38 ジラット誕生
以降の十二使徒任命の儀はほぼ同じとなるので割愛しよう。
名前呼んでビーストピースを与え、幹部名をつけるの繰り返し。
ただ知り合いのことについては多少なりとも言及しておきたい。
まずレイ。
錬兵所同期組の中では真っ先に名前を呼ばれ第九位に任命された。
名も十二使徒として『レイナイト』と改められた。
ガシは第十位で『ガシープ』。
セキは第十一位で『セキト』と新しい名を貰った。
皇帝陛下後半になって名前考えるのが面倒になってない? と思った。
「身内の中でのトップはレイか。まあ真面目だから当然か」
「それでも下から数えて四番目だ、自慢にはならんさ。しかし我々見事に下位独占だな」
嬉しさ半分、落胆半分という表情のレイ、第九位。
「しょうがねえべ、オレらより上のヤツは皆事前に獣魔気を帯びてたんだからな。その中で徒手空拳でよく頑張ったよオレたち」
「たしかに。ビーストピースを得た以上、獣魔気の量は横並びになったはず。この上で成果を積んで階位も上げていこう」
「そうだな、とりあえずあとからじゃどうしようもない部分が悪くなかっただけヨシとするか!」
ガシの言う『あとからじゃどうしようもない部分』とは何か?
外見に追加される獣的パーツのことだった。
十二使徒は、他の帝国兵士とは比較にならないほど猛烈な獣魔気を宿すせいか、肉体まで一部獣に近くなるようだ。
そのお陰で本来人間にはないはずの角が生えたり、尻尾が生えたり。
ガシがビーストピースを埋め込まれて起こった変化は、角が生えたこと。
ただグルグルととぐろを巻いて巻貝みたいに整った角だった。
レイは鬣が伸びた。
一見髪と同化しているが、生え際が背中まで下りて、流線型の雄々しい頭髪を振り乱している。
角と鬣。
二人とも見た感じは雄々しいしカッコいいし、当たり変化と言えるだろう。
明らかに『これハズレだな』と思える人に比べれば。
「……………………………………」
さて、ここまでずっと無言を通すセキ。
普段なら聞かれてもないのに余計なことをベラベラ説明してくる彼だが、そんなセキが言葉を失うほどの悲劇が起きてしまった。
耳が。
セキの頭部から獣の耳がビーストピースの効果で生え出してきたのだが、それがなんとウサギの耳だった。
ウサ耳。
野郎にウサ耳。
「なんでなんすかッ!?」
セキ、ついに耐え切れなくなって泣き崩れる。
「ウサ耳っつったら可愛い女の子に生えるもんでしょ!? それをオイラみたいな風采の上がらない小男に!? これ以上の資源の無駄遣いがありますか!? うあああああああッ!?」
「泣くなよセキ……! あれだよこれは、お前耳がいいだろう? 噂話よく拾ってくるし。ウサギの耳で『もっとよく聞き取れるようになれ』って意味合いなんだよ」
よくわからない慰めがガシによってかけられた。
いや、今の彼はガシープか?
どっちでもいいか。
重要なのは今。
セキが第十一位に任命されたことで、十二使徒の十一人目まで席が埋まった。
残る椅子は一つだけ。
十二使徒の第十二位。
「ジラ、お前か……!?」
皆の視線が俺に集まる。
まあ、そうだろう。
最終選抜を潜り抜けた猛者たちの中で、まだ名前を呼ばれてないのは俺だけ。
消去法的に、第十二位に誰が就くか予想するのはとても簡単なことだった。
「でもウソだろ? なんでお前が最下位なんだよ? むしろ最上位だろう?」
「いやいや、そんなことはありませんよ」
「謙遜はいいって!」
序列を決めた判断基準を考えれば当然だろう。
十二使徒の三~十二位までの序列は、最終選抜のバトルロワイヤルで各自が何人倒したかが基準になっているという。
「俺、結局一人も倒さなかったからな」
「あ」
終了まで生き延びればOKとタカを括って逃げ回っていたから。
撃破数ゼロじゃ、そりゃ最下位になりますわな。
「で、でもお前にケンカ売ってきた魔術師三人組は……?」
「とどめ刺したのはお前らだっただろ?」
「礼言って去っていったお兄さんは……?」
「不戦勝は数に入らなかったんだろうなあ」
というわけで俺の撃破数はゼロ、ダントツ最下位なのだ。
「お、オレたちがあの時余計な手出しをしてなかったら……!?」
ガシたちが自責に震えておるが、気にしないでほしい。
あの時の魔術師三人組を俺の勝ち星に加えられたところで精々三。
それで劇的に順位が変動するとも考えにくい。
「……ジラ、来るがよい」
そしていよいよ皇帝陛下が俺をお呼びだ。
国民の一人として命令には素直に従うとしよう。
「参上つかまつりました」
「自分がどうしてこのような惨めな境遇にあるか、既に悟っていよう」
御前に出るなり皇帝は鮮烈な言葉をぶつけてきた。
「帝国は、怠け者を重く用いることはない。いかに有能であろうと、帝国のために身を粉にして働こうという必死さを伴わなければ愚人以下である」
「よい判断基準でございます」
「……」
皇帝、一瞬だけ言葉を失い。
「屈辱であろう? 自分より弱く、愚かな者たちの下につかねばならん。気鋭の天才にとってこれほど面白くないことはあるまい。すべてはお前の油断が招いたこと。その実力の一端でも見せれば、あとは寝ていても、余が喜び勇んでお前を重用すると思ったか?」
「お言葉ながら皇帝陛下」
俺は皇帝の言葉に割って入る。
相手が誰であろうと間違った認識は正さねばな。
「俺は、いただける地位に非常に満足しております。そして俺は彼らのことを愚かだなどと欠片も思っておりません。皆それぞれに品格と思いやりを持った、得難い仲間です」
いや十二人のうち何人かはまだ面識もないけど。
でも半分以上は知り合いだし妹だ。
彼らの指図になら喜んで従おう。
「皇帝陛下、アナタは俺を、十二使徒の最下位に置くことでプライドを逆撫でし、奮起させようとお考えのようですね。ですがその考えは的外れであると申し上げましょう」
「ほう……!?」
一瞬、皇帝の表情が鬼みたいになったが、すぐ穏やかに戻る。
「俺は、与えられるものであればなんであろうと満足いたします。ゆえに皇帝陛下からの処置も満足しております。他人から与えてもらいながら不満ぶるなど自分勝手でしかありませんから」
「ほう、では余からどんな侮辱を与えられても満足と申すか?」
「当然です、もし仮に不満を覚えれば、さらなるものを貰おうと皇帝陛下に駄々をこねることもありません」
与えられることを望まずに……。
「みずから奪いに行くだけです」
「……!?」
皇帝、表情が凍ったな?
俺は見逃さなかったぞ。
「本当に欲しければ、与えてもらうのを待ち続けるなど俺はしません。地位も、富も、国も、本当に欲しければ奪います。奪うことをしないのは、とりあえず与えられたものだけで満足してしまう欲のない男だということです」
そう言ってニッコリと笑顔を見せつける。
『笑顔というのは牙を剥き出しにして噛みつく仕草に似る』とか言ってたのは誰だったっけ?
「くッ、くははははははははッ!!」
皇帝は笑った。
まあここまで言われたら怯えるか笑うしかリアクションがないだろう。
「面白い男よ! それだけの力を持ちながら欲を持たぬと申すか!?」
「皇帝陛下に置かれましては好ましきことかと。もし俺が野心を持ち合わせておりますれば、帝国は一朝のうちに滅亡いたしましょう」
「申すわ! ではこの力……」
皇帝が掌に載せる輝く宝石。
その輝きの色はあまりにも禍々しい。
「この最後のビーストピースはいらぬと申すか? ただでさえ強いお前が、さらなる力を求めぬか?」
「くれるものなら何でも貰っておきましょう。その分のご恩返しはさせていただきます。この俺は……」
野心は生涯持たないが……。
「……義理と人情は何より大切にする男でございます」
「ならばお前に与えよう新しい力を。その恩義に報いて帝国のために戦うがいい」
今まで多くの仲間や妹の体内に潜り込んできた宝石が、俺に中にも侵入する。
「ぐ……ッ!?」
触れた瞬間、鈍い痛みが走った。
俺が培ってきた智の聖気に、獣神ビーストの獣魔気が拒絶反応を起こしているのだろう。
このままならビーストピースは弾かれ体外へ排出されてしまうが、そうはいくか。
我が智聖術の全力をもって取り込んでやる……!
「取り込んだか……! これでお前も、晴れて余の手駒の一つ。帝国のために戦う最強の衛兵じゃ! これよりその名を改め……!」
皇帝、俺の新たなる名前を言う。
「ジラットと名乗るがいい……!」




