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第109話 街道ランチ



 時刻は正午。

 朝から休み無しに移動を続けていたヨネシゲたちだったが、ついに待ちに待った昼食の時間を迎える。

 ヨネシゲたちは、街道脇にある、海が見渡せる緩やかな斜面に着座すると、膝の上に弁当を広げる。そして一同、互いに弁当の品評会を行う。

 ヨネシゲはドランカドの弁当箱を覗き込む。


「おっ! ドランカドの弁当、美味そうだな!」

 

「へへっ! ドランカド特製スタミナ弁当っすよ! とくとご覧ください! このニンニクを効かせた焼き肉が美味いんですよ!」


 ドランカドの特大弁当箱には、所狭しと肉料理が詰め込まれていた。かなりのニンニクを使用しているようで、辺りにはニンニクの香りが漂っていた。これを食べたら、間違いなく翌日まで匂いが残ることだろう。


「ニンニクの匂いが凄いな」


「ええ。俺、ニンニク大好きなんですよ。ニンニクと酒は俺のパワーの源ですからね! だけど翌日は、ニンニク臭漂わせすぎて、よくリサさんに怒られてますよ」


「ガッハッハッ! ドランカドらしいや!」


 ヨネシゲは続けてイワナリに視線を移す。


「フフッ。まったく、あの野郎……」


 ヨネシゲはニヤリと笑みを浮かべる。

 イワナリは可愛らしい熊の弁当箱に入った料理を頬張りながら、大粒の涙を流していた。そんな彼にヨネシゲはちょっかいを出す。


「ガッハッハッ! どうしたイワナリ。らしくねえじゃねえか。自慢の強面が台無しだぜ!」


「うるせぇ! 強面を褒められても嬉しくないわい! 俺は今、娘の愛情を噛み締めてるところなんだ! 邪魔するんじゃねえ!」


「ハッハッハッ! 悪かったな」


 これ以上からかうと、イワナリを本気で怒らせてしまうことだろう。今はそっとしておいたほうが良さそうだ。

 次はオスギの弁当だ。ヨネシゲが彼に声を掛ける。


「やっぱり、オスギさんはいつものケチャップライスですか?」


 オスギの弁当といえば、具無しケチャップライスの上に炒り卵がまぶされたものがお決まりだ。しかし、今日はその弁当に異変が起きているようで、オスギは驚いた表情を見せていた。


「いや、それが……今日はいつものケチャップライスの上に、これが乗ってるんだよ」


 ヨネシゲはオスギの弁当箱を覗き込む。


「これは鶏肉のソテーだ。美味そうですね!」


 オスギは笑みをこぼす。


「ああ。これは……俺の大好物さ」


 ヨネシゲは、嬉しそうに弁当を食べるオスギの姿に微笑みを浮かべる。するとその彼から尋ねられる。


「そういうヨネさんはどんな弁当だい? 見せてくれや」


 ドランカドもオスギに便乗する。


「そうっすよ! 俺もヨネさんの弁当気になりますね〜」


 ヨネシゲは自慢げな表情を2人に見せると、膝の上に風呂敷を広げる。そして風呂敷の中から出てきたのは、竹皮に包まれた、3つの大きな握り飯だった。具はヨネシゲ好物の塩鮭である。

 他の3人の弁当に比べると見劣りするが、このシンプルさが逆に食欲をそそる。

 風呂敷の中には、おしぼりまで用意されており、ソフィアの気遣いと優しさが感じられる。

 ヨネシゲは早速、ソフィアが握ってくれた塩鮭の握り飯を頬張る。


「美味い……優しい味だ……」


 程よい塩加減、(ほぐ)された塩鮭、ふっくらと握られた握り飯は、口の中いっぱいに広がっていく。そして青い海と空を眺めながら食べる愛妻弁当(おにぎり)は格別の一言である。


(おにぎりとはいえ、ソフィアの手料理はしばらくお預けだな……いや、ひょっとしたら、もう……)


 ヨネシゲは首を横に振る。


(弱気になるな、俺! 生きて帰って、またソフィアの手料理を腹いっぱい食うんだ!)


 ヨネシゲはソフィアの作った握り飯を噛み締めながら、生きて帰ることを誓うのであった。




 ――ここは、南都の街と海を見下ろす、鉄壁の要塞「トロピカル城」

 トロピカル城は陸と海を跨ぐ作りになっており、正面には城下町、背面にはトロイメライ南海が広がっている。

 この城の主は、大公「メテオ・ジェフ・ロバーツ」

 国王ネビュラの弟である彼は、王族の権力を南都まで行き渡らせるために派遣されている。南都大公、南都王弟などと呼ばれており、国王ネビュラに次ぐ権力の持ち主だ。


「どうすればよい……このまま籠城して、勝ち目はあるのだろうか……?」


 ナンバー2は、そう言葉を漏らしながら、大広間の中を落ち着きのない様子で行ったり来たりしていた。

 メテオも兄ネビュラと同じく、ブラウンの髪と顎髭、青い瞳の持ち主であるが、その顔は兄と違いどこか頼り無さそうだ。

 メテオは顎に手を添えながら、独り言を続ける。


「徴兵令でかなりの人数が南都に集結する見込みだが、寄せ集めの兵で敵う相手ではない。あのオジャウータン殿でも敵わなかったのだ。民たちを無駄死にさせる結果に終わってしまう……」


 彼の独り言に、一人の老年男が反応する。


「メテオ様。それは戦ってみなければわかりません」

 

「バンナイ……」


 メテオから「バンナイ」と呼ばれるこの老年男は、南都での政の要的存在である、南都五大臣の一角を担っている。

 バンナイは言葉を続ける。


「例え民であっても、陛下がご用意なさった兵士に変わりはありません。惜しみなく使わねば、それこそ陛下のお気持ちが無駄になってしまいます」


「兄上の気持ちなど、どうでもよい! 守るべきは人命だ。そもそも、私がこの城に籠もる意味があるだろうか? 私が退(しりぞ)けば、多くの命が助かる……」


 バンナイが呆れた表情を見せる。


「メテオ様。南都をお捨てになるおつもりか!?」


「そうは言っておらぬ! ここは一度退いて、機会を見るのもありだろう?」


「それはなりません! メテオ様にその気が無くても、傍から見れば、南都を捨てたも同然の行い。メテオ様は勿論、王室そのものの権威が失墜することでしょう。そうなれば、陛下はさぞお怒りになることでしょうな……」


「では、どうすればいい!? 私は戦いを避けたいのだ!」


「メテオ様! 戦うしかないのです!」


 メテオは頭を抱えながら苦悩していると、突然、甲高い男の声が、大広間に響き渡る。


「メテオ様! お待たせ致しました!」


 メテオが視線を向けた先には、膝を折る中年男の姿があった。中年男は烏帽子を被り、白塗りにされた顔には眼鏡が掛けられていた。


「マロウータン・クボウ! 只今、戻りました!」


 彼の正体は、オジャウータンの次男にして、南都五大臣の一角、マロウータンだった。



つづく……

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