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第136話 出撃の時(前編)



 ――時を(さかのぼ)ること一時間程前。

 ブルーム平原東部・改革戦士団の陣所に、2人の戦闘長の姿があった。

 品の無い笑顔を浮かべる金色短髪の青年が、改革戦士団第5戦闘長のロイド。

 澄ました表情の紫髪の青年が、改革戦士団第6戦闘長のナイルだ。

 向かい合う2人に挟まれるテーブルの上には、様々な種類の酒、干し肉やチーズ、ナッツなどが並べられていた。

 ロイドとナイルは3日前の深夜、総帥マスターと共にカルムの街を破壊、多くの市民や兵士らを殺害した。その彼らは昨晩南都のダミアンたち本隊と合流するも、直後ブルーム平原に派遣されることになる。

 2人がブルーム平原の陣所に到着したのは今朝のこと。昼過ぎまで休息を取り、つい先程まで南都軍の前線部隊に攻撃を加え掻き乱していた。今はロイドと共に上機嫌で酒を酌み交わしているところだ。

 ロイドはワイン瓶から口を離すと、明日の計画について意見を述べる。


「総帥には2・3日で戻るよう言われている。とりあえず明日の夕方までには南都の残党を甚振(いたぶ)り殺して、それからメテオを捕まえて帰るとするか」


 ナイルはロイドの意見を聞き終えると、自分の意見を主張する。


「悪いがロイド。それはいただけないな。最も優先すべきはメテオの身柄拘束だ。遅くても明日の昼前にはメテオの身を手中に収めておきたい。間違っても奴に自害されては困る……」


 ナイルの意見にロイドは納得する。


「それもそうだな。メテオが命を落とせば、俺たちは大目玉を食らっちまうぜ」


「大目玉で済めばいいがな……」


 ロイドは一瞬顔を強張らせるも、直ぐにヘラヘラとした様子で言葉を返す。


「よし、いいだろう! 今日は俺の案を聞いてくれたしな。明日はお前の案で行動してやるよ」


「決まりだな……」


 明日の計画が決まると、2人は再び酒を飲みながら談笑を交わす。

 その時である。突然陣所に閃光が走る。


「な、なんだっ!? この光はっ!?」

 

 余りの眩しさにロイドとナイルは腕で目を覆う。

 やがて光が収まると、彼らがゆっくりと瞳を開く。そしてロイドとナイルの目の前には、彼らがよく知る2人の男女の姿があった。

 ロイドは顔を強張らせながら2人の名前を口にする。


「ソ、ソードさん……サラさん……お疲れ様っす……」


 顔の上半分を仮面で覆った銀髪の青年。彼の正体は改革戦士団四天王のリーダー格「ソード」だった。総帥マスターが最も信頼を寄せる男である。

 そして、三角帽子を被った赤髪と青い瞳の若い女が「サラ」である。彼女もまた改革戦士団四天王の一角を担っており、マスターが信頼を寄せる幹部の一人だ。

 ロイドとナイルに緊張が走る。ブルーム平原での作戦は自分たちに委ねられている筈だが、四天王メンバーが、それも2人も応援に駆け付けるとはただ事ではない。

 ナイルが恐る恐る尋ねる。


「お二人共、どのようなご要件で?」


 ナイルが問い掛けると、サラは冷たい眼差しを2人に向ける。そしてサラは無言のままテーブルの側まで歩みを進めると、思わぬ行動に出た。彼女は突然テーブルを蹴り飛ばす。卓上の酒やつまみが辺りに散乱する。

 サラは立ち尽くす2人を睨み付けると、落ち着いた口調で問い掛ける。


「どのようなご要件ですって? わかるでしょ? 私たちはメテオの身柄を引き取りに来たのよ。当然、メテオの身柄は拘束できているのよね?」


 ロイドは顔を青くさせながら、彼女の問に答える。


「すいやせん……メテオはこれから捕まえに行くところでして……」


 サラは怒りを滲ませた口調で言葉を放つ。


「だったら……こんな所で油売ってないで、とっととメテオを捕まえてきなさい。呑気にお酒なんか飲んで……あなた達、余程いい身分みたいね?」


 ロイドとナイルは顔を青くさせながら頭を下げる。ここでソードが静かに口を開く。


「――先程、タイガーが南都北部に布陣した」


「え!? リ、リゲル軍がもう南都に!?」


 ソードはゆっくりと頷く。


「リゲル軍の動きは予想以上に速い。明日の夜明けに総攻撃を仕掛けてくることだろう。それまでにはメテオの身柄を手中に収めておきたい。メテオの存在はリゲル軍の動きを鈍らせることができるからな……」


 ナイルが不思議そうにして尋ねる。


「し、しかし……メテオの存在が無くても、ダミアンさんと四天王の皆さんが居れば、タイガーを討つことなど容易いのでは?」


 ソードは口角を上げる。


「ああ。今の我々であればタイガーを容易く仕留めることができるだろう。だが、油断は大敵だ。戦いは万全な体制で少しでも有利に進めたい……」


 サラが言葉を締めくくる。


「そう言うことよ、能天気野郎共。ほら、ボケっと突っ立ってないで、さっさと行きなさい。失敗は許さないわよ」


「りょ、了解しました!」


 ロイドとナイルは慌てた様子でその場を後にした。

 やがて南都連合軍は改革戦士団の総攻撃を受けることになる。




 ――真夜中のブルーム平原に鳴り響く警鐘。カルム隊陣所にも緊張が走る。

 ヨネシゲが陣所に戻ると、イワナリやオスギ、他のカルム男児たちが強張った表情で立ち尽くしていた。そんな中、ドランカドが落ち着いた様子でヨネシゲを出迎える。


「ヨネさん。お義兄(にい)さんとのお話は終わりましたか?」


「ああ。色々と話ができたよ。ただ、話が終わった途端これだからな」


「ええ。敵は先程まで、少人数でジワジワと攻めていたようですが、ここへ来て総攻撃を仕掛けているみたいです。恐らく奴らは、今夜中に蹴りを付けようとしているのでしょう……」


「今夜が山場ということか……」


 ヨネシゲは先程、マロウータンから聞かされていた。今夜を乗り切れば明るい兆しが見えてくると。

 南都軍陣営は、既にリゲル軍本隊が南都に到着しているものと推測している。リゲル軍の進行状況は文のやり取りで把握しているため、彼らの大方の位置は予想がつく。

 仮に今夜到着した場合、リゲル軍は夜明けと同時にエドガー・改革戦士団連合軍に総攻撃を仕掛けることだろう。

 そうなるとエドガー・改革戦士団は、来たるリゲル軍との決戦に備え、ブルーム平原の部隊に撤収を命じる筈だ。その命令がブルーム平原に伝わるのは、恐らく明日の未明頃。何故なら、南都からブルーム平原までの道のりは早馬で5〜6時間程。既に南都から伝令を飛ばしていれば、明日の未明、遅くても夜明けには到着する。

 明日の夜明け、ブルーム平原から改革戦士団は撤収する。でなければ、余力のない南都連合軍の総崩れは必須だ。

 今夜が山場――これが南都連合軍の見解だ。しかし、ここへ来て状況が悪化する。改革戦士団が突然攻勢を強め、総攻撃ともとれる猛攻を南都連合軍に仕掛けてきたのだ。


「恐らく俺たちにも出撃命令が下る筈です。いや、又は部隊の後退……或いは全軍撤退か……」


 顎に手を添えながら思考を巡らすドランカド。するとヨネシゲは、ドランカドの考えの一部を否定する。


「後退も撤退もあり得ないだろう。彼ら(マロウータンたち)は誇り高き南都の戦士だ。敵を食い止める事ができなかったら、戦場で華々しく散るつもりなんだ……」


 ヨネシゲは、マロウータンの口にした言葉を思い出す。


『――例え命尽きても、誇りだけは失わん!』


 そう。あの言葉は、マロウータンの覚悟の一言だったのだ。


(マロウータン様……その誇りは、生きているからこそ価値がある。おまけにあなたには可愛い娘さんも居るんだ。そう簡単に死なないでくださいよ……!)


 ヨネシゲは拳を強く握りしめながら、マロウータンの武運を祈った。

 

 程無くすると、男の勇ましい声が陣所に響き渡る。ヨネシゲが視線を向けた先には、見慣れた中年の大男の姿があった。


「カルムの誇り高き戦士たちよ! 私はクボウ家の家臣、リキヤである! 今から君たちに重要な話をする! よく聞いてほしい!」


 大男の正体は、クボウ家臣のリキヤだった。彼はエドガー討伐軍カルム駐留部隊の一員として、しばらくの間カルムタウンに滞在していた。その為、カルム隊の者たちの大半が彼の顔を知っていた。

 そして今回、リキヤはこのカルム隊の指揮官を務めることになっていた。


 そしてリキヤがカルム男児たちに問う。


「覚悟はできているか? 申し訳ないが、君たちの命を保証することはできない! だが無理強いするつもりはない。覚悟がある者だけ私に付いて来てほしい!」


 決断の時……出撃の時……



つづく……

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