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30 ジラの隠れた活躍

 まず自分自身に智聖術<気配遮断>を掛ける。


 存在感を限りなくゼロにする効果の智聖術で、効いてる間は俺の存在に気づかれることはまずない。


 ゲーム中ではフィールド上でのエンカウントをなくすための術だったが、この世界でも魔獣から逃れるには有効な手段だった。


 この選抜会最初の試練。

 ある程度数が絞られるまで生き残ればいいという基準なら、これでもうパスしたも同然だ。


 魔獣から知覚されない立場でライバルが潰れていくのを横で黙って待ってればいい。


 しかしそれをしないのが俺だった。


 例えば、見ず知らずの男がマングラトンに追いかけられている。


「びいッ!? 助けて! ……ばずけで……!?」


 精も魂も尽き果て、気力だけで走っているような状態だった。

 走っているといっても歩くより遅い。


 その後ろからマングラトンが走り寄せて、そのヤツメウナギに似た大口をバックリ開けた。

 中にある無数の歯がまざまざ見えた。


 狙いは間違いなくあの疲れ果てた男で、このままなら為す術なく飲み込まれ、無数の歯でスムージーにされつつ魔獣の腹に収まるだろう。


 その前に俺は駆け寄り、男を押し飛ばすことで魔獣の牙から救った。


 魔獣は、絶対に捕らえたと思った獲物を逃し『?』と戸惑っていたが、その戸惑う隙を突かれて横から飛び込んできたフォルテに惨殺された。


 俺はというと、疲弊男を抱えてすったか走り、広場の隅へ向かうと……。


「ほいッ」


 門の外へ疲弊男を放り投げた。


『広場の外へ出た者は失格』という唯一のルールによって彼はリタイヤとなったが、代わりにもう魔獣に追い立てられることはない。


 彼の命は救われた。


 門の向こう。広場側から見た境界線の向こう側には、同じような感じで転げ伸びてる男女が数えきれないほどいた。


「だいぶ放出できたな。でもまだまだ……」


 残り多い。

 皇帝さん『百人ぐらいに減るまで続ける』とか言ってたよなあ。

 あとどれくらいだ? 内側から見たら百人も三百人も早々見分けつかんぞ?


「いや、ひたすら続けるのみだ」


 俺は再び広場の中央へ戻り、要救助者を探すのだった。


 選抜会には、本気で十二使徒入りを目指し戦う人たちもいる。そういう人たちの邪魔はしないように気をつけつつ……。


「おッ?」


 今度は酷いケースに出くわした。

 口からめっちゃ血を吐いておる。

 腹部が歪な形にひしゃげているし、恐らくは倒れたところにマングラトンの蹄で思い切り踏みつけられたってところだろうな。


「ぐえ……! おご……!」


 呼吸がおかしい。

 見立て通りなら内臓破裂でも引き起こしているだろう。

 俺はすぐさま手をかざし、回復魔法を唱えた。


「<メホラザン>」


 緑色の光が俺の手から瀕死の怪我人へ流れていき、光は体に浸透し……。


「……ん? んん!? えッ!?」


 見事に傷を癒した。


「ウソだろ!? 体が動くぞ! まったく痛みもない! もうダメかと思ったのに!」


 さすが全回復魔法<メホラザン>。

 系統的にはまだ全体全快魔法とかの上位があるけれど、味方単体全回復の威力はこの世界でも凄まじい。

 死んでさえいなければ何でも治すなこれ。


「お前が助けてくれたのか!? お前が回復魔法を!? どういうつもりか知らんが助かったぜ! ありがとう!」

「おめでとう命を拾ったな。じゃあ速やかに広場の外に出てくれ」

「何言ってんだ!? 全快した以上オレはまだ戦える! 今度こそ失敗しない必ず十二使徒になってやる!」

「ふざけんな」


 全快した瀕死の男の顔を鷲摑みにする。

 ちょいと手に力を籠めるとミシミシ骨の軋む音が鳴った。


「瀕死の重傷を負った時点でお前は不合格なんだよ。この程度の乱戦でヘマして魔獣に踏み潰されるような鈍感を皇帝が求めるか」

「おごごごごご……!?」


 頭蓋骨を握り潰されんばかりの痛みに男がうめく。


「お前が拾ったのは命だけだ。出世の望みは別の機会に譲っとけ」


 それを理解できずにせっかく俺が救ってやった命を粗末にするなら……。


「今度は俺の手で殺すぞ」

「……ッ! ……ッ!」


 俺の誠意が通じたのか、相手は身振り手振りで承諾を伝えてきた。

 わかってくれて嬉しい。

 手を放す。


「じゃあ今度こそ真っ直ぐ広場の外へ出なさい。また轢かれないように気をつけてな」

「ぎゃあああああッ!? 帝都怖ええええええッッ!?」


 こんな感じで俺は命危うい挑戦者たちをお節介で救うことを繰り返した。


 まあ偽善であろう、とか言うヤツは死ね。


「お兄ちゃん! 救助頑張れー!」


 また一頭マングラトンを叩き殺した妹へ手を振り返す。


<気配遮断>は、味方と思える相手には効果を及ぼさないらしくセレン始めフォルテやガシたちにも俺の行為は視界に入っていたようだった。


 ある者からは苦笑され、ある者からは無言で親指を立てられ、忙しく立ち回っているうちに時が過ぎ去った。



「……三百名中、二三五人が脱落。頃合いかと見計られます」

「うむ」


 やっと一次選抜が終了。

 セレン、フォルテ、ガシ、レイ、セキ、あとサラカ。


 知り合いは全員無事通過した。

 俺も通ったよ念のため言っとくが。


『生き残れば合格』という緩い基準のおかげで、<気配遮断>した時点で合格が約束されたようなものだったからな。

 そりゃ救助活動に精も出すさ。


「面妖じゃのう。死亡者はゼロか」

「はッ、当初は百人以上の死者が予想されましたが、奇跡的なことに」


 予想すんなよ。

 予想してたんなら対策打てよ。



 広間は血まみれで割と地獄絵図の様相を呈していたが、撒き散らされた血は人間のものではない。


 すべて魔獣のものだった。


 結局倒しても倒しても魔獣はあとからおかわりされて尽きることはなかったが、その死体がそこら中に所狭しと転がっている。


「殺りまくったもんだなあ」


 撃墜数のトップはセレン、フォルテ、サラカの三人だろう。

 やはり親衛隊と精鋭候補生は違う。


 他にも撃破まで至った挑戦者たちはチラホラいたが、数においては三人に迫った者はいなかったようだ。


 ガシ、レイ、セキの三人は、協力しつつあれから二、三頭倒したようだ。


「まあよかろう、それよりも残りじゃ。……五十人強といったところか。一次で百人まで減らすつもりであったから想定以上には減ったが、まだまだ十人の枠からは溢れ返るのう」

「引き続き選抜を行いましょう。十二使徒はこれからの帝国に欠くべからざる柱石となります。妥協せず、真の精鋭を選び抜かんと存じます」


 と言うのは輝くような美青年。


 十二使徒第一位のグレイリュウガだ。

 十二使徒最強の男で、引いては帝国最強。設定上では第二位ワータイガより強いことになっている。


 選抜会が続いているというのに、アイツは既に『ビーストピース』を貰って一足先に十二使徒入りが確定している。

 それほど皇帝からの信頼が厚い。


 その肩書きに相応しい眉目秀麗さ。圧倒的な存在感があった。

 二位ワータイガ同様、全身を鎧で包み込んでいる。漆黒の鎧。


「よかろう、では皆の者」


 皇帝が、第一の試練を通過した六十余名に言う。


「第二の試練を言い渡す。互いにこの場で戦いあえ。定められし十人に絞られるまで」


 またザックリした内容なのが来た。


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― 新着の感想 ―
[一言] 妹が強くなってて萎えた
[一言] 言いたい事は他の人の感想にあるから良いとして…… 本来の世界ではギリーはレイに守られて、力だけ貰ったんだろうな
[良い点] 智聖術の取得を気づかれないために、の目立たない行動なのですかね
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