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第112話 マロウータンの娘



 南都大公メテオとの話し合いを終えたマロウータンは、何やら慌てた様子で帰宅する。

 彼の自宅は、南都アナザローヤルにある、3階建ての立派な屋敷だ。屋敷の正面には噴水付きの立派な庭園が広がっており、彼が位の高い貴族であることが窺える。

 マロウータンが屋敷の扉を開くと、小柄な老年男が出迎える。


「旦那様、お帰りなさいませ」


 七三分けの白髪と、立派な黒い口髭と白い顎髭。ギョロッとした力強い目を持つ彼の正体は、マロウータン専属執事「クラーク」である。

 笑顔で出迎える彼に、マロウータンが慌てた様子で問い掛ける。


「爺! シオン、シオンは()るか!?」


「お嬢様ならお部屋に居りますが……どうなさったのですか?」


「いや……城で良からぬ噂を聞いたのだ」


「噂ですか?」


「ああ。実はな……」


 マロウータンが事情を説明しようとした時、力強い女の声が玄関フロアに響き渡る。


「お父様! お帰りなさいませ!」


「シオン!」


 マロウータンが正面へ延びる階段を見上げると、そこには黒髪ショートヘアの若い女の姿があった。

 紫色の瞳に、額の辺りで切り揃えられた前髪。少々気が強そうな彼女の正体は、マロウータンの愛娘「シオン・クボウ」である。

 シオンは紫色の戦装束を身に纏い、右手には槍が持たれていた。マロウータンは娘の格好を目にすると、呆れた表情で溜め息を漏らす。


「噂は本当だったか……シオンよ、その格好は何なんじゃ……?」


 シオンは自慢げな笑みを浮かべながら返事する。


「ご覧の通りです! 私も皆と共に戦います! お父様直伝の槍と空想術で、この南都を守り抜いて見せましょう!」


 マロウータンは慌てた様子でシオンの元まで駆け寄ると、彼女の肩を両手で掴む。


「シオンよ! お前は、戦わんでよい!」


 シオンは納得いかなそうな表情で言葉を返す。


「それは何故ですか? 私が女子(おなご)だからですか?」


「そうじゃ! 嫁入り前の大事な体に、傷などついたらどうする!?」


「フッフッフッ! 傷の一つや二つ……お相手に自慢して差し上げますわ!」


 マロウータンは頭を抱える。


「儂は、お前の身を案じておるのじゃ。娘のことが心配じゃない父親など何処にいるか?」


 シオンは険しい表情を見せる。


「お父様。私の身を案じていただき、ありがとうございます。ですが……戦わなければ、私の気が済みません」


 マロウータンはシオンに問う。


「何故、戦いたいのじゃ?」


「敵に一矢報いなければ……お祖父様や伯父様が気の毒でなりません……」


 シオンの返事を聞いたマロウータンは、息を大きく吐いた後、ある話を切り出す。


「シオン、よく聞くのじゃ。今回は……敵と戦う必要はない……」


「な、何故ですか!? 敵と戦わないって……逃げるおつもりですか!?」


「落ち着くのじゃ。よいか? これから話すことは他には漏らすな……」


 マロウータンは、先程大公メテオと話し合った内容を愛娘に聞かせるのであった。




 同じ頃、ヨネシゲはカルム領内の小さな村に到着していた。この村で、カルムタウンを出発してから最初の夜を迎えることになる。

 ヨネシゲ一行は、今晩泊まる宿を探している最中だった。しかし彼らは、悩ましい現実に直面していた。既にこの村の宿は、どこも満室状態だったのだ。ヨネシゲたちは途方に暮れる。


「参ったな。どうすりゃいいんだよ!? 初日からこれじゃ先が思いやられるぜ」


 不機嫌そうにして愚痴をこぼすヨネシゲに、ドランカドが宥める。


「ヨネさん、仕方ないっすよ〜。カルムタウンからあれだけの人数が移動してるんです。おまけに進める距離も同じですから、皆この村で夜を越すはず。そうなれば、宿が満室になるのも必定です」


「確かに。言われてみればそうだな。俺の考えが甘かった。宿のことまで考えていなかったよ……」


「無理もありません。これから生きるか死ぬかの戦場に向かっていますからね。宿の事まで頭が回る人のほうが稀ですよ」


 2人の会話にイワナリが割って入る。


「けどよ、本当にどうするんだ? 宿が見つからなかったら、野宿ってことか?」


「ええ。そうなりますね。既に村の外れでテントを張ってる人の姿も見えたんで、空室を探すのはもう諦めたほうがよろしいかと……」


「そ、そんな〜!」


 落胆するイワナリの隣で、オスギが苦笑いを見せる。


「ハハッ。野宿は避けれなそうだな。だが、せめてテントは欲しいところだ。この老体に夜風は堪える……」


 するとドランカドが自慢げな表情を見せる。


「へへっ。皆さん、ご安心ください! こんな事もあろうかと、特大テントを持ってきてありますよ!」


「おぉ! これはっ!」


 ヨネシゲたちは目を輝かせる。

 ドランカドの、パンパンに膨れたリュックの中から、折り畳まれたテントとその骨組みが出てきた。

 ヨネシゲはドランカドの肩を叩く。


「流石だ、ドランカド! 準備抜群だぜ!」


「へへっ、ありがとうございます! さあ、早いとこ、良さそうな場所探して、テント張っちゃいましょう!」


「そうだな! なんか、ワクワクしてきたぜ!」



 ヨネシゲたちは子供のようにはしゃぎながら、テントの設営に向かうのであった。



つづく……

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