1. お出かけ
お待たせしました! 急に寒くなり作者は風邪をひきました......皆様もお気をつけください。
1章開始です!
「ティア様、そんなにそわそわなさらなくても……」
「だ、だだだって、ヴァン様が……」
私は、平民のような、だが、仕立ての良い淡い黄色のワンピースを身につけ、部屋の中でそわそわしていた。
「わ、私どこか変じゃないかしら?」
「大丈夫ですよ、どこも変じゃありません」
もう何度もこの問いを繰り返してるからか、エリカは苦笑いしている。
私は今、彼ーー陛下を待っていた。
「な、なんでこんなことになったのかしら……」
窓の外、明るく晴れた空を見上げながら、こうなった理由に思いを馳せた。
それは一週間前。私が神の子であるという衝撃の事実を知らされた後。
私たちはケーキを食べながらまったりとお茶を飲んでいた。お互い何を話せばいいのかわからず、無言の空間が広がっている。
そろそろ気まずくなってきた時だった。
「そういえば」
思い出したように陛下が口を開いた。
「お前の部屋のことなんだが、新しく用意させるから荷物をまとめておいてくれ」
まさかの言葉に絶句する。
「な、なぜでしょう?」
「今、お前の部屋は王国の使節団が使ってる区画にあるだろう? お前を虐げるような奴らとは一緒にしておけないからな」
「で、ですが、私はあくまで使節団の一員としてここに……」
「言っただろう? 俺が守る、と」
じんわりと暖かさが胸に広がる。
それに、と陛下が苦笑いを浮かべた。
「神の子にひどい扱いをすれば、災いが国を襲う。お前を虐げるような奴と一緒にできるわけがないだろう」
その言葉は少し上がっていた私の体温を落ち着かせた。
そうよね。確かに私が神の子であるならば、使節団と一緒にいた方がこの国にとっては危ない。
陛下は守ってくださると言ったが、陛下の気持ちのみで王国の使節団の一員である私を特別扱いできるわけがない。人質なのだから。
圧倒的な身分差を感じて内心で苦笑するしかない。
「わかりました、準備をしておきますね」
「ああ」
「お心遣いありがとうございます、陛下」
頭をさげる。
「良い、気にするな」
顔を上げると、陛下は思案するように顎をさすっている。まだ何かあるのだろうか。
「それとだが、お前はこの帝国で何をすると決めているのか?」
「いえ……」
急な質問に驚く。だが、その話題に私は視線を落とした。
ただ命じられるがままに来た私にやることなんてなかった。いや、お世話係という役割はあったが、それすらもなくなった私は何もすることがない。
「ふむ」
陛下の声に顔を上げると、彼は笑みを浮かべていた。
「せっかくだし、今度街を見てみるか?」
「い、いいのですか? ご迷惑では……」
「大丈夫だ。お前はお前のしたいことをすれば良い」
頬が緩む。王国の屋敷にいた時も、街に出たことはなかった。この髪と瞳が目立ちすぎるからだ。ここでもそれは変わらないかもしれないが、悪意の視線は向けられないだろう。
「はい! ぜひ見たいです!」
「わかった。俺は……そうだな、次の祭日には空くはずだからそこでどうだ?」
「え、あ、へ、陛下もいらっしゃるのですか!?」
誰か案内の者をつけてくれるという話かと思いきや、陛下がついてこようとしていることに動揺を隠せない。
「ダメな理由でも?」
「お、お忙しいのに私の案内など……」
「俺が行きたいんだ」
そう言われてしまえば断れるわけもない。
「よ、よろしくお願いします……」
「ああ、楽しみにしてるといい、街は賑やかで面白いぞ」
本気で楽しそうな表情をされている陛下を見て、早く街を見て見たい、そう思った。
そして、今、陛下を待っているわけなのだが……。
緊張でおかしくなりそうだった。
まず、初めてのワンピースが心もとないのだ。ドレスは確かに着づらい。重いし、コルセットは締め付けがきついし、そもそも動きづらい。
でも、ドレスはその分厚い布で私の体を覆ってくれて私を隠してくれる。それは、忌子であるがゆえに「醜い」と言われ続けた私が人前に出る時の、唯一の助けだった。
だが、ワンピースは違う。薄い布で、いつも感じる重さがない。それが私に心細さを与えていた。
と、その時だった。
コンコン。
「私だ。入ってもいいか?」
陛下の声に心臓がどきん、と跳ねる。
「どうぞ」
側に控えていたエリカが扉を開けると、同じく平民の服を着た陛下が入ってくる。陛下は初めて会った時と同じ「ヴァン様」の見た目に姿を変えていた。
思わず見惚れてしまう。「皇帝陛下」の時よりも圧倒的に地味な見た目であるにも関わらず、やはり金色の瞳が人を惹きつけてやまない。
平民の服を着ていようが、陛下は陛下だった。
「ワンピース、似合っているな」
挨拶する前に話しかけられるところが陛下らしい、っと内心でクスリと笑ってしまう。
ワンピースを褒められたこともあり、不安が少しずつ溶けていくのを感じた。
「ありがとうございます、陛下も似合っております」
あ、もしかして似合ってるって失礼かしら……?
言ってしまってから不意に気づき慌てる。だが。
「あぁ、ありがとう」
特に気にした様子もなく、ホッとした。
「表に目立たない見た目の馬車を用意している。行こうか」
「はい」
陛下の後に続いて部屋を出る。ここからは二人だけ。
エリカが声に出さず
『頑張ってください』
と言ってくれたのを見て、私は笑みを浮かべたのだった。
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