第一話
奇想天外、奇々怪々、青天霹靂。
先程、自分こと『剣 勇利』の身に起こったことを端的に表すのであれば、そうした言葉が相応しいだろう。
自分は、自衛隊南西航空方面隊第9航空団装備隊所属の1等空士だった。
その日は、先日米軍から供与された新型航空機の飛行試験及び飛行訓練があり、自分は整備要員としてその場に配されていた。─はずだ。
はずだ、という表現になっているのは、何、単純に途中から記憶が曖昧になっている事を示したいだけだ。
気が付けば、私はベットの上に寝かされていた。その状況から、事故か急病か、何某かの事が起きたことを推察するのは容易だった。
だがそこで、はたと私は思った。なんだこの天井は、とそう思った。
いや、"知らない天井"であることは至極当然の事なのだ。自慢ではないが、自分は生れ落ちて二十余年病気の類を経験したことが無い。故に如何なる病室の天井も、基地の医務室の天井ですら、知らない。
だが、その天井は"相応しい天井"ではなかった。もっと詳細に言えば、天井ではなく天蓋だった。薄いレースに細かな花の刺繡がなされた、豪奢とも言うべきキャノピーが、私の頭上に広がっていた。
ベッドカーテンがあることは病室にして自然といえども、流石にそれが天蓋とレースカーテン、しかも明らかにインテリアとしての要素が強いモノであっては、これを違和感というほかないだろう。
いや、ともすれば寝起きの頭だ、何かひどい勘違いをしてるのではあるまいか。
体は動きそうだ、そうなれば起きて誰かを呼ぶのが良いのではないか。
そう思い立ち、起き上がろうと手をついて寝返りをうったところで、またおかしな事が目に入る。
まるで少女の様な、マシュマロのように白くきめ細やかで程よくふくよかな、そんな手が自分の目に入った。
布団の中から自分以外の手が唐突に生えたようにすら錯覚した。
「ぬぁま!?」
と、仰天して悲鳴を上げて飛びのいた。。同時に自分はベッドから転げ落ちた。頭から床にぶつかり、視界に星が飛ぶ。
丁度落ちたそちら側には、大きな姿見が誂えられていた。上下がひっくり返り、逆さまとなった視界にそれが目に入った。
それに"映し出されたモノ"が目に入った。
当然そこには中背の健康成年男子の姿が映されているべきだった。
二十余年見慣れてきた、自分自身の姿が映されているべきだった。
─が、そうではなかった。
そこに映されていたのは、幼女だった。
煌めくプラチナブロンドの長い髪と、ルビーの様に輝く真紅の瞳を持つ、美幼女だった。
自分が笑えばその幼女が笑い、片眼を瞑ればその幼女もこちらにウィンクをし返す。
ああ、見れば見るほどかわいらしい、愛くるしい幼女がその鏡の先にいた。
そしてそれが、紛れもない今の自分の姿を映したものだと得心するのに、大した時間は要らなかった。