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第53話 魂のスキンシップは大事だと思う

あらすじ

公演を見終わった一同が団長や新入りのピエロに疑いをかけていき、誰が魔力の持ち主なのか見つめる為にある提案をする。

「──こっから入るとべアティチュード団長に会えるぜ」



 モネに従って何とか四人で天井を伝って僕達は舞台裏の休憩室の真ん前まで辿り着いた。


 中では中々賑やかな声が聞こえてくる。


 壁に耳を当てて声を確認してみる。



「……助かったぞ、エレーナくん!」


「いえ! ……ですから!」



 よしよし、中にはさっきの団長と新入りピエロの二人だけだな。


 そのまま中に入ってもいいが打ち合わせしておかないといけなかった。


 今更遅いけどしょうがないな。



「案内ありがとう! 天汰さん、これからどうするかは決まってるんですか?」


「まあ、何となく。モネの夢も叶えてやりたいしね」


「……夢? 俺にはそんな──」


「お前このサーカスが好きなんだろ。だったら入団希望だって直談判してみたらいいじゃん」



 子供を利用するのは酷いけど、以前に面識があるなら意外と上手く行くかもしれないしこれが最適だろう。


 一方で、僕の言葉を聞いたモネは一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたが、徐々に理解し始めてからはモネの中で興奮が勝ったようだった。



「そうだ……そうすりゃ良かったんだ! 熱意はある! 頑張って入団してやる! ご飯だって……食べられるようになるし……!」


「じゃ、行ってみよう」


「なあ」



 そっとヘラルが僕に耳打ちをする。やっぱり僕がいつもより積極的だからそれについて言及するつもりなんだろうか。



「あなた邪悪ね」


「勢いで乗り切ろうー……ってヘラル意識してみた」


「……うざ」


「失礼します! べアティチュード団長!」



 ヘラルと軽く喋っていると、子供らしく興奮したモネが休憩室の扉を勢い良く開けてしまう。


 イコさんもこれは想定外だったらしく、誰よりも驚いて小さな悲鳴を上げてしまっていた。



「誰だい……ってモネじゃないか。今回もサーカスを見にきたんだね」



 団長は想像よりも優しい声色とモネに対して柔らかい物言いではあるが、眼光だけは相変わらず鋭い。



 サーカス団の二人はモネの次に僕やイコさん、そしてヘラルの順で目で確認してきた。


 エレーナに至っては少々困惑したような困り眉になっている。


 しかし、二人は焦る訳でも無くモネのたどたどしい言葉をじっと聞き続けていた。



「その……つまり、俺様を……俺をサーカス団に入れてくれ! 特技とはこれと言ってねえけど! 兎に角すばしっこいし……盗みなら誰相手でも出来る!」


「どうしますか団長?」


「うーむ……別にいいんだが……他の団員がなぁ……」



 都合が悪そうに自分の頭を撫でながら室内を歩き回るべアティチュードをワクワクしてモネはずっと目で追いかける。


 受付の人からの反応が悪かったモネなら他のメンバーから悪印象を持たれていても不思議ではないけど……僕達でアシストしないとな。



「この子の盗み技は凄いですよ。マジで誰も初めは気付けませんでしたから」


「ええと……それは凄いんですかね?」



 エレーナに笑われてしまった、そこまで僕は変な事言ってるのかな。


 しょうがない、こうなったらイコさんに説得してもらう他ない。


 イコさんは誰でもすぐに打ち解けられるし、エレーナやべアティチュードとも相性がいいはず。



「……モネさんは凄いですよ! 足も速いし手も凄く器用! まずはサーカスの下っ端としてでもいいので入れてあげてください!」



 そう言ってイコさんは団長に頭を深く下げた。


 これには二人とも効いたのか、今度はエレーナまでも焦り始める。



「そそそんな事しないでも!! いいですよ! 可愛いのお姿が台無しです!!」


「台無しなんかではないです……誰かが幸せになれるならこれくらい容易です」


「……良いこと言うなあ……!」



 ヘラルの心に珍しく響いたらしく、ヘラルは横からイコさんに抱きつこうと飛びかかった。


 イコさんは避けきれずに抱き着かれ、そのまま地面に押し倒された。


 ここまで来たら僕も勢いで混じって演出しようか迷ったが冷静に考えて僕は対話を選び直した。



「モネは団長さんの肩を揉むのも得意ですよ〜ほらっモネ! 肩を揉んでみて団長の!」


「え、? あぁ、分かった……?」



 いまいちピンときていなさそうだったが、モネを使って何とか団長に触れる事が出来る。



 僕はモネの手を握って団員の背中まで誘導し、肩を揉ませる事に成功する。


 ……ついでに僕もモネを手伝うように肩に手を置き団長から感じられる魔力を探り始める。



「ど、どうすかー……? うぅ……初めて人の肩揉むんだけど……」


「大丈夫、モネは指先器用だからいけるいける! 優しく押しつぶせ……!」



 自然な流れで僕も団長の肩を揉み指先に微量の魔力を出して感じ取ってみる。

 だが……いくら揉みながら魔力を探ってみてもちっともユメちゃんのような力強い魔力が見つからない。


 それどころかあったのはめちゃくちゃ弱々しい魔力の塊だけだ。


 ということは、ヘラルの言う通りエレーナの方だったのか……?


 どうしようか、流石にエレーナの身体に触りに行くのは不自然過ぎる……ヘラルも様子がおかしいし、イコさんも満更じゃ無さげに床に倒れ込んだままだし……ああっ、どうしよう!



「い、いててて……」


「おい! べアティチュードさんに何を……」



 しまった、力を入れ過ぎた! 団長の痛がる声でエレーナは僕を睨む。


 まだメイクが落ちていないからか、ピエロの顔がより恐怖を倍増させる。



「ああ……すまない。今のは持病の発作だ。心配させちゃったな、エレーナくん」


「で、でも……」



 舞台での明るさが嘘みたいなエレーナの気の落としように僕は驚いた。


 それにもしや僕が魔力を感じ取った場所って心臓に近かった気がするが、これが持病の正体なのか?



「知ってたぜ、団長が病気持ってんの。昔から見てるけど、ここ数ヶ月ずっと体調悪そうにしてたもんな」



 モネの放った言葉に団長は面食らった様子を見せ、モネの方に振り向き笑顔で言葉を続ける。



「ははっ、君にはバレてたか。誰よりもべアティチュードサーカス団を楽しみにしている君までは騙せなかったか」



 二人はお互いの顔を見つめあい、まるで親子のように微笑みあっている。


 これ以上この空間を壊す訳にはいかないし、ターゲットを変えよう。



「エレーナさん、か──」


『──ここよ! 入れーッ!』


「っ、誰!?」



 外がいきなり騒がしくなり、エレーナと僕はすぐに扉を見て戦闘態勢を取る。


 何だ……人の襲撃か? イコさんもヘラルも起き上がろうとしないし……何が起こってんだ?



『ここよ!』



 人の力とは思えないほど強力な力が扉に加わり、扉は勢い良く破壊された。


 その向こう側には見覚えがあるメイド服を着た女性が何十人も見える。


 この人達は飛空艇ラグナロクにいた人達じゃないか。一体どうしてここに……?



「何でこんな所に……キエエエェェ! ヘラル様とイコ様に何をした!?」


「い、いやその二人は寝っ転がってるだけですよ──」


「うっさいわガキィイイ! まだ認めてないんだからね!」


「グウええぇ……」



 女の膝蹴りが綺麗に僕の鳩尾に入り、僕はそのままその場に倒れ込む。



「あら、クリティカル? ……100万くらいなら耐えれるようね」



 非戦闘員とは思えない蹴りを食らい僕は声も出せず、それどころか息も殆ど吸えない状態になり走馬灯がぼんやりと浮かび上がる。



「回収! 撤収!」



 そんな僕を先程蹴りを入れてきたメイドが片腕で持ち上げ、倒れた二人も他のメイドに抱えられて休憩室を駆け足で飛び出した。


 ぼやける視界の中最後に見えたのは、あっけらかんとした表情で僕達を目で追いかけるモネと団長に、顔全体から汗を流して口を開けて驚いているエレーナの顔だった。

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