表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?  作者: 火産霊神
異世界に転生しちゃいました?
8/45

第8話 まほーつかいのお弟子さん

 (すご)い、(すご)い。

 アレクサンドラは私の能力を見抜(みぬ)いただけでなく、この異世界で生きていく(すべ)も教えてくれるという。

 私は転生後は(ひと)りぼっちで生きていかないといけない、と思っていた。

 (今は)16歳の女の子にそんなこと出来るのだろうかと思っていた。

 (たの)みの(つな)の能力は規模(きぼ)が大きすぎて自主的(じしゅてき)封印中(ふういんちゅう)だし…。

「私って幸運だよね…。」

 部屋に戻り天蓋(てんがい)付きのベッドに(もぐ)り込んだ私は、(ひと)(つぶや)いた。そしてそのまま深い眠りについた。


――夢を見た。


 夢を見るのなんて久しぶりだ。

 前世での社畜(しゃちく)生活時代は、いつの間にか寝ていて、寝たと思った瞬間に朝になっていたから。

 夢の中にはお父さんとお母さんが出てきた。

 二人とも私を見て、ニッコリ笑ってくれた。

 それは私の記憶(きおく)の中に残る、かけがえのない日々だ。


 翌朝(よくあさ)、小鳥の(さえず)りで私は目を覚ました。

「いけない!遅刻(ちこく)!ち…あれ!?」

 そうだ、ここは日本ではない、異世界。

「よく考えたら、あれからまだ1日しか()っていないんだよね。」

 随分(ずいぶん)と時間が()った気もする。

 それでも、立花(たちばな)由芽(ゆめ)としての夢を見るのが、まだ時間が()っていない証左(しょうさ)とも言える。

 ただ…時間が()つとこの夢も見なくなるのだろうか…それは(いや)だな、と思った。


――チリン・チリーン


 部屋のハンドベルを鳴らす。

「おはようございます。お客様。」

 メイドは思いのほか早く部屋に現れた。

 もしかして隣の部屋が()(しょ)なのだろうか…?

 メイドはラベンダー色の髪に栗色(くりいろ)の瞳。年齢は10代後半くらい。そばかすの残る顔がとても可愛(かわい)らしい。

「えっと、洗顔(せんがん)をしたいのですが、顔を洗う場所はありますか?あと私、貴族の方の作法(さほう)には(うと)くて…。何かをする時間(タイムスケジュール)もよくわからないのですが…。」

「かしこまりました。」

 メイドが(うやうや)しく頭を下げる。

「まず洗顔(せんがん)でございますが、部屋を出られて左奥のパウダールームで可能でございます。タオルは(そな)()けのものをご利用ください。私共(わたくしども)におっしゃってくだされば、()しタオルのご用意もできます。」

「あ、ありがとうございます。それではパウダールームを利用させていただきますね。」

 ()しタオルとか、そんな(いた)れり()くせりをされては、緊張(きんちょう)で身が持たない。

「かしこまりました。次に、作法(さほう)でございますが、特にお気にされなくてよろしいかと思います。当屋敷(やしき)のお客様には貴族以外の例えば商人(しょうにん)様や神官(しんかん)様もいらっしゃいますので。最低限の節度(せつど)があれば大丈夫かと。伯爵(はくしゃく)様もお気になされる方ではございません。」

「は、はい。」

 良かった。昨日の夕食もうろ覚えのテーブルマナーで乗り切ったのだが、神経質(しんけいしつ)になる必要はなさそうだ。

「それと時間についてですが、食事の時間などは私共(わたくしども)がお声掛(こえか)けに(まい)ります。お客様は本日からアレクサンドラ様の講義(こうぎ)をお受けになられると(うかが)っております。こちらにつきましても、時間になりましたら私共(わたくしども)がお声掛(こえか)けに(まい)ります。お声掛(こえか)けの(さい)にお返事がない場合は、安否(あんぴ)確認のため、お部屋に入らせて(いただ)くこともございますので、その点はご了承(りょうしょう)くださいませ。」

「はい。わかりました。それと…最後に一ついいですか?」

「何でございましょう?お客様。」

「えっとね、その…ユメって名前で呼んでもらえると(うれ)しいかな…?」

「かしこまりました。ユメ様。」

 メイドはにっこりと笑い、もう一度(うやうや)しく頭を下げたのちに部屋を出た。

 できれば「様」づけではなく「さん」づけの方が良いのだが、これ以上はメイドさんを困らせると思ったので、口には出せなかった。


 朝の身支度(みじたく)(ととの)えて、私は伯爵家(はくしゃくけ)の皆と一緒に朝食を食べた。

「ねぇ、ユメ!食後は何をして遊ぶ?お出かけするのもいいわね。あぁ、それと街を案内して差し上げたいのだけれど…」

 レフィーナが無邪気(むじゃき)な笑顔で私を(さそ)った。

 そうか、私がアレクサンドラのところで指導(しどう)を受けることをレフィーナは知らない。

「ごめんね、レフィーナ。私はこの後、アレクサンドラ先生のところでお勉強(べんきょう)をさせて(いただ)く予定なの。」

「えぇ、そんなぁ…」

 レフィーナは(まゆ)をひそめた。

「レフィーナ、ユメさんにも色々予定があるのだよ。我がままを言って困らせてはいけないよ?」

「そうですわ。」

 オルデンブルグ伯爵(はくしゃく)夫婦(ふうふ)が助け(ぶね)を出してくれた。

「あのね、レフィーナ。アレクサンドラ先生のところで勉強(べんきょう)をさせて(いただ)くことは、私にとって(すご)く大事なことなの。だから、ね。少しの(あいだ)我慢(がまん)してくれると私は(うれ)しいな。」

 私は妹に接するようにレフィーナに話した。いや、前世では一人っ子だったのだが…妹がいたら、きっとこんな感じなんだろうなと思った。

「あぁでもね、レフィーナ。お勉強(べんきょう)は昼過ぎには終わるの。それから夕方までは自由だから、その時間に街を案内してくれると(うれ)しいな。」

 そう私が言うとレフィーナは目をキラキラさせた。

「ホント?約束よ⁉」

「うん。約束。じゃぁ指切りげんまんしようか?」

「なぁに、それ?」

 あ。つい、言ってしまった。

 さすがに異世界に指切りげんまんはないだろう。

「あ、えっとね。い、(いま)急に思い出したんだけど、私の故郷(こきょう)で伝わる風習(ふうしゅう)なの。お(たが)いの小指を(から)めて、約束を守りましょうねって(ちか)うの。」

「わぁ、ユメ、記憶(きおく)をひとつ思い出したのね!素敵(すてき)風習(ふうしゅう)だわ。うん、指切りげんまんしましょう!」


 食後、私はアレクサンドラの部屋に向かった。

「いらっしゃい、ユメさん。始めるにあたって弟子に『さん付け』というのはどうかと思うので、これからはユメと呼びたいのだけど、いいかしら?」

「はい、先生!」

 その方が私も気兼(きが)ねせずに()むのでありがたい。

「よろしい。それではさっそく始めましょうか。」

「はい!」

「ユメ、まずは医療(いりょう)がどういうものか、その仕組(しく)みは分かっていますか?」

「いいえ。」

 そのような知識を得ることなく転生したので、本当にわからない。

「簡単に言うと、病気やケガの人を魔法で(なお)す、それが医療(いりょう)ですね。病気には風邪(かぜ)頭痛(ずつう)腹痛(ふくつう)関節痛(かんせつつう)発熱(はつねつ)などがあり、微生物(びせいぶつ)病原体(びょうげんたい)が体内に入ることで発症(はっしょう)するもの、毒や腐敗(ふはい)したものを経口(けいこう)摂取(せっしゅ)することで発症(はっしょう)するものなど様々な種類があります。ケガは擦傷(さっしょう)打撲(だぼく)骨折(こっせつ)など。このケガが原因で発症(はっしょう)する病気もあります。それら病気やケガの種類については、この部屋の書物に記載(きさい)されていますが、ご覧のとおり数が多いので一つ一つの説明は省略しますね。」

 ここまでは前世とさほど変わらない。しかし科学技術が(とぼ)しいこの世界で、微生物(びせいぶつ)病原体(びょうげんたい)認識(にんしき)があるというのは(おどろ)きだった。

医療(いりょう)はまず、病気やケガの原因(げんいん)が何かを特定(とくてい)します。それから、治療(ちりょう)魔法を使います。」

 そういえば、私の時もアレクサンドラは2種類の魔法を使っていた。

「すぐに治療(ちりょう)魔法を使うわけではないのですね。」

「はい。ユメは良いところに気づきましたね。なぜ、すぐに治療(ちりょう)魔法を使わないのか、それは病気やケガの種類がたくさんあるように、治療(ちりょう)魔法にも用途(ようと)(おう)じていくつかの種類があるからです。微生物(びせいぶつ)病原体(びょうげんたい)除去(じょきょ)する魔法、毒素(どくそ)除去(じょきょ)する魔法、損傷(そんしょう)個所(かしょ)修復(しゅうふく)する魔法、身体を活性化(かっせいか)させて回復する魔法など。例えば、体内に病原体(びょうげんたい)を残したまま、活性化(かっせいか)の魔法を使ってしまうと、病原体(びょうげんたい)まで活性化(かっせいか)してしまうので、逆効果(ぎゃくこうか)なのよ。」

 なるほど、それは確かに原因が分からないと危険だ。

「私がユメに使った魔法、『スタータスプルフーン』は身体を全て調べることができる、レベル10の高等(こうとう)魔法です。状態(じょうたい)異常(いじょう)、病気の有無(うむ)、身体損傷(そんしょう)有無(うむ)のほか、体内の循環器系(じゅんかんきけい)異常(いじょう)なども検知します。もう一つの『インスペクティオン』もレベル10の高等(こうとう)魔法で、(どく)微生物(びせいぶつ)病原体(びょうげんたい)検知(けんち)します。」

 あれはそういう魔法だったのか。

 それにしても、アレクサンドラ先生の説明は分かりやすい。

「それでは、今日はこの診察(しんさつ)魔法を習得(しゅうとく)する修行(しゅぎょう)から始めましょう。」

 かくして、アレクサンドラ先生による魔法の実技(じつぎ)指導(しどう)が始まった。

 

「ユメ、緊張(きんちょう)しているのかもしれないけど、毎回そんな高出力(こうしゅつりょく)診察(しんさつ)魔法を使わなくていいわよ?(つか)れるでしょう?」

 アレクサンドラが疑問を投げかける。

「いえ、その…(つか)れることはないのですけれど、出力(しゅつりょく)ってなんですか?」

「え!?」

 私の問いに、アレクサンドラはたいへん(おどろ)いた。

「ユメ、あなたその魔力値(まりょくち)魔力制御(まりょくせいぎょ)のスキルは持っていないの?記憶喪失(きおくそうしつ)で忘れてしまったのかしら…?」

 私は何のことかさっぱりわからず、きょとんと立ち()くした。

 そしてアレクサンドラは眉間(みけん)に手をあてて、考え込む。


――これは困ったわ…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ