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学園計画   作者: 洋野留衣
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先端技術科


「ここよ。さあ、いらっしゃい」

「お城?」

「綺麗でしょう? ドイツのお城をイメージして建てられたのよ」


 案内されたのは先程の可愛らしい一軒家から徒歩一分、近世ヨーロッパを思わせる小さな城だった。夜空に浮かび上がる白を基調とした壁が幻想的で、屋根や窓に至るまで凝った細工が施されている。


 中に入ってからも驚きの連続だった。

 部屋よりも大きな玄関ホールに、そこに飾られた天使の羽が生えた少女が描かれた大きな油絵。ホールから真っ直ぐ延びる広い廊下には、真新しい橙色の絨毯が敷かれていて、外観のような古めかしさは感じられない。薄黄緑色の下地に草花の模様が入った壁紙も、かけられている趣味の良い小さな絵の数々や造花の飾り物とよく合っていた。


 途中で一度、上の階へと繋がる豪華な螺旋階段のあるスペースに出て、更に少し進むとそこは食堂。そこで三人が待ち構えていた。


「ようこそ、先端技術科へ」

 姫の言葉を合図に椅子に座っていた二人が立ち上がって出迎えてくれる。


「良かった! 二人共ゲットできたんだ!」

 一人は勿論、笑顔で寮の説明をしてくれた女子生徒。そしてもう一人は。

「柚子、物じゃないんだからゲットはやめろよ。にしても二人共、姫の好みど真ん中な感じだな」

 楽しげに笑う、爽やか系のお兄さん。


「俺は澤田蓮、よろしくな」

「一条慧です」

「結坂咲希です、よろしくお願いします」

「おう!」

 軽く頭を下げると、慧と一緒に頭をくしゃくしゃ撫でられた。久しぶりの感触。少し乱暴で、でも暖かなその手は康介に似ている。


「蓮ばっかりずるい! 咲希、慧、よろしくね。私のことは柚子でいいからね!」

「よろしくお願いします、柚子先輩」

「やだ、可愛い! 姫、この子達頂戴!」

「あげません」

 四人には笑顔が絶えなくて、空気自体が暖かくて居心地がいい。自然と笑みがこぼれた。


「おいで、こっちで寮の細かな説明をするわ。柚子もとりあえず落ち着きなさい」

 静かに微笑んでいた園香に促され、まずは食堂の中央へと移動する。


「今いるのが食堂で、朝食と夕食は余程のことがない限りここでとるわ。で、あの扉の向こうが談話室」

 隣の談話室へは廊下からも入れるらしく、食堂の入口から僅かに見えるレトロな扉を指差された。


「置いてあるお菓子や飲み物を好きに食べたり飲んだりしながらお喋りするの! でも、月に一回はお菓子を持ってくる規則だから忘れないでね!」

「柚子、嘘教えないの」

「……はーい」

 妨害が入って園香が説明を中断したが、慣れた様子で姫が続ける。


「朝食は午前六時半から八時までの好きな時間にとれるの。夕食は全員揃って午後七時から。柚子、昼食に関する説明はあなたの方が詳しいでしょう?」

「はーい、任されました!」

 余程食事が好きなのか、ただ喋りたかっただけかはわからない。元気よく返事をする柚子の瞳が輝いた。


「ショップ街には鍋・お寿司・懐石・しゃぶしゃぶ・揚げ物・定食・蕎麦とうどん・パン・パスタ・ピザ・フレンチ・スペイン料理・ラーメン・点心・焼き肉とかの店があって、合計三十軒。朝食と夕食はショップ街のお店に出張してもらうの。朝食は毎日和食と洋食両方出てきて、おかずは常時二十種類以上、デザートも五種類以上! 夕食は基本的に和洋中のローテーションで、毎週日曜日は懐石料理とかフレンチのコースとか、かなり豪華なのが出るから楽しみにしててね。昼食は各自、ショップ街の好きなお店でとるんだけど、夕食の一週間分のメニューが談話室と玄関ホール脇の廊下に貼ってあるから、昼食と被らないように毎朝確認してから学校行くといいよ!」


 咲希と慧が呆然とする中、ここまで一息で喋りきった。


「……そうね、食事に関しては完璧よ。そんなに例を挙げる必要は全くなかったけど」

「流石。食い意地張ってるだけはあるな」

「何よ、蓮! 文句ある?」

 本当に、笑顔溢れる人達だ。



 食事の説明の後は自室へ案内された。三階から五階が寮生の自室。仮の部屋は三階にあった。


「うわあ……」

 思わず出てしまう感嘆の声。

「個室、ですよね?」

 学校の寮とは思えない程綺麗な部屋だ。


「そうよ」

「ここはBランクの部屋だから、AかSになればもっと広い部屋に移れるからな」

 それでも、家のリビングより広い。ベッドもソファーもテーブルも、テレビだってある。

「すごい……」

 咲希はもう一度呟いた。

「ふふ、あなた達ならすぐに大きな部屋に移れるわ。今日は早く寝てしまいなさい。明日は早いわよ」


 姫はそう言うと、慧を部屋に案内しに行った。途端に部屋が静まり返る。その静けささえも心地いい。

 咲希はベッドに飛び込んだ瞬間に目を閉じ、泥のようにに眠った。


 翌日、咲希が目覚めたのは日の出よりも前だった。目を覚まして、一番最初に目に入ったのは見覚えのない広い天井。一瞬、どこにいるのかわからなかった。


 ――そうだ……ネデナ学園に入学したんだ……。


 時計を見ると、まだ午前五時半。朝食まで一時間以上ある。ジャグジーつきの風呂からあがり、身支度を整え終わっても時間が余ってしまった。

 ランクが決まると思うと、紅茶を飲んでも中々落ち着けない。


 そんな時だ、部屋の戸がノックされたのは。

「はい」

「俺だけど、今大丈夫か?」


 それは慧の声だった。

「……何の用?」

 昨日はあの嫌み以来、何も話そうとしなかったくせに。そうは思ったが、一応同じ先端技術科の新入生。

「入っていいか?」

「いいよ」

 慧を招き入れた。


「準備も終わってるのか」

「早く起きちゃったの。一条君も?」

「ああ」

「今、紅茶を淹れるから座って?」

「いや、いい」

 嫌な態度は昨日と変わらず仕舞いだ。慧はその場を一歩も動くことなく、咲希を上から下までじっくり見回した。


「何なの」

「……容姿はまあまあか。でも頭は悪そう。性格もその辺の女子と同じ、か」

「はあっ!? 昨日から一体何なのよ。喧嘩売ってるの?」

「ただ言っとこうと思っただけだ。同じ科だからって、仲良くするつもりはないって」


 まさに唖然。開いた口が塞がらない。


「昨日の先輩達への態度と随分違うね」

「当たり前だろ。胸元見なかったのかよ」

「胸!? どこ見てるの!」

「違う、バッジだ」

 呆れたように、でも、どこか偉そうに慧は続けた。


「パンフレットにあったろう、SランクとAランクにはランクが一目でわかるバッジを配られるって。姫は私服だからわからなかったけど、園香先輩と柚子先輩はSランクの白バッジ、蓮先輩もAランクの金バッジをしてた」


「つまり偉い人にはいい態度とるんだ」

「違う! ただ、何もできないくせに煩い女が嫌いなだけだ」

「何よ、その偏見!」

「事実だろ。勉強もスポーツもできないくせに、口だけは達者で。話題はアイドルか格好いい男子のことばかりだし、くだらないことで、手のひらを返すように邪魔な奴を排除しようとするし」


 確かに、小学校のクラス内でも女子の派閥のようなものはあったし、咲希も避けられてきた。でも、むかつく。


「……だからって、何で女全員がそういう人だって決めつけられなきゃいけないのよ」

「決めつけてるわけじゃない。口ばっかじゃない人には、ちゃんと敬意を払うさ」

「じゃあ、口ばかりの人間じゃなかったら、私にも敬意を払ってくれるんだ?」


 咲希がわざとらしく挑発すると、慧の頬が僅かに引きつった。


「いいさ。じゃあ、お前が今日の学力テストで一科目でも俺に勝てたら認めてやるよ。その代わり、一科目も勝てなかったら、二度と俺に近づくな」

「世の中の女子みんながみんな、自分より下だなんて思わないでよね」


 ふん。

 そんな効果音が聞こえそうな勢いで、お互い顔を背けた。




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