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第59話 崩壊とほつれ

あらすじ

魔神と戦う天汰とヘラルはエレーナと共闘し自己最高の火力をたたき出すことに成功する。

「──天汰、無事か」



 僕を呼ぶ声が聞こえる。ゆっくりと目を開くとそこにはヘラルが僕に手を伸ばしていた。



「……ありがとう」



 会場にいたのに綺麗な青空が見える。そして、魔神の気配はもう無い。


 僕はヘラルの手を握り立ち上がった。瓦礫の山の奥には先に逃げてくれた皆が心配そうに僕を見つめていた。



「カンスト出来た?」


「いや……でも1300億も出たぜ。この剣と魔法を組み合わせたらカンスト狙えるな〜」



 ヘラルは何か達観したかのような目で僕の喜ぶ様子を見つめている。


 まあ、ヘラルもこれから起こる問題に気が付いているのだろう。


 僕は睨みつけながら近付いてくるエレーナの方を向いて言葉を待つ。エレーナも迷いが残っている表情で僕と目が合うとさらに彼女の中で迷宮入りしてしまったみたいだ。



「あなた達は悪魔と悪魔遣いだったの……」


「えーと……ニーダ、どう答えればいい?」


「……ええ、そうね。その通りよ、彼らは悪魔と悪魔遣いで間違いないわ」



 躊躇いもなくニーダが全てを語ってくれた。


 何故、僕とヘラルがフェンリルと一緒に行動しているのか。どうして僕達がこの国に来ていたのか。


 エレーナは最初は僕達を軽蔑の目で見ていたものの、途中からはもはや同情に近い感情を抱いていたように見えた。



「……どこまで信じていいのか、私には分からない」


「まぁ、ワタシはあなたに戦意があるなら、躊躇無く戦うよ。な、天汰」


「残念だけど……そうする」



 僕にそう告げられたエレーナは一転して迷いの無くなった表情に変わり、僕とヘラルはすぐに構えたが、彼女は違った。



「……今回は見逃す。フェンリルに関わった人間は全員捕らえると上から言われているけど、私はあなた達に助けられた。それに……関係無い人だって命を懸けて守ってくれたから」



 エレーナが顔を逸らして、こちらに駆けてくる子供を見ていた。


 その子は爽やかな短髪で、褐色肌に乾いた血が付着しながらも怪我一つない身体でエレーナに抱きついた。



「二人とも……生きてて良かった……」


「……モネを助けてくれて、ありがとう」


「わらわが治したんだ。借りを作っておいて良かったのう」



 やれやれと肩をすくめるニーダ。


 でも、その言葉とは裏腹にどこか照れ臭そうに見えるのはきっと気のせいではないんだろうな。



「団長も、この子と一緒に生きられて嬉しいだろう? なあ、べアティチュード?」


「ニ、ニーダ? どうしたんだよ」



 僕の問いかけにも応答せず、イコさんの隣にいたべアティチュード団長に向かって質問を続ける。



「以前から噂で聞いていたのだが、ギフターなんだろう?」


「な、何を言うんだ……ギフターなんかではない!」



 団長は声を荒げニーダに対して怒りをぶつける。


 ニーダはべアティチュードをギフターだと疑っているとは前に言ってたが、噂で聞いたことがあったのか。



「『自分の運と引き換えに無敵の肉体を手に入れた。』……そう噂では聞いている」


「……そんな訳ないだろ! だってべアティチュードさんは持病があるんだぞ!? 昨日の夜だって心臓の部分を抑えて苦しんでいた……!」


「……ああ、その通りだよ。もう、いいか。全てを、話そう」



 全てを諦めたのか、急に声が優しくなり汗を流しだすべアティチュード団長を見てモネは顔を真っ青にして震えていた。



「……とりあえず瓦礫の山から出ようか。モネ、僕達の手を握ってね。足元危ないから」


「……うん」



 べアティチュード団長の話をしっかりと聞くため僕とヘラルはモネの手を握って崩壊してしまった会場から離れ、皆のいる外に集まった。


 外には僕達以外の人の気配はしない、ただ相変わらず中心街から賑やかな声が微かに聞こえていた。



「ワタシにも分かるように教えて」


「君達にも真実を語ろう。まず、べアティチュードサーカス団を結成直後に私はギフターになった。きっかけは大したことじゃない。まだ若かった頃に失敗して大怪我したときに偶然何かから付与された」


「何かって?」



 僕が()()について尋ねると、少し間を開けて話す覚悟を決めた顔つきになった。



「それは……女神だ。ギフターの中にはどんな人物だったか覚えている人もいると聞くが、残念ながら私は女神だった。としか覚えていなくてね。だからそこの話を広げるのは難しい」


「で? わらわが聞いた話と一致はしているのか?」


「全部正解だ。ただ、解釈が違う。無敵の肉体は──」

「──もういいよ」



 突然、直前まで大人しく聞いていたモネがべアティチュードの言葉を遮った。いきなりの行動に驚いたのは僕だけじゃなくきっとこの二人以外は全員驚いていたと思う。



「……モネ? まだ身体が痛むのか、後で僕らがしっかり話すよ──」

「──モネ様と出会ったのも不幸の一つだって言うのかよ」


「……違う、そうじゃない。そうじゃ……ないんだ……」



 モネの言葉に衰弱していくように苦しむべアティチュードが、言葉を詰まらせる。

 そんな様子を見てモネは心に抑えてきた感情が決壊してしまったようだった。



「サーカスでいつも失敗するのはいつも見てたモネのせいだったんだ! 金もない貧乏人に付き纏われて、挙句自分の所に直接来ちゃったしね! 不幸だよ、これが最悪じゃない訳あるか! 仕方なく下っ端として雇った次の日には会場もブッ壊されちゃってさ!」


「……あなたは悪くないわ。悪いのは全部運営と女神よ」


「運営は悪くないですが……! ……ただ私も今回ばかりは目を瞑りますけど」



 いつの間にかニーダとエレーナが半狂乱のモネを囲んで気を落ち着かせようと優しく説得を始め、その三人から少し離れて僕とヘラルはべアティチュード団長の次の言葉を待っていた。


 一方で、イコさんは隣にいたニーダがモネの方へ行くと居所に迷ったように片腕を抑えている、そんな様子がべアティチュード越しに見えた。



「おーおーなんかおもしれェ話してんじゃん。エレーナ、内容教えてくんねーか」



 静かなこの場所でよく通る低い声が上から聞こえだす。一斉に顔を見上げると、近くの家の屋上に座って見下ろしている男が一人、エレーナを顔を見ていた。


 僕には分かる。こいつがエレーナの仲間で、クローピエンスの一員だって。

 しかも、明らかにエレーナよりも強く魔力が強いな。魔力量だけだったら対抗出来るのはニーダくらいか?


 それでも人数有利さえ崩されなければエレーナを敵にしても十分勝機はある。


 だから、落ち着くんだ僕。



「グラスティンさん……これは……その」


「ふ、後で書類とにらめっこは確定だな。ひ、ふ、み、よ……6人か。2対6なら……指一本触れさずに済むな!」



 男は全身の骨を鳴らして一人ひとりの表情を確認している。

 僕の顔を見たときはほんのわずかに睨んでいるように見えた。


 彼もきっと僕とヘラルの関係も知っているんだろう。だから僕とヘラルをわざと離して戦おうとしてくるはず。

 だったら好都合だ、今の僕は一人でもある程度戦えるようになってんだから。



「【踊る(シナリオ)胎児(・ドール)】! まずは動けなくしてやる!」



 ……は? 足元の地面がいきなり溶け出して足が土に埋まってしまった。

 こいつは土魔法を使うのか!? 皆も……捕まったか。


 地面の土はあっという間に会場に現れた魔神と同等、もしくはそれ以上の大きさの怪物に変わり目線がグラスティンと並ぶ。



「ハッハッ、これで任務は終わりだ! アイツらにも教えてやんねーとだな」


「あ、あの……グラスティンさん」


「ん、なんだ? あぁ、潜入ご苦労様! 他の奴に任せようとも考えたが、新入りの育成に丁度良い機会だと思ってな」



 グラスティンは戸惑う顔を見せるエレーナにはにかんだ。


 無かったことにしたいんだろう。彼女が、部下が一度敵を見逃そうとした事自体を。


 宙ぶらりんになりながら僕は必死に次の手を考える。

 動けなくなったのは足のスネの部分だけだ。


 もう一回ヘラルの契約を使って僕の足を瞬間的に消し去ってしまえば何とか抜くことが出来るが……



「離せ離せ離せ離せッ!! モネが居たら皆不幸になる……べアティチュードさんからモネを離してッ!」


「なんだこの子供? 捕獲対象じゃないな……どうする? あ、もしかしてあなたは団長さんですか? 関係無い人巻き込んじった」


「お願いしますグラスティンさん。あの子は本当に関係無い、ただの一般人なんです。どうか、見逃してあげてくれませんか? まあ……2週間くらいは部屋掃除しますよ」



 グラスティンは余裕がある笑みを浮かべている。


 そうだ、今のうちに魔力を貯めておくか。


 僕は冷静になったその瞬間、ある事に気が付いてしまった。



 一人だけ、捕まっていない仲間がいる。いや、もしかしすると僕以外誰も気付いていないじゃないだろうか。


 だって現に僕もあの二人も土に全員が捕まっていると錯覚していたからだ。


 何でかは分からないがこれなら勝てる。この状況から抜け出せる。



「ヘラル……頼んだ」


「……分かった」


「何だ、お前達は何をしようと──」



 ヘラルは意図をすぐに読み取り足の契約を行う。瞬間的に僕の足が消えて落ちてゆく僕にそっと彼女は糸を差し伸べた。



「ありがとうイコさん!」


「存在感が無いのが私の取り柄ですから!」

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