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学園計画   作者: 洋野留衣
6/15


 午前のテストは主要四教科纏めて二時間で行われた。出来具合に安堵する。算数は元々得意だけれど、それ以外の科目も全て埋まった。今まで遊ぶ友達もいなくて勉強を頑張ってきたのが、こんな形で報われた。


「咲希、テストどうだった?」

「私は結構埋まったかな。理沙は?」

「私は……ほら、午後にかけるから!」


 昼食をとるためにショップ街に向かいながらも、気になるのはテストのこと。


「あ! そう言えば理科の最後の問題ってロゼット? ロゼッタ? ロケット?」

「ロケットはないでしょ。タンポポはロゼッタだと思うけど……」

「あー、良かった~」


 自信がないと言う理沙とも、だいぶ答えが一致した。肩の力が抜けたら、どっと押し寄せるのが空腹だ。理沙のお腹からグ~と情けない音が聞こえた。


「あ、お昼食べなきゃ! 何にしよっか!?」

「じゃあ、洋食がいいな」

「洋食の店だけで十以上あるよ。どうする?」

 理沙に言われて、今朝の出来事を思い出した。


《はい、これ!》

《グルメガイド?》

《そ、お昼ご飯に困ったら使ってね!》

《それを見とけば、まず間違いないからな!》

 そう言って柚子と蓮に渡されたグルメガイドが、今鞄の中にある。


「これ、寮の先輩にもらったの」

 咲希は迷わずそれを取り出し、二人で覗き込んだ。


「……すごいね」

「本当! わかりやすいし、美味しいお店が一目でわかるじゃん」



 まず目に入ったのはビッチリ書き込まれた文字だった。この店は何が美味しい、何が安い、何はオススメ等と、全ての店にピンク色のペンでコメントが書き込まれている。加えて全てのお店が星の数で評価されていた。

 理沙はその中の一店を指差した。


「このパスタ専門店、星四つだって」

「ここにする? 近いし」


【パスタならココ! 種類豊富! 店内綺麗! そして美味! ただ人気で騒がしいから-1】

 

 そうコメントされているが、ほとんど生徒がいない今なら空いているだ。


 予想は当たった。それどころかガラガラで、自分達と同じ新入生が一組いるだけ。内装もおしゃれで綺麗だし、メニューの種類も確かに多い。

「素敵なお店だね!」

「そうだね」

 返事をしながらも、理沙の視線は既にメニューに釘付けだった。


「私は決まったけど、理沙はどう?」

「ちょっと待って! この渡り蟹のトマトソースパスタときのこの和風パスタと……あ、でも海老グラタンとこのオムライスも食べたい!」

 だけど、そこまで言い切って理沙の動きがピタッと止まった。


「どうしたの?」

「やばい、そうだ! 私、ランクも寮も決まってないから学園のお金持ってないんだ! 試食室で食べなきゃ。ごめん、咲希!」

「え、ええっ!?」

「本当にごめん!」


 理沙は申し訳なさそうに謝りながら、あっという間に行ってしまった。一人で食べなければいけないらしい。

 呆然とする咲希に追い打ちをかけるように、聞きたくない声まで聞こえてきた。


「置いてきぼりかよ」

 ウェイトレスに案内された慧が、ちょうど咲希の後ろを通り過ぎようとしている。

「一条だって一人じゃない」

「俺はレベルの低い奴と付き合うくらいなら、一人で食べた方がマシだ。女子は 一人で昼食もとれないんだろ」


 相変わらず偉そうな態度の慧は、テーブルの上の二つのグラスを見て、鼻で笑った。


「だから、何でそんな風に決めつけられなきゃいけないのよ!」

「実際そうだろう、女なんて」

「私は一人でも行動できるし、一人でも食べれる!」

「なら見せてみろよ」


 慧は馬鹿にしたように挑発する。その時、二人の間にスッと一本の腕が分け入った。


「こちら新しいお冷になります」

「え、俺はこいつと食べるわけじゃ……」

「ご注文がお決まりになりましたら、お声をおかけください」

「えっ、えっ?」

「失礼致します」


 気まずい沈黙が続いた。


「……勘違いするなよ」

「結局ここで食べるの?」

「今更別の席に移れる雰囲気じゃないだろ」

 その後の会話は一切なかった。料理が運ばれてきても、食べ始めても、お互い口を開かない。


 やっと食べ終えようかというところで、咲希の名前が呼ばれた。

「咲希!」

 それは聞き慣れた声。振り返ると、尚人と知らない男の子の姿があった。男の子は尚人より随分背が高く、年の割にがっちりした体格だ。


「何? 尚人」

「お前何で一人で先に寮決めてるんだよ!」

「寮は自分で決めるものでしょ? しかも、男女で部屋違ったから、報告に行くのも無理な状況だったし」

 そう言ってはみたけれど、尚人は納得していない様子だった。大方、双子の片割れが自分より先に寮を見つけたのが気にくわないのだろう。


「それでも……四人の寮わかったのかよ? 普通そういうの考えてからだろ!」

「康介は先端技術科らしいけど他はわからない。四人が学園に帰ってくるのを待ってたら、寮選べなくなるよ? 先端技術科以外も一定人数までしかとらないらしいから」

 これには流石に反論できなかったのか、尚人はこの話をやめた。


「何、尚人?」

 代わりに伸びてきた手。

「寮決まったならお金あるだろう、貸して」

 尚人の急な要求は、今に始まったことじゃない。


「……いくら?」

「いくら持ってる?」

「一週間分の昼食代に貰った70苑」

「いいよな、先端技術科は!」

「じゃあ尚人も普通科にすればいいでしょう。それで、いくらなの?」

 咲希が尋ねると、尚人はムッとしながら小さな声で答えた。


「とりあえず30」

「え? この店のランチなら、10苑かからないよ」

「達哉に貸すって約束したんだよ。小遣い貰ったら返すって」

 これ以上言っても無駄なのは目に見えている。諦めて薄鼠色の紙幣を三枚渡した。勿論、慧達に出来るだけ見られないようにしながら。


「よくあるのか?」

 二人がいなくなって暫くしてから、慧が静かに聞いた。

「ああ、うん。見苦しいところ見せてごめん」

「別に」

 それ以降はまた沈黙が続いた。



 午後の選択テストはうまくいった。そうはっきり言い切れる。選択した水泳のテストでバタフライ200メートルのタイムが自己最高記録に並んだのだ。


 ランクの発表は二時間後。寮に戻るには短いし、視聴覚室で待つには長すぎる。そこで咲希は、柚子のオススメグルメマップで星五つがついた喫茶店で待つことにした。


 このお店は

《コーヒー5苑~。ちょっとお高めだけどコーヒーの種類も豊富だし、静かで落ち着いた店内。ケーキも美味しいよ。隠れた名店でオススメ!》

 らしい。


「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

「はい」

 迎えてくれたのは優しそうで、ダンディーという言葉が合うマスター。店内の薄明かりがアンティーク調の装飾とマッチしていて、いい雰囲気だ。

 咲希は中央にほど近い席に案内された。


「こちらメニューになります。お決まりになりましたらお声かけ下さい」

 あまりに静かな店内。初めての喫茶店に心が落ち着かず、他のお客さんを求めて店内を見回した。

 すると、一組だけいた。そのうちの一人がニコニコしながら手招きしてくれている。


「咲希、お疲れ様!」

「こっちにいらっしゃい」

 どう見ても数時間前に一緒に朝食をとった四人がそこにいる。そして、慧も。


「何で揃ってここに?」

 驚いて聞いたが、あっという間にグラスと共に五人の座るテーブルに連れてこられた。


「私達ここの常連なのよ」

「というより、ここに来るのは先端技術科と普通科のSかAだけだからな」

「そんなことより! テストどうだった!?」

 柚子だけでなく他の三人も興味津々。慧が真剣な顔で答えた。


「俺はやったことのある曲だったし、学科試験も全部埋まりました」

「英検準1級には簡単だったかしらね。咲希はどうだったの?」

「多分平気です。水泳ではいいタイムが出ましたし。学科も結構自信があるつもりなんですけど……」

 咲希の言葉に慧は顔をしかめたが、他の四人は満面の笑みを浮かべる。


「そう、二人とも心配いらなさそうね。やっぱり私の勘は間違ってなかったわ」

「何で姫が自慢げなんですか?」

「いいじゃない。寮生の成績は寮長の誇りなんだから」

 姫の言葉に何故か頬だけでなく身体全体が暖かくなった。



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