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第12話 2つの空想



 ヨネシゲはヒラリーと共にチンピラ退治に向かうためカルム市場内を移動していた。ヨネシゲは不機嫌そうな表情でボソボソと独り言を漏らす。


「何で俺がチンピラを追い払いに行かなくちゃならないんだ」


 ヨネシゲは自らチンピラ退治を志願した訳ではない。ヒラリーによって半ば強制的に連れてこられたのだ。

 ヨネシゲの独り言はヒラリーの耳に届いていたようで、彼はヨネシゲを宥める。


「まあまあ、そう言わずに。みんなヨネさんのこと頼りにしてるんだからさ。なんたって、ヨネさんはこのカルムタウンのヒーローだからね!」


 ヒラリーはヨネシゲの伝説の数々を熱弁する。この世界でヨネシゲは、今日までカルムの街に迫った危機を幾度となく救ってきたらしい。そうして、いつしかヨネシゲ付いた異名が「カルムのヒーロー」だそうだ。


(この俺がこの街のヒーローか。そういえば……!)


 この世界は間違いなくソフィアが描いた物語、つまりソフィアの空想世界の中。ソフィアの想いが息づいたこの世界で、彼女の夫であるヨネシゲがヒーローという設定になっていても不思議ではない。

 更にヨネシゲには、自分がこの世界でヒーローと呼ばれる理由について、一つ心当たりがあった。

 

(俺はソフィアの書いた物語を読むとき、自身の姿を主人公に重ね合わせて読んでいた。つまり俺は物語の主人公。そしてその主人公は物語の中でヒーローと呼ばれていた。もしかしたら、その設定がこの世界にも反映されているのかもしれない)


 ヨネシゲはソフィアの物語を読む際、自身の姿を主人公と重ね合わせていた。要するにヨネシゲはソフィアの描いた物語の主人公となるのだ。

 そして、その主人公は物語の中でヒーローと呼ばれており、数々の悪党を退治していく設定だった。


(そう考えると、俺がこの世界でヒーローと呼ばれる理由も頷ける)


 また、ヨネシゲは主人公だけではなく、他の登場人物についても身近な人物と置き換えて読んでいた。例えばソフィアやルイス、姉のメアリーなど、ヨネシゲと縁のある人物たちも物語の一員として登場させていた。


 つまり、この空想世界には、ヨネシゲの記憶や想いも入り混じっていると仮定できる。


(だとしたら辻褄が合う。だからソフィアやルイスがこの世界に現れるのか!)


 ヨネシゲは結論に辿り着く。

 ヨネシゲはソフィアの描いた物語をベースにして空想に耽っていた。その空想にはヨネシゲの記憶や想いが強く反映されている。そして、ヨネシゲが迷い込んだ世界とは、ソフィアの空想とヨネシゲの空想が融合した唯一無二の世界だった。


(この空想世界で生きるソフィアとルイスは、俺の中で生き続けている2人の姿なんだ……!)


 ある日突然命を奪われたソフィアとルイスであるが、今も尚、ヨネシゲの心の中で生きている。その想いが形となってこの空想世界に現れたのだ。


(それにしても、何故俺はこの世界に迷い込んでしまったんだ?)


 ヨネシゲがこの世界に迷い込んでしまった理由。これが最大の謎かもしれない。どうして迷い込んでしまったかまでは答えを導き出せなかった。


(とりあえず、この世界が何なのかわかっただけでも大きな収穫だ)


 確たる証拠は無いものの、ヨネシゲはこの世界の正体を結論づける。

 ヨネシゲが自身の名推理に酔いしれていると、突然ヒラリーに体を揺すられる。


「ヨネさんってば! 着いたよ! 早く奴らを追い払ってくれよ!」


 ヨネシゲはハッとする。気付くと渦中の肉屋前に到着していた。


 肉屋の周りには大勢の人集りができており、皆が心配そうにして様子を見守っていた。店の内部からは男たちの怒号が聞こえてきた。怒号を聞いたヨネシゲは萎縮する。


(本当に俺がこのチンピラを追い払わなければいけないのか!?)


 ヨネシゲは尻込みしていると、突然ヒラリーに腕を引かれる。そしてヒラリーは群衆にヨネシゲが到着したことを盛大に伝える。


「さあ、お待ちかね! カルムのヒーロー、ヨネさんの登場だよ!」


(このオヤジ! 余計なことするんじゃねぇ!)


 ヨネシゲの登場に群衆から歓声が沸き起こる。

 ヒラリーは自分がヨネシゲを連れてきたと誇らしげの表情。一方のヨネシゲはこれから危険な目に遭わされようとしているのに、どこか楽しんでいる様子のヒラリーに怒りを覚えていた。

 

「さあ、退いた、退いた! ヨネさんのお通りだよ!」


 ヒラリーの声を聞いた群衆たちが導線を確保しようと二手に分かれる。すると店内へと続く道が現れた。ヨネシゲとヒラリーは群衆たちに見送られるようにして、店内へと進んで行くと、割れんばかりの声援が上がる。


「ヨネさん! 応援してるよ!」


「チンピラなんかぶっ飛ばしちまえ!」


(まるでプロレスの入場シーンだな。いや、そんな事を言ってる場合じゃないか。それにしても、ヒラリーが言う通り、俺は顔が知れた存在なんだな。でも顔も知らない人たちからヨネさんと呼ばれるのは違和感あるな)


 ヨネシゲは、この世界ではヒーローという設定であり、顔が知れているのも理解した。しかし見ず知らずの群衆たちが“ヨネさん”と呼んでくることにヨネシゲは違和感を感じていた。


 店内に入ると明らかにガラの悪そうな3人組の若い男が、肉屋の店主である大男を取り囲んでいた。その光景を見てヨネシゲの顔が引きつる。


(あんな奴ら俺一人じゃ手に負えないぞ! 無理だ、無理だよ!)


 ヨネシゲが後退りしていると、ヒラリーは大声でヨネシゲが到着したことを大男に伝える。


「お待たせ、ウオタミ! ヨネさんを連れてきたぞ!」

 

「ヨ、ヨネさんだって!?」


 この気の弱そうな大男の名前は「ウオタミ」

 ヒラリーの声を聞いたウオタミとチンピラたちが一斉にヨネシゲに視線を向ける。すると、ウオタミは涙目でヨネシゲに助けを求める。


「ヨネさんっ! 助けてくれっ!」


(こんな図体して、そんな目で助けを求めるなよ! こうなったらヤケだ。やるしかない!)


 ウオタミに助けを求められ、ヨネシゲはついに腹をくくる。

 ヨネシゲはチンピラたちを睨みつけると、ゆっくりと口を開く。


「おう、兄ちゃんたち。その辺にしといてくれるか?」


 肉屋の店内に緊張が走る。一同、固唾を飲んで騒動の行方を見守るのであった。



つづく……

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