53 お披露目の前に
十二使徒用の特別衣装の型取りも終わった。
「なあジラお前あのマントに決めちゃえばよかったんじゃないのか?」
「そうっすよ。なかなか悪者感が出てましたし、小物感が出てましたよ?」
断る!
あの様相はいろいろ問題がある!
「それより用が済んだから、もう帰っていいのかな?」
「マジ重役出勤だなオレたち」
体の寸法図っただけで仕事終わりとか、これで給料もらうのが申し訳なさすぎる。
でも十二使徒が本格的にスタートするのがまだ先のようで、それまでは基本自由時間。各自好きにやればいいさ、という感じになっている。
強さこそ正義、強さこそが法という帝国の価値観から照らし合わせるとOKなのかもしれぬが……。
そこへフォルテがなんかモジモジしながら言ってくる。
「じ、ジラ……! だったらこれから時間空くよな? さっき言った私との十二使徒就任祝い、今からでも……!」
しかし彼女の目論見はすんなりいかなかった。
「皆さま、皇帝陛下がお呼びにございます。このまま謁見の間へお越しください」
城内警備兵から言われた。
「クソあの皇帝余計なマネを!?」
「口がすぎるぞー?」
今回最後まで顔を出さないかと思っていた皇帝だが、やっぱり出てくんじゃん。
無論帝国で一番偉い人に呼ばれて行かないわけにもいかず、俺たちはゾロゾロと移動した。
◆
「ふむ、壮観であるの」
謁見の間にて皇帝、玉座に座っていると実に皇帝らしい。
「ついに十二人。十二使徒がすべて揃った。お前たちが帝国の剣となり盾となり、帝国の敵を撃ち滅ぼすのじゃ。お前たちの働きによって帝国は益々繁栄することであろう」
そんなこというために呼び出したのか?
前にも同じこと言ってただろうに?
「チッ、そんなもの前から何回も言ってるじゃないか? いいから今すぐ帰らせろ……!?」
「フォルテ、ハウス」
フォルテが一刻も早く帰りたい小学生みたいになってる。
俺とお祝いパーティしたいから?
「十二人、全員か……」
玉座の両脇には、採寸の場に姿を現さなかったグレイリュウガとワータイガもいた。
たしかにこれで全員揃ったことになる。
特にグレイリュウガはつい最近俺がぼっこぼこにしてやったのにもう復活してやがる。
さすがに『竜』は生命力が高いな。
「しかしまだ完璧とはいえんの。そのみすぼらしい姿、お披露目の際にはもっと煌びやかに着飾り、見る者を脅しつけてやるがよい。そのための準備はすでに済んだな」
「はい、皇帝陛下」
誰かが恭しく言った。
「来たるべき日には、我ら最高の姿でもって帝国全民に畏怖を与えてみせましょう」
「うむ」
満足げに頷く皇帝。
「今の話にも出たが、近く正式にお前たち十二人のお披露目の場を開くつもりでいる。その際には帝国各地の総督や高官を集め、国外からも招待し、お前たちの威容を見せつけてくれよう」
示威行為。
恫喝は立派な外交の一手段だ。獣神ビーストから貰ったビーストピース、それによって生まれた十二人の強者は充分以上の脅威となりえる。
それを見せつけ脅威として認識させる。力の使い方を誠心得ている皇帝だった。
「お前たちの正式な運用は、お披露目の儀を経てからになる。それまで各自鍛えを怠らぬよう」
「お披露目の儀はいつからになるのでしょう」
「半月後を予定しておる」
半月……?
案外遠いな?
「そう急くでない。国中どころか国外までも見物人を募るのじゃ。出発地によっては移動だけでそれだけかかってしまうところもある」
心を読まれるように言われた!?
「これでも無闇に急がせておるのじゃ。その無理難題にどれだけ律義に従うかで帝国への服従具合もわかるというものよ」
皇帝の口元から怖い笑みが漏れた。
今なお獣魔気に蝕まれ、体内にて一進一退を繰り広げているはずなのだが。つい先日倒れたとは思えないかくしゃくぶりだな。
「しかし問題もある」
はい?
「帝国全土に向けて招集をかけた中、一地区のみ返答がない」
「…………!?」
帝国からの招集を無視?
それは立派な反逆行為ではないか?
「この余からの呼びかけを無視するとはいい度胸よ。これではせっかくの十二使徒お披露目も骨抜きとなり、却って内外からの軽侮を買おう。この状況、看過できぬ」
皇帝の目が、炭火のように赤く輝く。
「というわけでお前たちを呼びつけた本題じゃ。出し抜けながら初任務が出来したぞ」
つまり。
「招集を無視した地区へと参り、その意図を問いただしてまいれ。返答によっては……」
皇帝は、命令を最後まで言い切らなかった。
それが却って恐ろしい。
「して、誰を向かわせようかのう? 二人……、いや三人もいれば充分か?」
「私をお遣わし下さい皇帝陛下!」
ここで元気な返事が来るのはお決まりのパターン。
「私が不心得者の下へ赴き、皇帝陛下のご威光を直に示してご覧に入れます。逆らうものは一人残らず打ち殺してやりましょう!」
「いえその役目、オレが!」
「ボクが!」
「オイラが!」
次々と挙がる手。
これ逆にやる気示しとかないとまずくない? と思える状況だが、乗せられてはよくない。
ここで迂闊に『じゃあ俺が……』と言ったら『どうぞ、どうぞ』となるパターンでしょ知ってる。
俺と同じく沈黙を守っているメンバーは他にもいて、フォルテなんかも静かなものだった。
このあとすぐ俺とのパーティが待ってるからな。
任務を受けちゃったらパーティできないもんな。
あとワータイガも沈黙しているし、やっぱ上位は、こんな小任務に関わり持たないのかなと思いきや……。
「皇帝陛下……」
そうでもなかった。
なんと第一位グレイリュウガがみずから進み出た。
「その任務、是非とも私に任じられますよう、お願いいたします」
「…………」
さすがにナンバーワンが立候補して他は静まり返るしかない。
皇帝は跪く彼を冷たい目で見下ろし。
「控えておれ、たわけが」
「どうかご下命を。先日の汚名を返上する機会を何卒……」
グレイリュウガは、前の御前試合で俺にボロ負けした。
そのことを引きずっているようだ。
なんでもいいから功績をあげて、それにて埋め合わせをしようと焦っている。
しかし皇帝は、そんなグレイリュウガの焦りを一顧だにしないのだった。
「くどい、引っ込んでおれ、お前の出る幕などないわ」
皇帝の冷徹な言葉に、グレイリュウガ本人だけでなく他の十二使徒も表情が凍る。
そこへ……。
「では、こうすればどうでしょう皇帝陛下」
俺、進み出る。
「俺とグレイリュウガ、二人をお遣わし下さい」
「ジラ!?」
何故かフォルテが悲鳴を上げた。
「……どういう魂胆じゃ?」
「たかだか反抗的な一地区の処理に第一位を向かわせる。それを大仰とする皇帝陛下のご懸念はもっとも。そこへ俺を加えれば一位と十二位、足して二で割ればちょうどよい数となってバランスもとれましょう」
滅茶苦茶な理屈だと思ったが、案外そういうのが通じたりもする。
皇帝は苦笑を漏らし……。
「いつもながらそこの読めん男よ。よかろうお前の思い通りにしてやる。そこのたわけを好きに使うがいい」
グレイリュウガは平伏したまま顔を上げなかった。
これより俺の、十二使徒としての最初の任務が始まる。
「ジラ! パーティは!? 私とのパーティは!?」
フォルテには、任務が終わってから必ずパーティをするということでなんとか納得してもらった。




