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第122話 軍医ジョナス



 この日の夜、南都大公メテオは、多くの臣下やその家族を引き連れ、トロピカル城を後にする。メテオの護衛は、マロウータンらクボウ家の兵士と、バンナイら南都五大臣の手勢で行われた。


「南都の誇り高き戦士たちよ……武運を祈っている……必ず……生き延びてくれ……!」


 メテオは馬車の窓から、遠く北側に見える戦火を見つめながら、リッカルドらの無事を祈るのであった。

 その彼の馬車の後ろには、同じく数台の馬車が縦に並んで走行していた。そのうちの1台に、マロウータンとその娘「シオン」、そして彼の専属執事「クラーク」の姿があった。彼らもまた、遠くに見える戦火を見つめながら、憂いの表情を見せていた。


「皆さん……どうか、ご無事で……」


「シオンよ、案ずるな。南都の戦士たちはヤワではない。彼らは必ず、エドガーと改革戦士団を食い止めてくれる! 彼らを信じよう……!」


「はい……」


 馬車の中に沈黙が流れる。

 一同、険しい表情で俯いていたが、マロウータンが沈黙を破る。


 突然、馬車の中にマロウータンの腹の虫が鳴き始める。彼は恥ずかしそうにして頭を掻きながら、笑い声を上げる。


「ウホッ……ウッホッハッハッハッ! す、すまんのう。考えてみたら、忙しすぎて朝から何も食べていなかったからな。腹が減ってしまった……」


「私もです……」


 ここでクラークが、待っでましたと言わんばかりの表情を見せる。


「旦那様、お嬢様。ご安心ください!」


 クラークは、脇に置いていたバスケットの蓋をマロウータンたちの前で開く。


「こ、これは!?」


「この爺めが、腕によりをかけて作った、爺特製サンドイッチをお召し上がりくださいませ!」


「おおっ! これは、ありがたい!」


「うわ! 美味しそう!」

 

 バスケットの中には、ぎっしりとサンドイッチが詰め込まれていた。

 マロウータンとシオンは、早速クラークが作ったサンドイッチを頬張る。クラークは微笑みながらその様子を見つめる。


(お二人のお気持ち……きっとリッカルド様たちに伝わっておりますよ。皆様が奮闘されている分、我々も一生懸命生きなければなりません。その為には、しっかりと食事を取らなければなりませんぞ……)


 マロウータンとシオンの健康を祈るクラークであった。


 マロウータンの馬車を追従する、もう一台の馬車。その馬車の中にはバンナイたち南都五大臣の姿があった。そして彼らは不穏な会話を行っていた。

 バンナイがアーロンに問い掛ける。

 

「アーロンよ。一体どうするつもりなのだ?」


「機を見定めるのだ」


「そんな悠長なことは言ってられんぞ? 改革戦士団からはメテオ様の身柄を引き渡すよう催促されているのだ。これ以上奴らを待たせば、儂らの身が……!」


「安心しろ、バンナイ。情勢が変わったことは改革戦士団に文を送って知らせている。奴らも理解するはずだ。それに、南都が奴らの手に渡ってからでも、メテオ様の身柄引き渡しは遅くないだろう」


「しかしだな……」


「考えてみろ。今回、あのタイガーが動くのだぞ? もし我々がメテオ様を拘束してから、エドガーと改革戦士団が敗れるような事になれば……」


 先程から2人の会話を聞いていたダンカンが、大量の汗を流しながら、言葉を漏らす。


「私たちは、タイガーを敵に回してしまうということになる……」


 バンナイが相槌を打つ。


「うむ。それだけは避けねばならんぞ。虎を怒らしたらお終いだ……」


 バンナイらの不穏会議は、この後も続けられた。




 その頃、エドガー・改革戦士団連合軍は、南都の北側を流れるコメット川を横断。リッカルドら南都軍が防衛戦を張る、ウラナス関所の目と鼻の先まで迫っていた。

 ダミアンは、遥か先に見える、月明かりに照らされたトロピカル場を見つめながら、不気味な笑顔を浮かべる。


「さあ、南都の虫けら共を一匹残らず始末しようぜ!」


 彼の背後には、口角を上げる改革戦士団四天王メンバーと、ダミアンの部下ジュエル、そして、グローリ地方領主エドガーの姿があった。

 エドガーが高笑いを上げる。


「フッハッハッハッ! 遂に、南都が我が手に渡る時が来たようだな! おい、君たち! 抜かりないよう頼むぞ」


 四天王サラが不機嫌そうに返事を返す。


「あなたに言われなくてもわかっているわ」


「フフッ。生意気な小娘だぜ……」


 ダミアンたちはエドガーの言葉を聞き流すようにして、前進していくのであった。


 南都に迫りくる、エドガー・改革戦士団連合軍本隊。


 ウラナス関所付近では、リッカルドが一人の男の元へ向かっていた。やがて彼は、関所付近の病院に到着する。

 この病院では戦闘で負傷した兵士たちの治療を行っている。空想治癒術で回復する者もいれば、重傷で治療に時間を要する者もいた。

 リッカルドは病院に入るなり、ある男の名を叫ぶ。


「ジョナス! ジョナスは居るか!?」


 リッカルドが呼び掛けると、白衣を着た、白髪交じりの紫髪オールバックの中年男が姿を現す。彼こそ、リッカルドが探していたジョナスである。


「リッカルド様、お呼びですか?」


「ジョナス。エドガーと改革の本隊がコメット川を越えた。もう直、ここも戦火に飲み込まれてしまう……幌馬車を用意した。君は重傷者を連れて退却しろ。」


「し、しかし!」


「軍医の君が、これ以上この場に残る必要はない。それよりも、立派に戦い重傷を負ったこの誇り高き戦士たちを君の手で救ってほしい」


 リッカルドの言葉に、重症を負った兵士たちが、声を振り絞りながら彼に訴えかける。


「リ、リッカルド様……そ、それは……いけません!」


「我々は……最期のその時まで……リッカルド様のお側に……!」


 リッカルドが彼らを一括する。


「ならぬ!」


 ジョナスもリッカルドに訴え掛ける。


「リッカルド様。私も彼らと同じ思いです! 最後までこの戦場に残り、命尽きるまで……!」


「ダメだ! 断じてならぬ!」


「ど、どうしてですか!?」


「ジョナス! 君は自分の立場を忘れたのか!? 君は軍医……医者なんだ! 戦場で散ることが医者の務めか!? 否っ! 一人でも多くの命を救うのが君の役目だろうが! 違うかっ!?」


「……はい。仰る通りです……」


 反論できずに俯くジョナス。するとリッカルドは彼の肩に手を置くと、優しく微笑んだ。


「生き延びよ。生きて生きて、散っていった者たちの……そして散っていく者たちの分まで、大切な者たちと幸せを築いてくれ!」


「リッカルド様……!」


 そして、リッカルドの大声が院内に響き渡る。


「南都守護役リッカルドが命令する! 軍医と負傷者は全員ブルームへ退却せよっ!」


「リッカルド様っ!!」


「行けっ!!」


 ジョナスはリッカルドに一礼すると、撤収の準備を始めた。

 この夜、ジョナスら軍医と負傷者たちは数十台の幌馬車でブルームへと退却した。


「ジョナス・エイド」

 トロイメライ王国軍に所属する敏腕軍医である。当初、オジャウータン率いるエドガー討伐軍に同行していたが、改革戦士団の襲撃に遭い、南都に逃れた。その後、リッカルド率いる南都軍に合流し、負傷者の治療に当たっていた。しかし、迫りくる改革戦士団を前にして退却を命じられ、戦場から退くこととなった。

 ジョナスには家族が居る。彼の妻はメアリー・エイド。メアリーはヨネシゲの実姉である。

 つまりジョナスは、ヨネシゲの義兄となる。



つづく……

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