表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/396

第101話 憩いの酒場 【挿絵あり】



 南都出征まで、あと3日。

 家族と過ごせる時間も残り僅かとなっていた。召集令状を貰った者たちは、家族と共に思い思いの時間を過ごしているようだ。


 その頃ヨネシゲは、ドランカドと共に、海鮮居酒屋カルム屋で酒を酌み交わしていた。

 本当は、家族団らんの時間を大切にしたかったヨネシゲだったが、ドランカド達ての願いにより、彼とのサシ飲みに付き合うことになった。時間は夕刻前の一時間だけ。夕食は帰宅後、家族と一緒に楽しむつもりだ。

 ドランカドは上機嫌でグラスに入ったビールを飲み干す。


「いや〜! ヨネさんと酒が飲めて本当に良かったすよ! もしかしたら、もう一緒に酒を飲めないかもしれませんからね!」


「こらっ! 縁起でもないこと言うんじゃねえ!」


「へへっ。すんません。でも、戦場に行ったら、ゆっくり酒を飲んでる余裕は無いっすからね。ヨネさんも今のうちに酒をチャージしたほうがいいですよ!」


「うむ。確かにな……」


 これから自分は戦場に赴く。ヨネシゲはその実感を日に日に感じていた。

 ヨネシゲはグラスに入ったビールを一気に飲み干す。


(やはり……不安を抱えて飲み酒は美味しく感じられんな。おまけに酔うこともできんよ……)


 ヨネシゲが辺りを見渡すと、店内は満席状態、大繁盛していた。訪れている客たちの表情は様々。楽しそうに笑顔を浮かべている者が居れば、馬鹿騒ぎしている者、静かに酒を味わう者、中には大泣きして仲間との別れを惜しんでいる者の姿も見えた。

 ヨネシゲが空のグラスを握りながら、険しい表情を見せていると、ドランカドがビールの瓶を差し出す。


「はい、ヨネさん。お注ぎしますよ」


「おお、すまんな……」


 ドランカドは何故か満足気な表情を見せる。


「ヨネさん。俺はヨネさんと酒が飲めて嬉しいですよ」


「フフッ。そうか?」


「ええ。覚えていないと思いますけど、俺がまだカルムタウンに来て間もない頃……俺がこの店で一人酒を飲んでいるところを、ヨネさんが声を掛けてくれたんですよ?」


「え? そんな事があったんだな……」


「あの頃は俺は、気分が落ち込んでましてね。現実に失望してました。そんな俺にヨネさんは声を掛けてくれて、励ましてくれて、ビールを注いでくれた……俺、本当に嬉しかったんですよ……」


「ドランカド……」


「だからヨネさん! 今度は俺が励ます番です!」


 ドランカドはそう言い終えると、ヨネシゲのグラスにビールを注ぐ。


「ドランカド……お前がそんな思いで俺を飲みに誘ってくれたとは知らなかったよ。すまなかったな……」


「いやいや! やめてくださいよ、水臭い。俺とヨネさんはそんな仲じゃないでしょ? ヨネさん公認の飲み仲間として当然の行いです!」


「ハハッ。認めた覚えはないぞ?」


「えぇっ!? まだそんな事を言う! いい加減認めてくださいよ!」


「ハッハッハッ! すまんすまん。ドランカドは、俺の最高の飲み仲間だ!」


「ヨネさ〜ん! 俺、泣いちゃいますよ?」


「ガッハッハッハッ! 泣け泣け!」


 気付くとヨネシゲからは、自然と笑顔が漏れ出していた。

 ヨネシゲとドランカドが、冗談を言い合いながら酒を酌み交わしていると、カルム屋看板娘のクレアが2人の元に姿を現す。


「ヨネさん、ドランカドさん、盛り上がっているね!」


「おうよっ! 盛大にやらせてもらってるぜ。そう言うクレアちゃんは忙しそうだね」


「そうかしら? 満員御礼だけど、全然忙しいと思わないよ。寧ろ楽しんでるの」


「流石クレアちゃん! そいつは大したもんだ!」


「みんなが……ウチの料理とお酒で、少しでも癒やされて元気になってもらえるなら、私はいくらでも働くよ! 店長も召集は免れたし、これからもカルム屋は皆の憩いの場であり続けるよ。こんな辛い時期だからこそ、私たち飲食店が頑張る意義があると思うの!」


「おう! その意気だ! 頑張ってな、クレアちゃん!」


「流石クレアちゃん! 応援してるっすよ!」


「ありがとう!」


 クレアは意気込みを熱弁していたが、突然何かを思い出したかのようにハッとした表情を見せると、慌てた様子でヨネシゲたちに尋ねる。


「あっ! そうだったわ! そんな事より2人共。あちらお客さんなんだけど、相席してもいいかしら? 他に席が空いてなくてね……」


「相席……?」


 ヨネシゲが店の出入口に視線を向ける。そこには黒い衣装を身に纏った一人の男の姿があった。






    挿絵(By みてみん)






 顔の下半分は布で隠されているが、青い瞳と太い眉毛だけは、はっきりと確認できる。


(なんだ? 占い師か?)


 ヨネシゲがそんな事を思っていると、クレアが両手を合わせて頼み込む。


「お願い! あの人、異国から来た旅人らしいの。他の店は満員で断れ続けているらしくて……可哀想だから仲間に入れてあげて」


 夕刻前にも関わらず、どうやらこの近辺の飲食店は既に満席のようだ。恐らく召集令状を貰って休暇に入った男たちとその家族が、(こぞ)って外食に訪れているのだろう。


「おお……俺は構わないぞ。なあ? ドランカド」


「ええ! 寧ろウェルカムっすよ! 酒は大勢で飲んだ方が楽しいですからね!」


「流石2人共、心が広い! じゃあ、早速案内するね!」


 クレアはヨネシゲたちに礼を言うと、黒尽くめ男の元まで駆け寄っていく。



つづく……

ご覧いただきありがとうございます。

次話投稿は、本日の20頃を予定しております。

是非、ご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ