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74 聖狐招来

「……獣魔術<死多斬涼女(したきりすずめ)>」


 セロとゼリムガイアの一騎打ち。


 それに乱入する怪鳥の影があった。


「ッ!?」


 頭上から舞い降りる蹴撃。

 セロがよけ、空振りしたまま地面に着弾する脚。


 そのまま地面に亀裂が走り、細かく砕かれた土が弾け散る。


「うわあああああッッ!?」


 その爆散に、観戦するレジスタンスメンバーも悲鳴を上げた。


「サリィ!? 邪魔しないでよ!?」


 一騎打ちに乱入したのは十二使徒第八位クワッサリィ。彼女がセロへ向かって不意打ち気味に、飛び蹴りを浴びせかけた。

 パートナーの意図を無視して参戦するその意図は……?


「手こずってるガイアちゃんが悪いですやん? ウチらはこれから隠れ家でウジウジしとるレジスタンスの小虫はんたちを一網打尽にせんといかんに、最初の一人に時間なんかかけてられんわ」


 それで一騎打ちの仁義を無視して乱入を?

 段々彼女の人となりがわかってきたな……!?


「……って言うのは半分建前で。その子、意外に美味しそうやん? 十二使徒と互角にやり合える猛者なんて今日びなかなかおらへんし。倒せば箔もつくっちゅうもんや。せっかくやし、この子ウチに譲ってくれへん?」

「途中から割り込んどいて!? 本当我がままねアンタは!?」


 奇しくも美女二人から挟まれる形となるセロ。


 普通なら羨ましい状況だが、ヤツらは美女の皮を被った凶猪に死鳥だ。

 追い込まれているぞセロ。


「いいから引っ込んでて手を出さないで! 下手にこっちが有利になるとジラットが出てくるかもしれないでしょう!?」

「何や知らんけど小虫どもに肩入れしはるもんねえ彼? じゃあやっぱりガイアちゃんが引っ込んでくらはる?」

「我がまま!?」


 二人の視線がチラリと俺を向く。

 答えたろうじゃないの。


「いいぞ、そのままで」


 ハッキリ宣言。


「二人がかりでセロを追い込むがいい。俺は一切手出ししない」

「バカなッ!?」


 絶望と共に駆け寄ってくるレジスタンスのリーダー。


「セロくんはキミの弟弟子なんでしょう!? 見殺しにしていいんですか!?」

「見殺しとは?」

「そうでしょう! 二対一ですよ! ただでさえ不利だというのに、その敵二人が両方十二使徒だ! 勝ち目なんかありませんよ!」


 リーダーさん。

 セロのこと『希望の星』呼ばわりしていた割には信用がないな。


「無用の心配だ。俺が余計なことをしなくてもどっちが勝つかは決まっている」

「え?」

「セロを甘く見るな。俺の弟弟子だぞ。グレイリュウガ辺りならともかく十二使徒二人程度におくれを取るか」

「……ッ!?」


 俺の圧倒的なまでの自信に絶句するリーダー。


 ……。

 しかし……。

 そう豪語したまではいいが、本当に大丈夫なのかな?


 いかにセロが『ビーストファンタジー4』の主人公とはいえ、それだけで負けないという根拠は薄い。


 主人公だって負けることがあるからゲームだろ。

 いやむしろゲームによっては主人公が負けまくる。


『ビーストファンタジー4』の中でも主人公セロとパーティの仲間が4人がかりでボスキャラの十二使徒を一人ずつ、袋叩きにして何とか倒せている。


 それが今回主人公単独で、敵は二人がかり。


 普通に無理ゲーと言われるシチュエーション。

 やっぱ宣言早まったかな?


「…………」


 しかしそれでも俺の胸中はざわつかない。

 やけに落ち着いているのは戦うセロの表情に陰りがないからだ。


 前方に猛禽、後方に暴猪と挟まれて、しかし弟分の気配に焦りも恐怖もない。


 アイツはもう持っている。

 この状況で必ず勝利を手にすることのできる秘策を。


 ならば兄弟子の俺はセロを信じて見守るだけだ。


「お前たちに感謝してやる」


 セロが前後へ向けて言う。


「お前たちが襲って来たお陰で兄ちゃんに見守られながら戦うことができる。俺の戦いを兄ちゃんに見てもらえる。こんなに嬉しいことはない」

「何言ってんのコイツ?」


 ゼリムガイアもクワッサリィも、もう敵を侮っていない。

 レジスタンスのザコという認識をとうに捨て去り、充分に警戒していた。


「初めて実戦でこれを使う。この瞬間を兄ちゃんに見届けてもらえるなんて出来すぎた幸運だ。俺が師匠との修行で到達した最高の領域を。お前らにも見せてやる。冥途の土産にな!!」


 そしてセロが変わった。

 変身した。


 あれは……。


「何いいいいいいッ!?」

「ウソやろ!? あのボン……あのガキが変わりおったあの姿は……!?」


 ゼリムガイアとクワッサリィが驚くのもしょうがない。

 ヤツらはあの姿に見覚えがあるのだから。


 十二使徒として、かつて俺とグレイリュウガの初対決を目撃していた彼女らなら……。


 セロが変わった姿は……。


 聖獣モード。


 全身にまとう青白い気は、獣魔気でも智聖気でもなく……。


 聖獣気。


 獣魔気と智聖気、双方が合わさり調和されないと発生しない超越のエネルギーがセロを包み込んでいる!


「あのあのあのあの……!! あの姿ッ! ジラットがマジになった時と同じ!?」

「青白いあの気をまとってグレイリュウガ様をボコボコにしたのは忘れようにも忘れられませんわ! それと同じ姿をなんであのガキはしてはるねん!?」


 困惑を通り越して混乱する二人。


 逆に俺は腑に落ちた。

 セロから発せられる絶対的な自信の正体はこれだったのか。


「まさか聖獣モードを修得していたとは……! 俺が出てったあとに習ったんだよな、やっぱり……!」

「兄ちゃんが使ったのを見て、どうしても俺も使えるようになりたかったんだ! 師匠にお願いしてたくさん頑張って……! モノにしたよ、聖獣モード!!」


 俺のせいか?

『ビーストファンタジー4』では当然使えないまま終わる聖獣モードを、旅の始まりにして主人公セロが修得してしまった。


 これはつまり……。

 ……イージーモードとか、『強くてニューゲーム』とか、そんなチャチなものでは断じてない。


 ゲームバランスの完全崩壊。


 セロは世界を思うままにできる力を手に入れた!?


「はひぃんッ!? おぼおぼぼぼぼぼぼぼ……ッ!?」


 ゼリムガイアがヘビに睨まれたカエルのようになって、悲鳴とも嗚咽ともつかない本当にわけわからない声を漏らしている。


「どどどどどッ!? どうすんのよッ!? アレってアレでしょう!? アレなのよ! アレアレアレアレアレアレ……ッ!?」

「落ち着きなさいなガイアちゃん! 慌てる気持ちもわかるけどウチらは十二使徒やでッ! 無様な姿を晒すわけにはあかんのやッ!!」


 彼女たちは、かつての俺の戦いを目撃し聖獣モードの恐ろしさを骨の髄まで理解している。

 心に刻み付けられたと言ってもいいか。


「気張りや! 尻の穴キュッと締めなはれ! ウチら十二使徒には敗北はもちろん、後退も許されへんのやで!」

「そ、そうよね……! ありがとうサリィ、お陰で持ち直せたわ。……それであの敵、どうやって対処する?」

「それなんやけどな。ガイアちゃん、あの子元々アンタさん一人で戦っとったやろ?」

「ん?」

「やっぱ獲物の横取りはよくない思うねん。ウチは身を引いたるさかい、心置きなく手柄を独り占めしいや」

「この野郎! 殊勝なこと言いつつ実際はアタシ一人に破滅を押し付ける気ね!? 十二使徒に後退はないんじゃなかったの!?」

「後退やないもん! 友だちに手柄を譲る博愛的行為やもん! そういうわけであとは頼んだでガイアちゃん! カラスが鳴くから帰ろーッ!!」

「逃がすか性悪女! 死なば諸共じゃあああああああッッ!?」

「ぎゃあッ!? 何すんねん放せやああああああッッ!?」


 なんと見苦しい。


 この『帝国守護獣十二使徒』の恥さらしでしかない二人に向かってセロは悠然と両手を向け……。


『……聖獣智式<陰陽刃(おんみょうじ)>』


 凄まじい聖獣気の奔流をまともに浴びて二人とも吹き飛ばされたのだった。


「「んぎゃああああああああッッ!?」」

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― 新着の感想 ―
[一言] セロ君はお母さんが安倍晴明の母である妖狐、葛の葉を元ネタにしてるから、元々狐の因子はあったのかな?
[一言] おうおう……鳥と猪のなんというカマセ感。 ジラットの所為で世界観ががががが!? まあ、ゲーム世界転生モノではごく普通ですけどね!
[気になる点] 聖獣モードというよりは、聖獣気を纏っただけかな? ビーストピースによる獣魔気の増加はないしね。
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