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第133話 決戦前夜(前編)



 南都・ウラナス関所の北側にある丘には、リゲル軍の本隊が布陣していた。

 遠くに見える月明かりに照らされたトロピカル城を静かに眺めるリゲル親子。最初に口を開いたのはレオだった。


「父上。此度は随分と慎重ですな……」


 タイガーは軽く鼻で笑った後、レオに言葉を返す。


「相手は、あの抜け目ないオジャウータンを討った得体の知れない連中じゃ。何を企んでいるか見当がつかぬ。ましてや、この焼け野原では儂らの動きは奴らに筒抜けじゃ。迂闊に南都に足を踏み入れれば、痛い目を見るのは儂らかもしれんぞ?」


 険しい表情でトロピカル城を見つめるタイガー。そこへ、リゲル家重臣の渋面「バーナード」と筋肉オヤジ「カルロス」が姿を現す。


「タイガー様。お呼びですか?」


「バーナードよ。メテオ様に送る援軍の準備はできておるか?」


「はっ! ケンザンの部隊、ブルーム平原に向かう準備が整っております!」


「直ちに差し向けよ。メテオ様を改革戦士団に渡してはならぬ!」


「ははっ!」


 つい先程のこと。ブルーム領へ逃れた南都大公メテオから、援軍の要請を求める文がタイガーの元に届けられた。その中には事の経緯も記されていた。


「――『敵が、我が身を交渉の材料としても容赦はするな。この命失われた時は、臣下の面倒を頼む……』か。メテオ様から頼まれたら断れんのう……」


 文に記された文面を思い出しながら不敵な笑みを浮かべるタイガー。そんな彼にカルロスが気合が入った大声で言葉を掛ける。


「タイガー様っ! 我がブラント一族が誇る『ブラントマッスル部隊』も準備万端ですぞっ!」


「あいわかった。夜明けと共に移動を開始しろ。作戦を開始する際は、儂らに合図を送れ……」


「どのような合図を送りましょう?」


「そうじゃな……誰でもわかるような派手な合図で頼む」


「承知っ!」


 カルロスはタイガーとの会話を終えると、気合が入った様子でその場を後にする。その後ろ姿を見つめながら、タイガーが息子に語り掛ける。


「レオよ」


「はっ!」


「お主はこのリゲルを継ぐ男。強くなくてはならぬ。そして今回は、儂の戦い方を見せる絶好の機会じゃ。儂らの動きが筒抜けということは、奴らの動きも儂らに筒抜けということ。お主はこの特等席でこの戦を目に焼き付けておくのじゃ……」


 タイガーはトロピカル城に再び視線を移す。


「待っておれ。青二才共よ……!」


 最強の領主、タイガー・リゲルの狩りが間もなく始まろうとしていた。




 ――同じ頃。

 トロピカル城の大広間では、南都北側の丘に灯される篝火(かがりび)を眺める2人の男の姿があった。


「ついに、ここまで来たか……」


 そう言葉を漏らすのは、改革戦士団総帥マスターである。

 彼はカルムタウンの襲撃を終え、昨晩トロピカル城に入城していた。今はリゲル軍との決戦に備えて籠城の構えを見せている。


「我々が籠城を続ければ、流石のタイガーも痺れを切らすことだろう。いずれこの焼け野原となった南都の街に足を踏み入れ、この城を包囲する筈だ。そのリゲル軍をできるだけ引き付け……」


「タイガー諸共、纏めて始末するんだよな?」


 マスターの言葉を遮ったのはダミアンだった。彼は不気味な笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「最強と謳われる虎のおっさんとはいえ、今の俺たちに勝つことはできねぇ。なったって俺たちゃ総帥さんからチート級の力を与えられているんだからな! ()()()の借りは必ず返してやるぜ! フッフッフッ……ハッハッハッハッ!」


 意気揚々と高笑いを上げるダミアンに、マスターが警告する。


「ダミアンよ、お前の悪い癖だ。油断大敵であるぞ? タイガー・リゲルは数々の伝説を残してきた男。昨年、ウィンター・サンディと繰り広げた()()()()()の合戦は、まさしく世界の破滅とまで言われた激戦だった。そんな化け物が目と鼻の先に居るのだ。身震いが止まらん……」


 ダミアンはニヤリと笑みを見せる。


「随分ビビってるじゃん。らしくねえな総帥さんよ。それにしても、噂に聞くおむすび山の合戦とやらを生で見たことがあるのか?」

 

「興味本位でな。流石の私も身の危険を感じた……」


「へぇ~そいつは興味深いな!」


 興味津津のダミアンだったが、マスターは話題を切り替える。


「昔話をしている暇はない。それよりもダミアンよ。メテオを南都から簡単に逃がしてしまうとは……とんだ失態を演じてくれたな」


 ダミアンは不機嫌そうな表情で舌打ちしてみせる。


「だ・か・らっ! メテオは俺が直接捕まえに行くって言ってるだろ!? 許可してくれよ! 俺を馬鹿にした五大臣のジジイ共も始末しなけりゃならねえ!」


 そこへ改革戦士団幹部ジュエルが姿を現す。彼女はダミアンの直属の部下である。


「総帥。つい先程、リゲルの騎馬隊がブルームの方角に向かって走り去って行ったそうです」


「ほほう。メテオから救援要請を受けたか。リゲルの騎馬隊は風の如く速いからのう。明日の夜明けにはブルームに到着してしまうな……」


 ダミアンがマスターに尋ねる。


「呑気なこと言ってていいのか? 虎のおっさんにメテオを奪われたら厄介なんだろ?」


「そうだな。昨晩ブルームにはロイドとナイルを送り込んでいるが、タイガーがメテオに援軍を差し向けたなら分が悪い。当初の予定では、あの2人にゆっくりと南都の残党を殲滅させ、メテオを拘束してもらおうと考えておった。だが、予想以上にリゲル軍の動きが速すぎる。そこでだ、ブルームで戦う改革戦士たちに助け舟を……」


「俺が行くぜっ!」


 ダミアンは待ってましたと言わんばかりにブルームへの救援を買って出るも、マスターは彼から視線を逸らす。


「その必要はない。先程、ソードとサラをブルームに差し向けた。夜明けまでにメテオを拘束して帰還するよう命じてある。あの2人に任せていれば心配はいらないだろう……」


「ちぇっ! 結局使うのはお気に入りの2人って訳か! 面白くねえぜ……」


「オッホッホッ! まあ、そう怒るな。夜明けにはタイガーが攻撃を仕掛けてくる。お前に今動かれては困るのだよ。お前が南都を離れたら、誰がタイガーを食い止めるというのだ?」


 ダミアンはドヤ顔をして見せる。


「フフッ! 流石、総帥さん! 人の使い方が上手いぜ。わかったよ! 虎狩りは俺に任せてくれ!」


「頼りにしておるぞ、ダミアン」


 夜明けと共に訪れるであろう決戦の時。

 リゲル軍を迎え撃つ改革戦士団の明暗はいかに? 



つづく……

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