表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/395

第125話 終末のカルム(後編)



 想獣(ドラゴン)は地上のソフィアたちに向かって強烈な光線を放った。

 人々は恐れ慄く。


(終わった……)


 誰もがそう思ったその時である。

 一人の女が想獣に向かって飛び跳ねていく。


「お、お義姉さんっ!!」


 ソフィアが視線を向けた先。そこには、空中で両手を構える、メアリーの姿があった。更に彼女は想獣の光線を素手で受け止めていたのだ。


「す、凄え……」


 ルイスは上空を見上げながら、思わず言葉を漏らした。

 上空のメアリーは、想獣の光線を受け止めながら、ニヤッと笑みを浮かべる。


「随分と躾のなってない想獣だね。これは調教が必要だわ」


 彼女は受け止めていた光線を想獣に向かって跳ね返す。


「飼い主の顔が見てみたいわっ!!」


「ギャアァァァッ!!」


 跳ね返された光線を直に受けた想獣は、悲痛な断末魔と共に消滅した。


 メアリーが地上に着地すると、周りに居た人々から歓声が沸き起こる。


「よっ! メアリーちゃん、カルム最強の女子だ!」


「流石、元王国軍将校だ! あの光線を跳ね返しちゃうんだもんな」


 しかし、メアリーは歓声を受けるも、鬼の形相を見せながら周囲に睨みを利かせていた。周りに居た人々は彼女の表情を見て思わず後退りしてしまう。

 この時メアリーは、ただならぬ気配を察していた。


(何なの!? この気配は!? 途轍もない恐ろしい何かがこっちに近付いている。一体、どこに隠れて居るの!?)


 メアリーはルイスとリタに呼び掛ける。


「リタ! ルイス! 皆を守れるように身構えておきなさい!」


「わかったよ!」


 ルイスとリタは背中を合わせると、こちらに近づいて来る「何か」に備えて身構える。

 周囲の人々は不安な表情で身を寄せ合い、ソフィアはトムを、ゴリキッドはメリッサを抱き締めながら、固唾を呑んでその様子を見守っていた。

 辺りが静まり返る。

 ルイスたちが周囲に目を光らせていると、メアリーが危険を察知する。


「来る……!」


 彼女はそう言葉を漏らしながら背後を振り返る。と同時にルイスたちも彼女が振り向いた方向に視線を向ける。

 次の瞬間、強烈な衝撃波が人々に襲い掛かる。

 衝撃波は周辺の民家を次々に破壊し、こちらに迫ってきた。


「バリアよっ!!」


 メアリーが叫ぶ。

 ルイスとリタは咄嗟に空想術でバリアを発生させる。メアリーも、2人のバリアに重ねるようにして、もう一つのバリアを発生させた。

 3人が作り出したバリアは鉄壁の一言。ましてや、王国屈指の実力者であるメアリーが張るバリアだ。この最強クラスの防護壁を打ち破れる者など、そうそう現れないことだろう。


 しかし、その神話は脆くも崩れ去った。

 メアリーたちが発生させたバリアは、衝撃波によって一瞬で破壊されてしまった。メアリーたちの体は吹き飛ばされ、ソフィアや住民たちも衝撃波によってなぎ倒されていく。

 メアリー、ルイス、リタの3人が、痛みを堪えながら体を起こす。3人は、視界に飛び込んできた恐ろしい光景に、顔を青ざめさせる。

 頭や口から流血して意識を失う、ソフィア、トム、アトウッド兄弟の姿。更に他の住民たちも大きな怪我を負った状態で横たわっていた。

 ルイスとメアリーたちの悲痛な叫びが、周囲に響き渡る。

 

「か、母さんっ!?」


「トムっ! みんなっ!」


 ルイスたちが、倒れる家族の元へ駆け寄ろうとした時、男の不気味な笑い声が耳に届いてきた。


「オッホッホッホッ! 君たちのバリアが無かったら、その者たちは命を落として居たであろう……」


「!!」


 ルイスたちが振り返ると、そこには銀色の仮面と黒尽くめ衣装を身に纏った、改革戦士団総帥マスターの姿があった。しかし、ルイスたちは彼の存在を知らない。

 メアリーがマスターに問い掛ける。


「アンタ、何者……?」


 マスターは、音声合成のような低い声で彼女の問に答える。


「申し遅れた。私は改革戦士団総帥のマスターである。以後お見知り置きを……」


「改革戦士団の総帥ですって!?」


 突然目の前に姿を現したのは、今世間を騒がせる改革戦士団の総帥。

 驚愕した表情を見せるメアリーたち。するとマスターが、更に驚くことを口にする。


「王国軍元将校のメアリー・エイド、その娘リタ・エイド、そして、カルム学院空想術部員ルイス・クラフト……()()()()で何よりだ」


「どうして、俺たちのことを知っているんだ……?」


「私は……君たちのことなら何でも知っている。そこで倒れている、君の母親も従弟(いとこ)のこともな……」


「母さんと……トムのことも……?」


 何故、改革戦士団の総帥が自分とその家族のことを知っているのか? まさか、先日の学院襲撃の件で恨みを買ってしまったのか?

 ルイスの脳裏には色々な推測が飛び交っていた。その隣でメアリーが声を荒げる。


「さっきから黙って聞いていれば、不気味な男ね! アンタはストーカーか何かなのっ!?」


「オッホッホッホッ! ストーカーで結構。だが、君たちの姿も今日で見納めになりそうだ。君たちには消えて貰わねばならんからな」


 リタが苦笑いを浮かべながら、マスターに尋ねる。


「おじさん。随分と私たちに恨みがあるみたいだね?」


「恨みはない。寧ろ……殺すのが、心苦しい。だが……このふざけた世界を作り変える為には、君たちを滅ぼし、白紙にしておく必要がある……」


 ルイスは恐怖に満ちた表情でマスターに問い掛ける。


「意味がわからない……世界を作り変えるために、何故俺たちを滅ぼす必要があるんだ……?」


「君たちが……悪の根源によって生み出された存在だからだ……」


 メアリーが怒鳴り声を上げる。


「アンタっ!! ふざけた事ばかり抜かさないでちょうだい!! 悪はアンタたちの方よ!」


「相変わらずですね、()()()……」


「気安く()()()なんて呼ばないでっ!! リタっ! この不気味な野郎をぶっ潰すわよっ!!」


「あいよっ! トムたちの仇を取ってやるわ!」


 メアリーとリタがマスターに攻撃を仕掛けようとする。

 メアリーは全身を赤く発光させ、両手をマスターに向かって翳すと、強烈な蒸気を噴射させた。周囲には熱い程の熱気が広がり始める。


「アンタを蒸し殺して、改革戦士団を壊滅へ導いてあげるわっ!!」


 一方のリタも空想術を使用して、周囲の瓦礫をマスターの頭上に浮遊させると、その瓦礫を急降下させる。


「瓦礫の山に埋もれなさいっ!」


 マスターに襲い掛かる2人の攻撃。その様子をルイスは固唾を呑んで見守っていた。


 マスターは、迫りくる2人の攻撃を見つめながら、右手を振り翳した。次の瞬間、一同、目を疑うような光景を目の当たりにする。

 メアリー渾身の蒸気と、急降下する瓦礫の山は、瞬く間にマスターの右手に吸い込まれてしまった。 


「そ、そんなっ!? 伯母さんとリタの攻撃が、全く通じないだと……!」


「私とお母さんの技が、効かないなんて……」


 後退りするルイスとリタ。その2人を横目に、メアリーがある言葉を口にする。


「まさか……()()()()()()()……!」


「オッホッホッ! まだまだ完全系ではないが、習得するのに苦労したのだぞ?」


 メアリーの全身に悪寒が走る。彼女は声を震わせながら言葉を漏らす。


「スペースバリアが使えるなんて……この男、本当に何者なの……?」


 向かうところ敵なし……どんな敵相手でも怒りと強気で押し通すメアリーだったが、初めてルイスたちの前で怯えた姿を晒していた。その異様な光景に、ルイスとリタは途轍もない不安を覚える。


「伯母さん! いつもの勢いはどうしたんだよ!?」


「そうだよ! お母さんなら、どんな敵でも簡単に捻り潰すことができるでしょ!?」


 ルイスたちの言葉に、メアリーはハッとした表情を見せる。


(そうよ! 私は数々の修羅場をくぐり抜けてきた、戦鬼のメアリーよっ! こんな仮面野郎一人に何をビビってるのよ!)


「ルイス、リタ、ありがとう! 目が覚めたわ!」


「おぉ! 伯母さん!」


 ガッツポーズを見せるメアリーの姿を見て、ルイスとリタは安堵の笑みを浮かべた。


 メアリーは再び全身を赤色に発光させ、蒸気の渦を身に纏うと、地面を思いっ切り蹴り、マスターとの距離を一気に詰めていく。


「さあ! 覚悟なさいっ! この仮面野郎っ!」


「覚悟するのは……貴女の方だ……」


「何ですって!?」


 マスターが指を鳴らす。

 すると、突然メアリーの足元から紫色に発光する煙が発生。煙はあっという間にメアリーの体を包み、彼女から身動きを奪い取る。


「か、体が動かないわ……!」


 何とか藻掻こうとするメアリーだが、それすら叶わない様子だだ。

 心配そうな表情でメアリーを見つめるルイスとリタ。その2人にもマスターの魔の手が迫る。


「君たちも人の心配をしている場合ではないぞ? 足元をご覧なさい」


「!!」


 ルイスとリタが咄嗟に足元へと視線を下ろす。そこにはあの柴色に発光する煙が地面から立ち込めていた。やがて柴色の煙は、ルイスとリタの体の周りを旋回し始める。その途端、2人の体から自由が奪われてしまった。


「クソっ! 体がっ!」


「う、動かない……!」


 マスターは、身動きが取れない3人に向かって(てのひら)を広げる。


 メアリーが額に汗を滲ませながら、マスターに尋ねる。


「何をするつもり……!?」


「言ったでしょう? 君たちに消えてもらうと……!」


 マスターは広げていた掌をゆっくりと握り締めていく。と同時に聞こえてきたのは、3人の悲痛な叫び声だった。


「うわぁぁぁっ! く、苦しい! や、やめてくれっ!」


「あぁぁぁっ! や、やめてっ……! 心臓が破裂しちゃう……!」


「ぬあぁぁぁっ! こ、子供たちに、手を出さないで……!」


 自由を奪われたルイスたちは、藻掻くこともできず、胸部に襲う激痛を堪え続けていた。

 その様子をしばらく楽しんでいたマスターが、一気に拳を握り締める。その瞬間、3人の叫び声がピタッと止まる。

 柴色の煙から解放された途端、ルイス、メアリー、リタの3人はその場に倒れた。



つづく……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ