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5. この気持ちは......

 皇帝陛下の少し後ろを歩きながら私はまだ混乱していた。聞きたいことがいっぱいあるが、身分が下の者から上のものに話しかけることはご法度である。私は黙ってついていくことしかできなかった。


「入ってくれ」

「し、失礼いたします」


 ついたのは陛下の執務室のようだった。豪華な調度品が並ぶ部屋は私には不釣り合いで、落ち着かない。


「そっちにかけてくれ。今紅茶を淹れる」

「あ、私が……」

「大丈夫だ。いつも自分でやっているからな」


 陛下が手早く紅茶を淹れる。口をつけるといい香りがした。


「美味しい……」

「俺が淹れられることに驚いたみたいだな」

「そ、そんなことはっ……」

「いや、いいんだ。だが、皇帝をしていると人から恨まれることも多い。口に入れるものは自分で用意したほうが安全なんだ」

「そうなのですね……」


 私には想像もつかない世界。


 もしかしたら、陛下と私は似ているのかもしれない。私は忌み子として生まれ、誰からも愛されずに一人で生きてきた。


 陛下はどうかわからないが、周りの人間が信用できない生活、それはやはり孤独なのではないだろうか。


 そんなことを考えていると、陛下が私を見つめていることに気がついた。首をかしげると、苦笑される。


「何か、聞きたいことがあったんじゃないか?」

「あっ……」


 陛下のことを考えて忘れてましたなんて言えない。顔が熱くなる。と、陛下がわざわざ私の隣に来た。そして、何気ない仕草で右手が頬に添えられる。


「お前はすぐ顔が赤くなるな」

「あ、えと、あの……」


 急なことに驚き、口ごもる。彼の手は昨日とは違い少し温かかった。彼の体温にドキドキする。鼓動が早い。


「神の子について知りたいんだろう?」

「は、はい……」

「この世界を作りたもう女神の姿が白髪で青い瞳なのだそうだ。その姿に酷似した子供ということで神の子と言われている。この国の民であれば多くの者が知っている話ではあるが、不興を買うのを恐れて近づかない奴も多いからな。だからお前に神の子の話が伝わらなかったのだろう」

「で、でも、実際私が生まれてから国は災いに見舞われてっ……!」

「それはさっきも言っただろう? お前を苦しめたからだと。

 大昔にその姿の子供を嬲り殺した皇帝がいたらしくてな、何年もの間国を大きな災いが襲ったらしい。それ以来、神の子は丁重に扱われるようになった」


 初めて聞く話に呆然とする。気がつけば涙が溢れていた。彼の指が私の涙を優しく拭う。


「もうお前を傷つける奴はいない。俺が守ってやる」

「そ、それは神の子だから……?」


 なぜ、こんなことを言ったのかわからない。だが、口をついて出てきたのはそんな言葉だった。


 私の言葉に彼は驚いた表情を浮かべたのち、ふんわりと微笑む。初めて見る優しい笑みに思わず息を呑んだ。


「違う。俺がお前を気に入ったからだ」

「な、なぜ……?」

「昨日、バルコニーに立ってるお前はまるで月から降り立ったかのように美しかった。まずその姿に目を奪われたんだ」


 思わぬ告白に涙が引っ込む。気がつけば彼の目には熱がこもっていた。


「そして、泣いてる姿を見て守ってやりたいと思った。この気持ちが何か俺にはわからない。だが……とにかくお前を守りたいと思ったんだ。だから……」


 ーーずっとそばにいてくれないか。


 彼の瞳を見ればその言葉が嘘ではないとわかる。私の心が温かくなるのがわかった。


 今朝も抱いたこの感情はなんなのだろう……?


 甘くて。

 少し切なくて。

 ふわふわしている。


 この気持ちの名前を私はまだ知らない。だが、一つだけわかったことがある。

 それは、彼と一緒にいることが私にとっての幸せであるということ。


「もちろんです。ずっとお側にいますね」


 その瞬間、彼は固まった。どうしたのかと首を傾げると、彼が満面の笑みを浮かべる。


「綺麗に笑うじゃないか」

「えっ……」


 彼の瞳に映る私は、確かに心の底から笑っていた。


「きっと、陛下のおかげですわ」

「当たり前だろう」


 私たちはお互いに笑い合った。


 窓から差し込む陽の光が私たちを明るく照らしていた。


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