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学園計画   作者: 洋野留衣
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2


 教職員寮の女子寮は階段を上がって右側。咲希の名前は一番奥の部屋にあった。

「あなたが結坂咲希ちゃん?」

「うん、よろしく」

 同室になったのは、中澤理沙と田中美緒、大崎亜由利の三人だ。田中美緒と大崎亜由利の二人は、視聴覚室に残って色々聞いてきたらしい。


「特進科の人は聞きにくかったからやめたけど、他の寮の人達にはたくさんお話聞いてきちゃった!」

「しかもね! 体育科に来ないかって誘われちゃったんだよねー!」

 二人は興奮気味に、あの場では聞けなかった情報を話してくれた。


「普通科の人に聞いたんだけど、やっぱり寄付とか支給金って大事なんだって。朝食と夕食は寮で食べるらしいんだけど、普通科と先端技術科はかなり豪華らしいよ!」

「しかも設備も寮によって違うの! 普通科の写真を見せてもらったけど、大浴場はすごく綺麗だし、食堂はシャンデリアがついてるし! 憧れちゃうよ」

「んー……ならご飯が美味しいトコがいいなぁ」


 理沙は朝食と夕食の誘惑に釣られている様子。でも不味いよりは美味しい方がいいし、お風呂だって綺麗で大きな方が嬉しい。つい、私も普通科か先端技術科がいいな、なんてもらすと、二人の瞳が余計に輝きだした。

「でもね! これは体育科の寮長さんに聞いたんだけど、普通科はかなり上下関係が厳しくて、先端技術科は中々入れないんだって。特進科は個人主義で寂しいし、一番アットホームなのは体育科だって笑ってたよ」


「かっこよかったよね! 爽やか系だったし優しくて、今年二十歳になるなんて見えなかったし! でも豪華さも捨てらんないし……先端技術科は無理そうだから普通科かなぁ」

「何で先端技術科はそんなに入れないの?」

 理沙が聞いた。 


「昔から寮長さんが気に入った人しか入れないんだって。今の寮長さんは女の人で、寮の人達に姫って呼ばれてるから、先端技術科は《姫の花園》って呼ばれてるらしいよ?」


 ――姫の花園


 まるでファンタジー小説に出てきそうな言葉だ。

 理沙も同じように言葉を失って、それを見た二人は満足げに続ける。


「体育科はランクとか一切関係なく仲良しだって言ってたよ! 後輩にもお化粧教えてくれたり、一緒に買い物行ったりするんだって」

「そうそう! すごいんだよ、ショップ街って所! 有名ブランド店もたくさん入ってるし、食べ物も色んな種類あるし! お昼はたっぷり時間があって各自好きにしていいらしくて、何十店舗もあるから毎日友達と話しあって決めるんだって」


 学校にブランド店、お昼に中学生が外食なんて本当に何でもアリだ。二人がもらってきたショップ街のパンフレットを見せてもらうと、確かに百近い店の名前がある。しかも小学生でも知っている、鞄一つが何十万円もする有名ブランドまで。

 一体誰が買うんだろう。疑問は尽きなかった。


 そんな話をしながら簡単に荷物を整理した後、理沙と夕食に向かった。


 夕食はバイキング。ふっくら焼けたハンバーグにハッシュドビーフ。ポテトフライにラザニア、グリルチキンにデミグラスソースがかかったふわふわのオムレツ。海藻サラダにポテトサラダ、イチゴにメロンにオレンジに、ケーキやプリン、シュークリームもあった。


 クリスマスだってこんなごちそう見たことない。どれもこれも美味しくて、咲希もお皿を山盛りにして食べた。


「ねえ、まだかかりそう?」

「うん、もう一巡! そしたら最後に美味しかったやつをもう一回」

「……先に戻るね」

 どこにそんなに入るのか。あまりの美味しさに咲希も結構食べたけれど、理沙はそれ以上に食べる。なんと七回目のおかわりに突入したものだから、断りを入れて先に調理室を出た。


「あ……」

「またお前かよ」

 外にいたのは、髪の色と同じく日本人にしては色素の薄い瞳でこちらを睨む一条慧だ。


「私だって会いたくて出てきたわけじゃないよ」

 むかつくくらい露骨な態度に、語気も強まる。数秒睨み合った後、二人同時に歩き出した。


「何でついてくるんだよ!」

「教職員寮に帰るんだから、仕方ないじゃん! 嫌ならそっちが後から来なよ」

「はあっ!?  何で俺が!」


 咲希が追い抜くと慧がすぐさま追い越し、慧が追い越すと咲希が追い抜く。そのやり取りは、教職員寮の入り口で一つの声が二人を呼びとめるまで続いた。


「そこの二人、待ってくれる?」

 振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。


「先端技術科の……城川先輩?」

「お時間いいかしら? 少しお話がしたいの」

 真っ直ぐと伸びた背に、眼鏡越しでもわかる綺麗な瞳。つい数時間前に先端技術科の代表として自分達の前に立っていた人だ。その真剣な声に少し戸惑ったけれど、頷いた。


「良かった、こちらへ」


 先輩はそれだけ言うとくるりと背を向け歩きだしてしまった。慧と顔を見合わせ、足早に後を追う。途中で大きな、果実か何かの木がニ本植えられた広場を横切り、ショップ街らしき商店の集まりを左手に捉えながら、歩くこと数分。


 案内されたのはお洒落な、でも、小さな一軒家だった。

「姫、お連れしました。さあ、入って」

 城川先輩に促されて中に入る。


「いらっしゃい。結坂咲希さん、一条慧さん」


《姫》と呼ばれるその人は、本当にプリンセスのような人だった。






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