セフレの子どもを妊娠した
思いついてから一晩で書き上げてみたものの、なんだこれってなった作品ですがもったいない精神で投稿します。
不快になる可能性がありますので無理だなと思ったらすぐに撤退してください。責任は取れません
「……マジ?」
二本目の妊娠検査薬も陽性反応を示したことで私はようやくその事実を受け止めることにした。
子どもの父親で思い浮かぶのはセフレの橘大輝しかいない。恋人もない、他に遊ぶ男友達もない。セックスはここしばらく大輝としかしていないのだから当然だった。
でもなんで妊娠なんてしたんだろう。ナマでやるほど私も大輝も馬鹿じゃないから毎回きっちりゴムは付けていたし一応妊娠しにくい日を狙って誘いをかけていたはずなのに。
思い当たる節はないけれど妊娠してしまったことは純然たる事実だし、避妊具も安全日も100パーセント妊娠しないとは保証していないのだからこうなってしまった以上認めるしかなかった。
結婚もしてない、するつもりもない相手との子ども。
おろすという判断は一瞬も考えなかった。
かと言って相手に責任を取ってもらうつもりもなかった。
うちは元々シングルマザーの家庭で母も祖母も、少し年の離れた姉でさえいい男性に巡り合わずにひとりで子どもを産んでいる。もちろん金銭面の不安や社会的風当たりなんかを感じたことがなかった訳では無いけど、私も姉も精一杯愛情込めて育ててもらったしそこになんの不満もなかった。
だからシングルマザーだったとしても育てていけると思った。私には母も姉も祖母も健在だから。ベテランの先輩ママに囲まれている安心感があった。
という訳でこれからはセックス出来なくなる訳だし大輝とはお別れになるだろう。セフレの妊娠なんて男性が嫌がることの上位ではなかろうか。大輝は悪い奴ではないけど、セックスするだけの相手にそこまで面倒見てくれるとも思ってないし、こちらも特にそれは望んでない。
仕事は少し離れなければいけなくなるだろうが、うちの会社もシングルマザーの多い会社で女性が多くそういう理解の進んだところなので出産休暇も保育所も完備だったりする。若手の女性社員はママさん社員の手助けをし、また若手が妊娠したときは子育てが落ち着いた先輩社員が手助けをするという互助会のようなシステムが出来ており、誰もが安心して子どもを産み育てることの出来る優良企業なのだ。
私もいずれは子を持ちたいと思っていたから、そして自分の母のような人たちを少しでも助けられたらと思って、この会社を選んでいた。
まさか自分もシングルマザーになるとはその時は思っていなかったけれど。
大輝に簡単に別れの連絡をする。最近はメッセージアプリでササッと告げられてはいサヨナラとなる。こういう人間関係の希薄さは寂しさもあるが時に楽でいい。
これで後腐れなく終われるだろう。さて、これからはこの子のことを第一に考えて行動しなくちゃ。まずは近くの産婦人科を探すところからかな。我が子は今どのくらいの大きさになっているのか、未来のことを考えてワクワクが止まらなかった。
大輝から突然別れに対する苛立ったような慌てたような返事には気が付かないまま。
「よう、おつかれ」
妊娠がわかってから数日後。私は無事に近くの病院を見つけ検査してもらい、まだ全然よくわからないエコー写真を貰い家族で「私たちって似たもの家族なのねえ」と笑いながら喜びを分かちあった。
そんな矢先に突然元セフレ、現子どもの父親である男が仕事終わりの会社前で出待ちしていた。なんでここにいるのだろう。別れは済んだはずなのに。
「そっちこそお疲れ様。急になに? どうしてここにいるの?」
「急なのはお前の方だろ。なんでいきなり別れるなんて言ったんだ」
「……ここじゃ目立つからそこのカフェに行こう」
「わかった。納得するまで帰らないからな」
大輝からはあれからちょこちょこ連絡がきていたようだけど全部スルーしていた。どうせ結論は決まっていたからわざわざ話すのは面倒だった。単純に忙しかったし。
それにしても女には不自由してなさそうな大輝がごねるなんて思ってもみなかった。飲み屋で知り合って職種が近かったから仲良くなってそのまま一夜をともにして。どっちも関係を明瞭化させる言葉を使わなかったし、なんとなくの、気楽な相手としてこれまで付き合ってきた。終わる時も気楽なまま終わると思っていたんだけど。
「それで? 何が納得いかないの?」
「急に別れるってことに決まってるだろ」
「だから言ったじゃない。もうセックス出来ないから関係を解消しましょうって」
「それだよ、セックス出来ないってなんだよ!」
「……声大きい」
「悪い、つい……」
大柄な彼が縮こまっているのはなんだかおかしかった。いつも自信満々だったのにそれも今じゃ見る影もなくしょんぼりとしている。
「俺の何がダメだった? もう俺に飽きたのか? それとも他に男ができたのか」
「全部違うけど、理由まで言わなくちゃいけないの?」
「あるんだな、理由」
「そりゃまあ」
「教えろ。じゃなきゃ帰らない」
押し問答が続いてもう面倒くさくなってきた。普段はスマートなエリートって感じだったのに今はだだをこねる小学生みたい。
ふーっと息を吐いて言うつもりのなかったことを口にする。
「子どもができたの。だからもうセックス出来ないし、出来るようになってもするつもりないの」
大輝は唖然として私を見てる。でしょうね。そういう反応になるとわかっていたから理由を言わないであげたのに。
「お金、置いておくわね」
固まってしまった大輝を置いて席を立つ。これでこの人と会うこともないだろう。そう思って横を通り過ぎようとしたら。
パシッ
「どこ行くんだよ」
「どこって、家よ。帰るの」
「……男のところじゃないのか」
「は?」
「お前を妊娠させたヤローのところに行くんじゃないのか!!」
――は?? 私を妊娠させたヤローは目の前にいますけど???
「……え?」
「えって、何驚いて……あ、もしかして今の口に出てた?」
「バッチリ出てた。それより今のって本当か?」
「……だったらなんだっていうのよ。あなたに責任とれなんて言わないわよ私」
「言えよ!!!! 俺に責任とらせろよ!!!!!! むしろとらさせてくださいお願いします!」
……なに、どういうこと?
これ以上はお店に迷惑になると思って、私の家へ大輝を連れて帰宅した。大輝はその道すがらちょっとした段差にも大袈裟に反応して最終的には私を抱えて帰ろうとしたので頭を軽くはたいて目を覚まさせた。まだお腹もでてないのに過剰すぎる。いやお腹が大きくなってもやめてほしい。
「で、責任とりたいってなに?」
「父親は俺なんだろ? それなら答えはひとつじゃねえか」
「だから別れましょうって」
「なっっんでだよ! 結婚しようってなるだろ普通!」
「私の普通はシングルでも立派にママになれるってことよ。あなたが無理におう必要のない事だわ」
「無理じゃない。俺が、結婚したいんだ!」
「なんで?」
私たちってそういう関係じゃないのに。
「だから、俺が、お前を好きだからだよ!!」
「……いや、なんで?」
どうやら話を聞くに大輝は初めから私のことが好きだったらしい。あわよくば恋人になりたかったけど、初めて自分から人を好きになったからどうしていいかわからず、体だけの関係にいつかは終止符を打ちたいと思っていたらしい。
「実はゴムに穴開けてた。妊娠したら俺と結婚してくれると思ったんだ……」
私が妊娠したのも、まともな両親のいる幸せな家庭で育てられた子どもとは思えないような非倫理的な理由だった。
「相手の同意なしに妊娠させるのはレイプになるのかしら」
「悪かった! 俺、どうしてもお前と結婚したかったんだ……!」
「責任とるからって許されることでもないと思うんだけど」
「ほんとにごめん、お願い許してくれ。お腹の子のパパになりたい。お願いだから」
「まあ出来ちゃったものは仕方ないし、産むのは決めてたことなんだけど…………」
私は少し迷って、それから決めた。
「結婚はしない。認知はしてあげる。子どもを一緒に育てる権利も認める。今はそれだけ。あとはこの子が産まれたら考えるわ」
大輝は少し涙目になってそれを受け入れた。
思ってたものは少し違うことになったけど、子どもから父親を奪った罪悪感みたいなものには悩まされずに済みそうだ。