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第3話 僕の初めて

あらすじ

謎の悪魔『へラル』と天汰はお互いの目的の為に契りを結んだ。

「──ということなの。だから……その、手離しちゃって本当にごめんなさい! あとあたしの名前本当は()()()()って言うんですが……()()でいいですっ!」


「いいよ、大丈夫。ここで神様が嫌われてるなんて知らなかったんだ、気にしないでゼルちゃん。むしろ僕が悪かったよ」



 頭を下げるゼルに顔を上げるように説得すると、ニッコリとした笑みを見せて僕と目を重ねた。どうやらこの馬車はシュウが気絶中の僕やダイアさんのために偶然帰路の途中だったようで、何とか乗せてもらったようだ。


 僕はダイアさんとゼルちゃんにこの世界の事を教えてもらうことにした。要点だけまとめると、この世界の神は一度人類を滅ぼし、悪魔と残った人類が契約し今があるとのことだ。

 となると、実はヘラルって結構人気者なんだろうか。聞いてみようかな?



「神も俺の親世代辺りまでは誰もが信仰していたんだ。今から数年前に信仰するような奴は皆アングレカムに残り、そうでない者の大半は死んだか、ルドベキアに移った。俺達もその一人だ」



 アングレカムと言うのは神に支配された国のことだ。神に滅ぼされる前までは人類の中で一番栄えていた国らしい。



「あの日は絶対に忘れられません……。あの日お母さんが必死に私を馬車に乗せて他の国に逃してくれたんです。まだ、もしかしたらアングレカムにいるかも……なんて」



 陽射しが来たときよりも垂直に馬車を照らし、乗車する僕等の体温も上がって彼女もダラダラと汗を流す。僕は言葉を見つけ出せず、また黙りこくっているとダイアさんが気分転換にと窓を開けた。



「いるさ、必ず。俺達は可能性に賭けて一緒にいるんだ。ゼル……悲しまなくていい、俺もシュウもいる。……今なら天汰もいるじゃないか。ほら、俺達の拠点、ルドベキアが見えてきたぞ」



 そう言いながらダイアさんも僕とゼルちゃんの方を見て笑顔を作ってみせた。ダイアさんって笑顔作るの下手なんだな、分かりやすく頬が引き攣ってる。



「アハハ! ありがとうございますダイアさん! 元気出ましたぁ!」

「そ、そうか……ならっ良かった」



 なんだよ姉ちゃん、良い人達に囲まれてたんだな。現実なんかよりも優しい人たちだ。



「……あの、天汰くんは何才ですか? 結構幼く見えますけど……」

「ま、まあ幼いかは分からないけど15才だよ。身長だって170cm近くあるし!」

「ふーん……。なら、あたしの方が年上ですねっ!」



 えっ……今、なんて。この見た目で、この良い意味で幼い喋り方なのに僕よりも年上……? それどころかもう成年なんだろうか。溜まった唾を飲み込み、真剣な眼差しでゼル()()を見つめ直した。



「実は……っ! 55歳なんです!」







 これが合法ロリおばあちゃんか。想定外だったけど逆に想定内だ。ここ異世界だし、エルフだし。にしても肌がとても綺麗だ、化粧とか美容に関してここも凄いのだろうか。



「え……っと、ゼルさん」

「――くくっ、天汰もゼルちゃんのからかいに引っかかったな」

「え?」


「ゼルちゃんの国の数え方だと55歳。でもルドベキアの数え方だと本当は8歳なんだよ。俺達に年齢でマウントとろうとしてんのさ」

「ち、違いますっ! 55歳なんです! 長く生きてるんです!」



 ゼルちゃんは年齢相応?に頬を膨らませ、ダイアさんに向かって少し怒っていた。逆算してみたが、彼女の生まれた国では60日くらいで一年が過ぎるのかな?


 ゼルちゃんの生まれ故郷は神によって支配されたと聞いた。それでも文化が無くならないようにと考える優しい子なんだろう。


 ふと外を眺めると、さっきまでの何もないただの広原から言い表せないほど賑やかな街のなかだった。


「みんなー着いたよ!」


「……シュウ――いや、姉ちゃん」



 シュウの声に僕達3人は降りる準備をし、完全に馬車が停止した段階で飛び降りた。



「ありがとうございましたー」


「はーい、もうあんなとこで倒れるじゃないぞー。次は無いかもだぞ」


「……じゃ、俺とゼルちゃんは服でも見に行くわ! 姉弟でごゆっくり」



 僕達に気を遣ってか、二人はすぐに離れて人波の中へと消えていった。



「ごほん。ここがルドベキアって国かぁー、結構広いな。東京より人居るかもね! 姉ちゃんお気に入りの所とかある?」


「ああそうだね……ここを統治する王様がいるあの城に一度だけ無断で入ったことがあるけど、絶景だったね。リスポーンさせられかけたけど」


「そっか……よし、姉ちゃんそこに入れてもらおう!」


「はっ!?」



 僕が提案したが姉は聞く耳を持たない。



「確かに無断で入ったら殺されるのは当たり前だと思うけど、どうにかして許可を貰えればいいんだよ? 姉……というかシュウは強いって聞いたし」


「……そろそろ本当の事を言ってよ。私に話を合わせるためとかにゲームを始めたんだよね? 流石にお姉ちゃんも怒るよ……本気で天汰? ……NPC?」


「ちょ……ちょっと、周りの人が見てるよ……?」



 完全に昔の姉ちゃんに戻ってしまった。シュウは右手の掌を突き出している。少し前にそこから火球が放たれたと思い出すだけで今の状況が凄くまずいと理解した。


 そうこうしてる間に、周りには僕と姉を中心に人が集まりだし、さっき前までは賑やかだった市街地は急に静かになる。



「さっき席を外したときに天汰の部屋に行ったけど、確かに鞄だけがベッドに置かれてた。だけど目の前の君が天汰だとは認めたくない」


「なんでだよ! 僕の姿を見て分からないの……? ほら、僕の手に触れて、そうしたらきっと僕だって分かる――」


「――手を握っても、私には分からないよ。そっちの君と違って感覚が伝わるわけじゃないのに!」


「あ――」



 すっかりと抜け落ちていた。ここはゲームの世界で、本当の姉ちゃんは現実にいることを。姉ちゃんの怒った顔は久方ぶりに見たが、やっぱり怖かった。



「逃げろー!! そっちに魔物が向かったぞ! そいつは人を何人も殺してる! 避けろ避けろ!」


「は?」


 僕は姉から目を逸らしその声がする方向へ向いた。野次馬達も魔物の姿を見て店や物陰に隠れ、視野が広がっていく。全長3m近くある巨体のサイ?に似た魔物が目を真っ赤に染め、僕達に向かって突撃してくる。



「姉ちゃん、撃って!」


「攻撃は時間がかかるの! それに周り巻き込んじゃう――」


「なら僕が時間を稼ぐよ! 姉ちゃんならまだ何か持ってるんでしょ!?」



 魔物は地を震わせるほどの足音を鳴らしている。だが、ここで怯えていたら()()姉ちゃんを守れないじゃないか。走れよ天汰! そう自分自身を鼓舞し前を向いた。


 片足が恐怖で軽く痙攣しながらも一歩踏み出し、駆け出した。奴の目は僕を捉えてしっかりと照準を合わせているように見える。視力が良いのか? 



 くだらないことを考えようが、魔物との距離は近付くばかり。……近付いて改めて思ったのは、こいつに立ち向かうに僕が小さすぎる。


 時間を稼ぐって何? 咄嗟に言って行動してしまったが、何も考えていなかった。考える時間はもう無い。


 こうなったら、奴の顔面に飛びつくしかない。姉ちゃんなら、どうにかしてくれるはずだ!


 左足を軸に勢いのままサイもどきの顔に飛びつく。


 角っぽい部分を左手で掴み、右手を瞼に被せて視野を奪うことが出来たが速度は落ちず、軌道修正をしながらシュウに突撃を続けている。



「くそっ、止まれ! 止まれよぉっ!」


 握り拳を作り、サイの眼球を殴り続けた。しかし、上の数字は虚しく5000と数字を刻み続けるだけだ。



「姉ちゃん! 避けて!」



 もしかしたら僕が飛びついたせいで姉ちゃんは攻撃が出来ないかもしれない。さっきから姉ちゃんの足を引っ張ってばっか……いつも後悔してばかりだ。



「【N()o().()1()実焔(みのるほむら)】」


「!!」



 僕の身体の中心が、灯火のように輝いた。さっきまでの不安も不思議と勇気づけられたように力が溢れる感覚が全身に流れている。シュウがどんな表情をしているか分からないけど、声は怒っていなかった。



「今度こそ止まれッ!!」



 一瞬、身体が宙に浮き右手が滑り手を離してしまう。だが、左手だけは離さなかった。右拳に力を溜めて、反動も利用して魔物の眉間に打ち付けた。

 グシャっと鈍い音と何とも言えない拳の皮膚に沈む感触に、全身は不快な鳥肌を立たせた。



「うわぁっ!」



 身体を乗せた魔物が重心を崩し倒れ、当然僕も地面に振り落とされる。不思議な事に、身体に痛みは無かった。


「……姉ちゃん?」


 気が付くと僕は姉ちゃんの腕の上にいた。


「わざわざ飛び込んだの? どうして」


「……怪我しなくて良かった」



 僕は言葉以外の物が顔から溢れだしそうになり、倒した魔物を見つめる。僕が殺した。


「ごめん」


「……75万8千ダメージ……姉ちゃん、やっぱり凄いね。ありがとう、今降りるね」


「おい、動くな。貴様、これは何だ? 貴様らが殺したのか? 何者だ?」



 魔物を暫く凝視していたからか、周りの様子が変わったことに気付かなかった。声のする方向へ向くと、ドレス風の鎧を着る女性と彼女の背後に部下らしき者たちが見える。彼女の長い髪からは派手というよりも高貴さを感じされられた。



「……宜しい。動くなよ……ん? 下敷きになっている変な奴は誰だ? 顔を上げろ」


「あのー誰ですか?」



 疑問をそのままぶつけてみたら、その場の空気がどうやら凍ってしまったようだ。女騎士みたいな人が連れている部下らしき人達も僕の顔を見てこいつ不味いことを言ったな、みたいな顔をしている。


「ふ、ふふ面白い子供だ」


「お、おいっ! そこのガキ! ()()()に対して失礼だぞ!? 今笑っておられたが次は無いぞっ!」



 知らないおっさんがやじを飛ばして――って、王女様と言った!? この人が!?



「申し遅れた。私はこの国の王女であり、国内の兵の統率権を握っている()()()だ。貴様ら、抵抗せずに我々に同行しろ。従わなければここで処罰する」

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