ダンディー野
ダンディー野が初めて活用するというので場内は騒然としている。現状維持の万年床を守っていたあのダンディー野が活用するのである。
ダンディー野が来た。頭上をカモメが旋回する。
「ダンディー野、タキシードは黄一色だけど、この先の講演予定は真っ白だって、・・・・・・ゲッツ」
・・・・・・場内はやや粛然としてきた。
「ダンディー野、今朝、憤慨したんだ、・・・・・ゴッド、理由は、午前7時に入電、・・・・・・ゴッド。起きて電話に出ると、警察からで、夜に車が盗難されたけど、取り戻したって言うんだ、・・・・・・ゴッド、ゴッド、ゴッド、ゴッド、それで今、保管場所に引き取りに行かなきゃならないんだ、・・・・・・ゲッツ。だから服を着てバスに乗って町へ行ったんだけど、着いて気がついたんだ、彼らが間違っていると、・・・・・・・ゴッド、ゴッド、ゴッド。ダンディー野、車は持ってないんだ、・・・・・・ゴッド。時々、ダンディー野、頭が混乱する、・・・・・・ゲッツ」
・・・・・・場内は恐ろしいほど静かになった。聴講者は一人を除いて、ゴットやゲッツに首を傾しいでいる。ただ一人、最前列のマルティリンガルな少女が謎解きの時を待っている。
ダンディー野が目配せした。
時は来た。
少女は立ち上がって振り向くと、アメリカ風にフラッピングすることもなく、イギリスRP流に声門閉鎖することもなく、もともとのTの発音を厳格に守って、宮様めく翻訳したのである。
So I got(became) angry this morning
because I got(received) a phone call at 7am
so I got(woke) up and got(picked up) the phone and it was the police they said that my car had got(been) stolen during the night
but they had got it back(found it) and now I had to get(retrieve) it from their car impound.
So I got dressed(dressed myself) and got(took) the bus into town but when I got(arrived) there
I realized they had got it wrong(made a mistake).
I haven't got(don't have) a car.
Sometimes I get cofused.
しわが持ち上がる。伸びようとして伸びる。首を正した人々は、ダンディー野によるgetの多用法で脳のしわを伸ばし、脳の溝を深めた。このとき活性化したウェルニッケ野の部分野をダンディー野と呼ぶ。
講演は退けた。少しだけスマートになった人々はスマートフォンを手にし、YouTubeを開く。あの曲を聴くためである。
一発屋がさくらんぼのように並んでいる。ダンディー野とちゃんスギだ。
「Get Wild」
一発屋は一度だけだ、ただ一度だけ。一度、それきり。しかし、たとえ一度だけでも、一度ジャックポットしたこと、芸人として売れたということ、これは紛れのない事実である。もう、何も恐くない。