第50話 ユートピアのサーカス
あらすじ
天汰達はユートピアランドに訪れシェンとニーダは国王に会いに、天汰・ヘラルとイコは観光を楽しもうと中心街で遊んでいた所を子供に財布を盗まれた。
子供を追いかけ早5分、中心街を抜けて人の気配が随分減った薄暗い住宅街まで僕達は来てしまった。
くそっ、財布盗みまで大体100mくらいか?
周りに人もいない……これ以上先に行かれたら道が入り組んで届かないかもしれない、やるなら今だ。
「【火炎鞭】!」
「ちょ天汰それ当たったら死ぬよ!?」
「グゥぇ!」
「大丈夫、魔力のコツが分かったんだよ」
鞭を操り小さな身体を縛って捕まえる。勿論、身体には傷一つ付けず。
捕らえられた子供は何が起こったか分かってなさそうな顔をしていた。
「凄いです! 火炎魔法なのに怪我一つ付けないなんて! どうやったんですか!?」
「イコさんは知らないだろうけど、友達から冷やし方を教えてもらったんだ」
「は? なんだよこれっ! おい、離せよ!」
おやおや、まんまと捕まった子供がなんか言ってらぁ。
必死にもがいて抜け出そうとしているけど、僕が力入れてるから抜けられる訳がないのに。
「あのー私のお財布、返してもらえるかな? 大切な物が入ってるの」
「こんなもんいらねえよ! 食いもんもねえし!」
そう言って子供は盗んだイコさんの財布を軽く投げ飛ばした。礼儀がなってないな。
「物を盗んどいてその態度はねえ……運営に突き出してやろうか?」
「天汰、これプレイヤーじゃないね。手に何も刻まれてない」
よく見てみると服もプレイヤーしてはボロい、というかトリテリアで見かけた老人と同じくらいか?
この国にも生活に困っている層はいたんだな。やっぱり異世界でも同じもんか。
「大体普通ならバッグに食べ物入れんだろ! なんで持ってねえんだよ!」
「だって私達もこっちで生活してるし……うん、お金は1枚も抜き取られてない」
「そんな優雅な暮らししてるような馬鹿しか集めない玩具なんている訳ねえだろ!」
まさか……こいつお金の概念も知らないのか?
こんな裕福そうな国に居るのにか?
じゃあ今まで食べ物を盗むだけで生計を立てていたとか?
何にしろ想像よりも闇が深そうだ。
「ボク? 名前は何ていうのかな?」
「あ? モネ様に名前を聞こうなんて1000年早えわ」
「えーとモネさん。保護者はどこにいますか? 迷子なら探しましょうか」
「親なんていねーし」
それにしてもイコさんは財布取られておきながらよくそんな冷静に対処出来るなあ。
「あの……良ければ私が何か食べられる物奢りますよ! 責任は私が負うので! お二人もそれでいいですか?」
「イコさんのお金なんで任せますよ」
「おい、こんな犯罪者に構う暇あるの? ワタシはもっと観光したいんだけど」
「それならモネ様が案内してやるぜ! あんな盗みにも気付かないような奴らより良いとこいっぱい知ってんぜ!」
「じゃあモネさんの服も買いましょうか。それじゃ入れないかもしれないので、汚いし!」
失礼を気にせずイコさんに率直に言われて少しショックを受けた顔をするモネ。
案外普通の子供なのかなぁ……?
初めはイコさんの物言いに慣れない様子でタジタジしていたモネだったが、あっという間に打ち解けて気づいた時にはモネはイコさんの手を引いてモネお気に入りの場所に足を運んでいた。
「ここが一番良いんだぜ……て、おいどこ行くんだ?」
「え? あっちでお金払うんでしょう?」
「ばっか天井に登って見るのが一番いいんだろーが!」
僕達が向かった場所はサーカス会場だ。
モネ曰くここはプレイヤーにも見つかっていない穴場で観光スポットにも最適らしい。
確かに周りには金持ちそうな髭を蓄えた中年の男だったり、如何にも強そうな勇者御一行みたいな奴等も沢山見える。
「君はともかく僕達は天井登れないかな……? 身体大きいし天井抜けちゃうよ」
「それもそうですね! すみませーん! ええと、いくらなんですか?」
「おお、嬢ちゃん若いのに良い趣味してるねぇ……」
受付のおじさんはやたらとイコさんの顔を見ては全身をなめ回すような目を向けていて気持ち悪いな……本当にマトモなサーカスなんだろうか。
「えーと四人だから……ってモネじゃねえか。お客さん、悪いがコイツは出禁だ。特別な対応をしてくれたら許さなくもねえがな」
「……だからこんな方法じゃ駄目だって言っただろーが……」
居心地悪そうにモネは僕の背後に隠れていた。事情は分からないけど、何か理由があるはずだ。
一方で気味悪い受付を相手にしてもイコさんは不快感を顔に出さない。
「つまり、いくらですか?」
「あー……三人なら足して10万ルードだが、ソイツをどうしても入場させたいなら追加で50万ルードは払ってもらわねえとだな」
「おい……それって悪徳じゃないんですか!?」
「坊主……悪いが商売だ。貧乏人は舞台を食っちまう」
なんだよ……折角イコさんがモネ用に新しい服を与えて着替えてるのに……それでもそんな扱いするのかよ。
ヘラルでさえ怒りを受付にぶつけそうになっていたその時、イコさんは懐をまさぐって隠し持っていた大きな袋をカウンターに叩き付けた。
「多分これだけで200万ルードはあると思うんですけど、これじゃ駄目でしょうか?」
「おお……! ありがとよ、なんだこんぐれぇ貰えるならいいぜ……」
すげえ……何者なんだこの人……。
即座に受付は顔色を変えて扉を開ける。
その景色に僕は思わず声に出して驚いた。
「これがユートピアランドで一番のパレードですよぉ……!」
中はコンサート会場と同じ作りになっていて、まだパレードが開始しておらず幕が降りている。
「ん……? 天汰さん、ヘラルさんちょっと耳貸して……」
イコさんは僕とヘラルの肩を叩いて口を耳に近づけた。
細々としたささやき声の内容に僕とヘラルは目を合わせた。
「……ここに異様な魔力の持ち主がいます……! もしかしたら女神クラスかもしれない……!」
「ワタシもそんな気がしてた。天汰、警戒しなよ。また女神襲撃が起こるかもしれないから」
「ああ、分かってる。魔力には……気付かなかったけど」
「何コソコソ話してんだ? モネ様がオススメの楽しみ方を伝授してやるぜ」
そうだ、僕達にはこの子がいる。
怪我させないためにも僕が頑張らないといけない。
僕はもう誰かを守る側なんだから。




