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能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?  作者: 火産霊神
異世界に転生しちゃいました?
15/45

第15話 エルフって実在するんですね

 ガサガサ ガサガサ

 ()の上から風で木の葉がこすれる音に()じって、不自然(ふしぜん)な音がする。

「わ、私はユメという者です。(あや)しいものじゃないです…あ、あのオルデンブルク伯爵様(はくしゃくさま)身元(みもと)証明(しょうめい)もありますっ!」

 相手はおそらく()の上にいるのだろう。大きな葉に(かく)れてこちらからは姿が見えない。

 私は、何となく音と声のする方に向かって(さけ)ぶ。そして、(かばん)から伯爵(はくしゃく)身元(みもと)証明(しょうめい)を取り出し、頭上(ずじょう)(かか)げた。

「そのまま動くな。」

 (ふたた)び声がしたかと思ったら、私の目の前に何者かが()り立った。

 ()の上から飛び()りたであろうに、(しず)かに着地(ちゃくち)するなんて、何とも(かろ)やかな身のこなしだ。

 いったい何者なんだろうと(おそ)(おそ)る見てみる。(かみ)(かた)までの長さで、色はシャンパンゴールド。絹糸(きぬいと)のような光沢(こうたく)(まぶ)しい。

 (はだ)()き通るように白く美しい。

 (ひとみ)の色はスプリング・グリーンで切れ長の目には長い睫毛(まつげ)。まるでギリシャの彫刻(ちょうこく)が動いてるかのような絶世(ぜっせい)美形(びけい)だ。

 やや(ひか)え目ながらも胸の2つの(ふく)らみから、この人は女性だと思われた。

 いや、人…なのだろうか?

 人にしては耳が長い。えっと…(たし)かこういう人達って…

「エルフ…さん?」

 私は|前世のファンタジーに(かん)するおぼろげな記憶(きおく)をたぐり()せた。


如何(いか)にも、私は森の民エルフ。」

 さすがファンタジーの異世界。

 エルフって実在(じつざい)するんだとしみじみ思った。

 あれ、そう言えば神様がこの世界にはエルフもいると言っていたような気が…。

「すまないが、その身元(みもと)証明(しょうめい)、本物かどうか調べさせて(もら)う。そのまま動かないで。」

 そう言うが早いか、エルフの女性は呪文(じゅもん)詠唱(えいしょう)し始めた。

 すると、伯爵(はくしゃく)身元(みもと)証明(しょうめい)がボウッと青白く光った。

「本物の証明…これは失礼しました。いきなり呼び止めたことを謝罪(しゃざい)します。その、この(あた)りでは見かけない方だったので…。」

 エルフの女性はばつが悪そうに顔を赤らめながら顔を横に(そむ)けた。


 いきなりで(おどろ)いたが、悪い人ではないのだろう。ん、人じゃなくてエルフ…。もう、いちいち面倒(めんどう)くさいので人って言うときがあってもいいよね?

 とまれ、このエルフさんは使命感(しめいかん)責任感(せきにんかん)が強い人なのだろう。

「ユメ殿(どの)…でしたね。」

「は、はい。ユメです。」

 どうもこのエルフさん、美人()ぎて目が合うとドキドキしてしまう。

(あらた)めまして、私の名前はソフィア。ミュルクウィズ部族(ぶぞく)戦士長(せんしちょう)アステアの娘です。」

 部族(ぶぞく)とか戦士(せんし)とか、世界の秘境(ひきょう)(たず)ねるテレビ番組でしか聞かなかった言葉だなと思った。

「実は昨日、不審(ふしん)な事件が起きまして、こうして村付近(ふきん)警備(けいび)強化(きょうか)していたのです。」

「は、はぁ…。」

 これ、もしかして危険(きけん)なやつじゃない?

 トラブルに()()まれて…って、私は小説とかゲームには(うと)い方だけど、それでもこういう展開(てんかい)がお約束なのは知っている。

 小説は主人公が何とか解決(かいけつ)しちゃうけれど、ここは現実。死んでしまったら元も子もない。今は目指(めざ)せ、スローライフだもん。


「あの、(おどろ)かせてしまったお()びをさせて(いただ)きたいので、村に立ち()っていきませんか?」

 ソフィアが申し(わけ)なさそうに言った。

 やはりこの展開(てんかい)…。

「い、いえ、ソフィアさん。そんなに(おどろ)いたわけでもありませんので、お気になさらず。」

「ユメ殿(どの)は先を急がれるのですか?」

「そういうわけでもないのですが、ミューレンの町まで行く予定でして。今日中に次の宿場町(しゅくばまち)まで歩いておきたいなと…。」

「だったらなおさらですよ?」

 どういうことだろう?私はその言葉が引っかかった。

「ミューレンの方角に向かうのでしたら、この先まだまだ森の中を歩かねばなりません。次の宿場町(しゅくばまち)に着くころにはすっかり夜も()けています。夜の森は夜行性(やこうせい)の肉食モンスターが(えさ)を求めて歩き回るので女性の一人旅はとても危険(きけん)かと。」

 うう、それは(いや)だ…。

 そして、続けて言ったソフィアのひと言に私の心は(うば)われてしまう。


――それに、村には温泉もありますよ?


 温泉、なんと甘美(かんび)(ひび)きなのだろう。

 日本人なら100人いれば95人以上は好きと答える(と私は確信(かくしん)している)最高のリラクゼーションスポット、それが温泉だ。

 もちろん、私も温泉は大好きだ。いつか、社畜(しゃちく)生活の合間(あいま)に温泉に行こうと思っていた。でもその夢は(かな)うことなく死んで異世界に…。(なか)ば温泉は(あきら)めていただけに、強く()かれてしまう。

「わかりました。せっかくのご厚意(こうい)、甘えさせて頂きます。」

 ソフィアは警備(けいび)任務(にんむ)副隊長(ふくたいちょう)と呼ばれた男性エルフに引き()いで、村までの案内をしてくれた。


 村に向かう途中、ソフィアは「今日は自分の家に()まっていくといい」と言ってくれた。

 これも伯爵(はくしゃく)身元(みもと)証明(しょうめい)のおかげなのだろうか?(あらた)めて(すご)効力(こうりょく)だと思った。

「そういえば、ソフィアさん。」

「ん?どうしましたか、ユメ殿(どの)。」

 うーん、この言い方はどうにも馴染(なじ)めない。

「えっと…その前にまずは、ソフィアさんさえよろしければ「ユメ」と()んでくださいませんか?」

「ああ、そういうことですか。そうですね、ではユメ。私の事もソフィアと呼んで欲しい」

「うん、わかったわ、ソフィア!」

 私たちはお互いに顔を見合わせてにっこり笑った。

 このソフィアはレフィーナとはまた違っていい人だなと思った。

 ()っすぐで、裏表(うらおもて)を感じない。


「じゃあ改めてソフィア、さっき言ってた不審(ふしん)な事件ってなぁに?」

「あぁ、そういえばまだ、お話ししていませんね。」

 そう言ってソフィアは村で起きた事件を話し始めた。


 ソフィア(たち)ミュルクウィズ部族(ぶぞく)はエルフの中では社交的(しゃこうてき)な方で、他種族(たしゅぞく)との交流(こうりゅう)抵抗(ていこう)がない。(エルフの中には他種族(たしゅぞく)集落内(しゅうらくない)に足を()み入れただけで、問答無用(もんどうむよう)で切りかかってくる者たちもいるとか…)

 その社交性(しゃこうせい)を買われて、オルデンブルグ伯爵(はくしゃく)から直々(じきじき)に村に温泉宿を(つく)ってほしいという依頼(いらい)があったのだそうだ。

 私が今朝出発した宿場町(しゅくばまち)からミューレンの町の方向に向かって次の宿場町(しゅくばまち)は、先刻(せんこく)ソフィアに警告(けいこく)されたとおり(はな)れすぎていて、徒歩だとまだ()も登らぬ早朝に出発しないと真夜中(まよなか)になってしまう。

 余談(よだん)だが、西にあるチューリヒという町の方が往来(おうらい)が多く、私が止まった宿の人もチューリヒに向かうものと思い込んでいたので、特に警告(けいこく)はしなかったのだろう。ここなら日没までには着くらしい。

 話を戻そう。往来(おうらい)(ごく)(わず)かとはいえ、宿場町(しゅくばまち)同士が(はな)れている問題はオルデンブルク伯爵家(はくしゃくけ)の長年の課題(かだい)

 エルフの村に温泉が出たというのは渡りに船だったというわけだ。

 ただ、温泉といっても以前は温かい池のようなものがあっただけ。

 垣根(かきね)などもなく、利用する者は(だれ)もいなかった。

 この温泉宿(おんせんやど)建設(けんせつ)をきっかけに、男女別の垣根(かきね)(かこ)われた立派(りっぱ)露天風呂(ろてんぶろ)ができたのだった。

 かつて宿場町(しゅくばまち)で宿を経営(けいえい)していた人たちからのアドバイスも受け、いよいよオープン間近(まぢか)(せま)った昨日、事件は起こった。

 村の井戸水を飲んだ者が腹痛(ふくつう)(おそ)われるようになったのだ。

 

「私たちはこの温泉宿(おんせんやど)反感(はんかん)を持った人たちの(いや)がらせだと思っているわ。あ…ユメ、安心してね。滞在(たいざい)中は戦士長(せんしちょう)の娘の名にかけて、不埒者(ふらちもの)には指一本()れさせないから!」

 ソフィアの顔が(けわ)しくなる。

「私たちの村が宿場町(しゅくばまち)となることで、ミューレンの町へ行くのは便利になるのだけれど、西の町チューリヒに行く人にはそんなに恩恵(おんけい)があるわけではないの。むしろ、チューリヒの町とは近いから私たちの村にお客さんをとられるという逆恨(さかうら)みで…というのが私たちの推論(すいろん)だけれど、動機(どうき)はあっても証拠(しょうこ)がないのよね。そもそもどうやって村に侵入(しんにゅう)したのかわからない。」

 そう言ってソフィアは大きくため息をついた。

 なるほど、それで村の周りを巡回(じゅんかい)していたわけだ。

「自然に井戸が汚染(おせん)された、とは考えられませんか?」

 侵入者(しんにゅうしゃ)がわからないなら、その可能性だってある。

「私たちは森の民よ?仮に自然に飲めなくなったのだとしても、ある日突然そうならないのは経験(けいけん)上知っているわ。」

 なるほど…森の民、自然のプロがそう言うのなら間違(まちが)いないだろう。


「村の井戸が使えないんじゃ、大変ですよね。生活とか大丈夫ですか?」

 私はエルフの人たちの生活が少し心配になってきた。

「そうね。でも、少し(はな)れているけれど小川があるので、きれいな水は()めるから大きな支障(ししょう)はないわ。」

 良かった。

 心の底から(うら)んでいるのであれば、その小川だって使えないようにするだろう。

 でも村の井戸が汚染(おせん)されただけで生活に大きな支障(ししょう)がない、ということはやっぱりちょっとした(いや)がらせなのだろう。


 しばらく歩くと、モンスター()けの(さく)で囲まれた集落(しゅうらく)が見えてきた。


――ようこそ、ミュルクウィズ部族(ぶぞく)の村、エレンへ!

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