ、お手並みは拝見させてもらうけどね」


「程々に頼むぞ……」


 ソードはサラとの不穏な会話を終わらせると、ナイルと共に南都連合軍本陣へ飛び立って行った。


「さて、私も行こうかしら。待っていなさい、ヨネシゲ・クラフト……!」


 サラは不敵な笑みを浮かべながら、ロイドの援護へ向かった。




 ――その頃、ヨネシゲたちカルム隊は、突如現れた金髪男と対峙していた。

 ヨネシゲが声を荒げる。


「ふざけた事抜かすな! そもそもお前は何者だ!? 改革戦士団の幹部か何かか!?」


 金髪男がニヤっと笑みを浮かべる。


「ヒャッハー! 幹部なんて言うほど立派なもんじゃねえよ。俺は改革戦士団第5戦闘長、ロイドだ!」


「戦闘長……」


 ヨネシゲは「戦闘長」という言葉を聞いて、ある女性の存在を思い出す。


(この男もグレース先生と肩を並べる存在という訳か……)


 グレースは改革戦士団の第3戦闘長。以前、教師としてカルム学院に潜り込み、第4戦闘長のチェイスと共に学院祭を襲撃した。グレースたちの力は未知数であるが、相当な実力者であったことは確かだ。

 だとしたらこの男も只者ではない筈。先程の鎌鼬(かまいたち)現象も恐らくロイドの仕業だろう。改革戦士団戦闘長という肩書きが何よりの証拠だ。


「それにしても、味方まで切り裂くとは……お前は相当イカれてるな」


 ヨネシゲが指摘すると、ロイドは舌を出しながら不気味に笑う。


「ウヒャヒャヒャッ! だって、しょうがねえじゃん。お前らを攻撃するのに邪魔だったんだからよ」


「ヨネさん。コイツ、ヤベェ奴っすよ」


「ああ……」

 

 ドランカドの言葉にヨネシゲは相槌を打つ。するとロイドがあの話題を切り出す。


「そんじゃまあ、アンタの名前を知っている理由を教えてやるよ」


 ヨネシゲは固唾を飲みながらロイドの次なる言葉を待つ。そしてロイドが真実の数々を語り始める。


「最初に言っておくが、俺は改革戦士団に入るまでアンタの存在すら知らなかった。まあ当たり前だよな。普通に生きていたら、アンタみたいな小汚いおっさんに興味は持たねえ……」


「失礼な野郎だな……」


 ロイドは、舐め回すような目付きでヨネシゲをジロっと見上げる。


「だがな、今はアンタの事が気になって気になって夜も眠れねえぜ。何故ならな、俺らの総帥がアンタの事を物凄く恨んでいると知ったからさ……」


「総帥? 総帥ってお前らのリーダーのことか!?」


「そうだぜ。改革戦士団で一番強くて偉い人だ。まあ、何でアンタみたいなおっさんを恨んでいるのか、わからねえがな……」


 ヨネシゲは驚きを隠しきれない様子だ。今世間を騒がし、蛮行の限りを尽くすあの改革戦士団の総帥が、自分の事を酷く恨んでいると言うのだから。

 とはいえ、改革戦士団総帥が自分の事を恨む理由も頷ける。何故ならヨネシゲはこの世界で「カルムのヒーロー」と呼ばれる存在であり、数々の悪党を退治してきた男なのだから。

 恐らく、改革戦士団総帥もヨネシゲに退治された者の一人なのだろう。もっとも、それはヨネシゲがこの世界に転移する前の話だ。

 ヨネシゲは険しい表情を見せながら、ロイドに尋ねる。


「お前らの総帥は、俺の命を狙っているということか?」


「まあ、最終的にはアンタを殺るつもりだろう……」


「最終的だと? 俺なんか殺そうと思えば、今すぐ殺せるんじゃないか?」


 ヨネシゲは首を傾げる。最終的とはどういう意味だろうか? あのダミアン有する改革戦士団であれば、自分を殺害することなど容易いだろう。勿体ぶる必要があるのだろうか? 

 ヨネシゲの疑問にロイドが答える。


「総帥はアンタに試練を与えているんだ」


「試練だと?」


「ああそうだ。総帥は、アンタを絶望のドン底に突き落としてから、殺るつもりなんだよ」


 そしてロイドは、とても信じ難い、カルムの惨劇について口にする。


「その絶望第一弾として、俺と総帥はカルムタウンを焼け野原にしてきた。たくさん殺してきてやったぜ。カルムの住民や兵士たちをな!」


 ヨネシゲたちの顔が一気に青ざめる。

 あのカルムの街が焼け野原? 一体どれ程の被害が出ているというのだろうか? そして、カルムの人々を殺害とは?

 ヨネシゲたちは自分の耳を疑った。

 イワナリが声を荒げる。


「おいテメェ! 冗談は大概にしろっ!」


「おっ! 熊が喋った! ウヒャヒャヒャ! 冗談は言わねえぜ! このナイフで何百人も殺してきた」


 ロイドは思い出話を語るようにして、当時の事を振り返る。


「住民たちの泣き叫ぶ顔は思い出すだけで笑えるぜ。そうそう。最初の獲物は、カルム学院のガードマンだったな……」


「な、なんだと……」


 同僚が殺害された?

 ヨネシゲとイワナリは言葉を失う。



つづく……

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