第113話 雑炊
「よし! 完成っすよ!」
ドランカドは自分で組み立てたテントを自画自賛する。そして、ヨネシゲたちもそのテントを眺めながら、歓喜の声を上げていた。
「ヨッシャー! これで寝床が確保できた! 今夜はゆっくり寝れるぜ!」
ヨネシゲは飛び跳ねながら喜びを表現していた。そんな彼を見てイワナリが笑い声を上げる。
「ガッハッハッ! ヨネシゲは子供だな!」
「よく言うぜ。そういうお前こそ、さっきスキップして喜んでただろ?」
「なんだ、見てやがったのか……」
そこへ、オスギの呼び声が聞こえてくる。
「お〜い! みんな! 晩飯できたぞ!」
「オスギさん、ありがとうございます! そんじゃ、みんな。メシにしようぜ!」
ヨネシゲたちは焚き火を囲む。
火に掛けられた鍋の中で、菜っ葉と茸の雑炊が煮え立っていた。
米や調味料は各自持参したものであり、菜っ葉や茸などは、植物に詳しいオスギが街道沿いで採ったものだ。ちなみに、この木皿や鍋も各自持参している。米を持ってきても調理器具がなければ何も始まらない。
腹が減っては戦ができぬ。彼らは食事の準備だけは怠らなかった。
「おっ! これはオスギさん特製雑炊だ! こりゃあ美味そうだ!」
「さあ、冷めないうちに食べてくれ」
「はい! いただきます!」
オスギは雑炊を木皿に盛り付けると、それをヨネシゲたちに配り始める。全員に雑炊が行き渡ったところで、一同、スプーンを手に取る。
「そんじゃ、いただきます!」
ヨネシゲは、熱々の雑炊をスプーンで掬うと、息を吹きかけ冷ましながら、口に運ぶ。
「美味い! こりゃ絶品だ! 茸の良い出汁が出てますよ、オスギさん!」
「そいつは良かった。まだまだあるから、腹いっぱい食ってくれ!」
薄味でシンプルな雑炊も、星空の下、仲間と囲んで味わうと、その味もより一層引き立つのだった。
同じ頃、南都から少し離れた平原では、エドガー・改革戦士団の本隊が炊事を行っていた。そして改革戦士団幹部たちも焚き火を囲み、食事を楽しんでいた。
男たちは獣の肉を豪快に齧り付き、女たちはシチューとパンを口に運んでいた。
ダミアンは食べ終えた獣肉の骨を投げ捨てると、不敵な笑みを浮かべながら言葉を漏らす。
「この獣肉とももう少しでおさらばだな。明日には南都に到着する。そしたら久々にまともなメシが食えそうだぜ」
彼が漏らした言葉に、リーゼント頭の男が反応する。彼は改革戦士団四天王の一人「チャールズ」である。残忍な元海賊の首領である。
「そうか? 洒落た料理よりも、俺はこっちの獣肉のほうが口に合うがな」
「確かに悪くない味だ。だがな、朝昼晩、3日間もこの肉を食ってりゃ、流石に飽きるぜ」
桃色髪の女が、ダミアンに気遣いの言葉を掛ける。
「ダミアン。シチューでも食べたら? 美味しいよ?」
「そうだな。少しもらおうか……」
桃色髪の女はシチューを皿に盛り付けると、ダミアンに手渡した。
彼女の名前は「ジュエル」
改革戦士団の幹部である。ダミアンには非常に懐いており、彼直属の部下として常に行動を共にしている。
「どう? 美味しい?」
「ああ。シチューも悪くねえ。普通に美味いぜ」
「ホント!? 良かった! そのシチュー私が作ったのよ!」
「フフッ、良い味だぜ。美味いシチューにはパンが良く合う。パンも貰おうじゃねえか」
「うん! 今焼き立てのパン持ってきてあげるね!」
ジュエルは嬉しそうな表情を見せると、パンを取りに炊事場に向かった。その様子を羨ましそうに眺める男の姿があった。
「微笑ましいねえ〜」
そう言葉を漏らす、金髪ロングヘアのサングラス男は、改革戦士団四天王の一角を担う「アンディ」である。詐欺王の異名を持つ極悪ペテン師だ。
アンディはダミアンたちを横目にしながら、銀髪の仮面男に声を掛ける。
「そういえば、南都の大臣に送った手紙。返事は来たのかい?」
「まだだ……」
アンディの問に仮面男が返答する。彼の正体は、改革戦士団四天王のリーダー格「ソード」である。
ソードは、食後の珈琲を味わいながら、言葉を続ける。
「無理もない。内容が内容だからな。いくら王族に恨みがあるからとはいえ、南都大公を拘束して引き渡せなどという手紙に、そう簡単に返事は返せない筈。彼らにも良心があることだろう」
すると、三角帽子を被った赤髪の女が口を挟む。
「ある意味、メテオを拘束することは、今回の最大ミッションよ。南都の街を火の海と化し、貴族たちを皆殺しにすることは容易いわ。だけど、目標に逃げられてしまっては、今回の作戦は失敗という結果に終わる……」
彼女の名は「サラ」
改革戦士団四天王の紅一点であり、強力で多彩な空想術を自在に操ることができる、万能空想術使いである。
サラの言葉を聞いたソードが結論を求める。
「要するに?」
「南都の大臣に揺さぶりを掛けましょう……」
サラはそう言うと、カバンから手のひらサイズの水晶玉を取り出し、ダミアンにそれを差し出す。案の定ダミアンは不思議そうな表情で尋ねる。
「な、なんだよ? 水晶玉なんか俺にどうしろっていうんだよ?」
サラは不敵な笑みを浮かべる。
「メッセージよ」
「メッセージ?」
「そうよ。この水晶玉に、南都の大臣宛のメッセージを記憶させたいの。だからダミアン。ナンバー2のあなたから一言お願い」
ダミアンは不気味な笑顔を見せる。
「要するに……南都のジジイ共を脅せばいいんだな?」
「ええ。早く返事を返すよう催促して」
ダミアンは、サラから受け取った水晶玉を狂気じみた笑みで見つめる。そして彼は水晶玉に語り掛けるようにして言葉を放つ。
「よう、おっさん! 俺は黒髪の炎使いこと、改革戦士団最高幹部のダミアン・フェアレスだ。先日送った手紙だが読んでくれたか? もし読んだならとっとと返事をくれるかな? 俺たちはこれから、南都の人間を皆殺しにする。あんたも例外じゃないぜ。もし長生きしたいなら……フフッ! 言わなくてもわかるよな? 賢明な判断をよろしく頼むよ」
ダミアンは高笑いで締めくくる。
サラは、彼の声と映像が記憶された水晶玉を夜空に放つ。すると、水晶玉は流れ星の如く南都の方角へ姿を消した。
つづく……




