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第116話 真夜中の襲撃



 真夜中の野原に響き渡る、男たちの悲痛な叫び。それを聞いたヨネシゲとオスギの背筋が凍り付く。


「何なんだ、この悲鳴は!?」


「わからねえ。ただ、尋常じゃないことが起きているのは確かだ!」


 男たちは、悲鳴を上げながら助けを求めている。そして、その声とは別に、他の男たちの怒号も2人の耳に届いていた。

 ヨネシゲとオスギは確信する。


「彼は何者かに襲われている……!」


「ああ。間違いなさそうだ……!」


「そうとわかったら、こうしちゃいられねえ!」


「ちょ!? ヨネさん! 何処へ!?」


「助けに行きます! 目の前で助けを求めている人たちを見捨てる訳にはいきません!」


 案の定、正義感の強いヨネシゲは後先のことを考えず、悲鳴が聞こえる方向へ突っ走っていく。その様子を眺めながらオスギは大きく息を吐く。


「確かに『前だけ向いていろ』とは言ったが、ヨネさんの場合は突っ走りすぎだよ……」


 そこへ、異変に気付いたドランカドとイワナリが姿を現す。


「オスギさん! この悲鳴は!?」


「わからんが、多くの男たちが何者かに襲われているみたいだ!」


「オスギさん。ヨネさんが居ないみたいですけど?」


「ああ。たった今、悲鳴がする方へ向かったよ」


「まったく、ヨネシゲの野郎! 無茶しやがって!」


「仕方ありませんね。今のヨネさんだけでは心配です。俺たちもヨネさんの後を追いましょう!」


 こうして、ドランカド、イワナリ、オスギの3人はヨネシゲの後を追い掛けて行くのであった。




 ヨネシゲは月明かりを頼りに、草むらの中を進んでいく。その間にも逃げ回る男たちの悲鳴、それを襲う男たちの怒号も真夜中の草むらに響き渡る。そして、その悲鳴の数が一つ、また一つと消えていく。


(クソっ! 何が起きている!? 急がないとまずいぞ!)


 ヨネシゲは現場へと急ぐ。

 やがて見えてきたのは6張りの大きなテント。その周りには数十名の人影が見えた。ヨネシゲは人影との距離を縮めていくと、その正体が次第に明らかになっていく。

 逃げ回る人々は、皆同じ灰色の長ズボンを履き、上半身は肌着という格好だった。そしてこの長ズボンは、ヨネシゲが履いているものとまったく同じものだった。

 

「ま、まさか……!」


 ヨネシゲは確信する。

 今目の前で襲撃されている男たちは、今朝自分たちと共にカルムタウンを出発し、南都を目指していた、南都防衛の出征者たちだ。彼らは泣き叫びながら逃げ回り、一部の者は血を流して倒れていた。


(何故だ! 何故こんなことに!?)


 ヨネシゲは逃げ回る仲間たちの背後に視線を向ける。そこには、無抵抗な仲間を執拗に追い掛け回す、柄の悪い連中の姿があった。

 彼らの胴には鎧が装着され、剣や銃などで武装していた。それだけではない。武装集団のメンバーの中には空想術も使いこなせる者もおり、狂気じみた笑みを浮かべながら、逃げ回る出征者たちに、炎や雷撃を浴びせていた。その光景は鬼畜の所業である。

 武装集団の非道な行いに、ヨネシゲは途轍(とてつ)もない怒りを覚える。


「冗談じゃねえ! 何故彼らがこんな目に遭わなければならないんだ!」


 怒鳴り声を上げるヨネシゲ。すると、その声に気付いた仲間の男が、ヨネシゲに助けを求めてきた。


「ヨ、ヨネさんっ! 助けてくれっ!」


「おう! 今っ……!」


「ぐわっ!!」


「!!」


 助けを求めてきた男は、ヨネシゲの目の前で突然倒れる。ヨネシゲが倒れた男に視線を下ろすと、その背中には大きな切り傷ができており、(おびただ)しい量の血液を流していた。

 ヨネシゲは彼の元に駆け寄ると、その体を抱きかかえる。


「おい! 大丈夫か!? おい! しっかりしろっ!」


 すると男はヨネシゲの顔を見上げながら、声を振り絞る。


「す……すまない……ヨネ……さ……カルム……帰れそうに……ない……や……」


「何言ってんだ! 皆一緒に、カルムに帰れるんだよ! 諦めるんじゃねえ!」


「ヨネ……さ……必ず……生きて……帰れ……よ……」


 男は口角を上げると、ヨネシゲの腕の中で息を引き取った。その彼の手に握られている、家族写真が入ったペンダントは、力尽きても離されることはなかった。

 ヨネシゲは抱えていた男を地面に寝かせると、ゆっくりと立ち上がる。

 ヨネシゲが辺りを見渡すと、大きな傷を負い、血を流して倒れる、多くの仲間たちの姿があった。その光景を目にしたヨネシゲは、怒りで身を震わせる。


「ゆ……許さん……」

 

 ヨネシゲが正面へ視線を向けると、そこには不敵な笑みを浮かべて仁王立ちする、武装集団の姿があった。


「イヒヒヒッ! オヤジ! 涙のお別れはもう済んだかい?」


「安心しろ。お前もコイツと一緒に、あの世に送ってやるよ!」


「喜べ! お前が持っている金品は、俺らが余すことなく使ってやるぜ!」


 高笑いを上げる武装集団の男たち。そんな彼らにヨネシゲは一歩ずつ間合いを詰めていく。


「ほう、潔いじゃねえか。自分から殺されに来るとはよ!」


 武装集団の一人が、間合いを詰めるヨネシゲに剣を向ける。


「ヘヘッ! そんじゃ、俺がこの剣で地獄に送ってやるぜ!」


 武装集団の男はそう言葉を放つと、手が届く距離まで近寄ってきたヨネシゲに、剣を振り上げる。


「その脳天、真っ二つに割ってやるよ!」


 武装集団の男はヨネシゲに、勢いよく剣を振り落とした。次の瞬間、目の前で起きた出来事に、彼らは戦慄する。

 男が振り落とした剣をヨネシゲは右手だけ、それも素手で受け止めたのだ。常識的に考えたら、今頃ヨネシゲの手は真っ二つに切り落とされているだろう。

 だが、武装集団はその状況にすぐ察しがついたようだ。


「く、空想術か……!」


「だ、だろうな。でければこの状況は説明できねえ!」


 そう。ヨネシゲは空想術を使用して自身の右手を鋼鉄化させていたのだ。それは通常の剣撃では傷一つもつけれない程の強度である。

 ヨネシゲはその鋼鉄化された右手で剣の刃を握りしめると、それを一気にへし折る。


「ヒイィィィッ!!」


 男は折られた剣を手に手にしながら腰を抜かす。


「小物が……」


 冷たい眼差しで腰を抜かした男を見下ろしていたヨネシゲだったが、気付くと彼の周りを武装集団が包囲していた。


「この野郎! 一体何者だ!? ただのオヤジじゃ無さそうだな?」


 動揺を隠しきれていない武装集団の男たちに、ヨネシゲは自ら名乗り始める。


「俺は、ヨネシゲ・クラフトだ! 貴様らは絶対に許さねえ! 鉄槌を食らわしてやる!」



つづく……

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