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24 新たなるステージへ

 その場に短い悲鳴と、戦慄が巻き起こった。


 綺麗に真っ二つになった人間。

 それはかつて生きていた頃を知っているだけになおさら死の生々しさが酷い。


 皆から嫌われていた。

 教官の立場を笠に着て、偉ぶり見下し、苛めてくる。あんなヤツを誰も好くわけがない。

 いつかザマ見やがれと皆思っていた。

 しかしそれでも、こんな無惨な死に方をしたら喝采などできようか。


「屑は滅びた」


 その中でただ一人、この惨劇を引き起こした張本人は冷淡だった。

 まさに虎の心の持ち主だった。


「新兵たちよよく見るがいい。これが個人の利に走り、帝国を損なおうとした者の末路だ。帝国は、貢献する者は誰であろうと賞する。仇なす者は誰であろうと滅ぼす。そのことを胸に刻み、常に帝国の味方であれ」

「……」

「わかったか?」

「「「「「……は、はいッ!?」」」」」


 訓練生たち、怯えと共に追従の返答をする。


「安心しろ。お前たちの合格は、この私が受け合う。十二使徒第二位ワータイガの名において、お前たちが見事最終試験を乗り越え、帝国のために役立てるようになったと。私が証人となろう」


 これで今度こそ、俺たちは正規兵になれたわけか……。


 喜ぶべきところだろうけれど、間に色々ありすぎて疲労感が募っていくばかりだ。

 安心したらどっと疲れが出てきた。


「ただしジラ」

「はい!?」


 いきなりナンバーツーが俺を名指しに!?

 まだ安心したらいかんかった!?


「お前の能力は素晴らしいものだ。訓練生の分際でスパイク・ビッグ・フェイスを一撃粉砕するとはな」

「そこまでご覧になってましたか!?」

「お前の力は帝国のため有効に活用されるべきだ。よってお前を、十二使徒の選抜会に参加させる」


 はあ!?


「いいんですか、そんな簡単に決めて!?」

「私はそのために視察に来たのだ。見込みある者はどんどん選抜会に参加させるよう言いつかっている。私一人の判断で決めてまったく問題ない」


 さすが帝国二番目の強者!

 寄せられる信頼が半端じゃない!


「次にレイ」

「はッ?」


 さらにワータイガは、二人目まで指名してきた。


「お前が精鋭候補生の誘いを受けていたこと聞き及んでいる。それを固辞した理由もな」

「帝国へのとんだ不忠です。いかなる処罰も覚悟しております」


 平伏するレイ。

 しかし強者の態度は柔らかく。


「お前は忠誠心の厚い男だ。ただまだ若いゆえに厚い心の処し方を覚えていない。これより学んでいくことを期待し、また実力を加味しつつ、お前にも十二使徒選抜会の参加資格を与える」

「……ははッ!」


 どうやら真っ当な人間にチャンスは二度三度与えられるらしい。

 ワータイガの大尽ぶりが止まらない。


「ガシ」

「ははぁッ!?」

「その巨体から繰り出されるパワー。魔獣相手の、訓練生とは思えぬ奮戦ぶり。その男気にもチャンスは与えられるべきだ。お前も選抜会に参加せよ」

「ありがとうございます!」


 ガシも十二使徒になれるチャンスが与えられた。


「そしてセキ」

「オイラまで!?」

「闇夜の山野を駆けて一度も迷うことがない超感覚。素晴らしい。その能力を帝国のため、もっと役立てたいと思うなら十二使徒となれ」

「でもオイラは、ジラの旦那やガシのアニキほど……!?」

「帝国の役に立つ気はないか?」

「ありまぁすッッ!!」


 こうしてセキまでも十二使徒選抜会に参加資格を得た。


「以上四名」


 帝国第二の強者は身を翻す。


「選抜会の日時場所は追って沙汰する。それまで各自準備を怠るな。他の者は司令部より配属先の指示があるだろう。晴れて正規兵となった諸君らの活躍を祈る」


 ああ、そうか。

 帝国兵になったんだもんな、皆。


 しかもそれを帝国最強二人のうちの一人から直接認められたのだ。

 考えてみたらすんごいことではなかろうか。


 その貴重さ、興奮がだんだんと皆の四肢に伝わっていき、耐え難い興奮がうねる。


「おおおおおおッ!!」

「おおおおおおおおおおおおおーーーッ!!」


 夜空に上がる歓声。

 今夜の出来事を誇りに、兵士たちは戦場を戦い抜くのだろう。


 戦争を知る上手は、こうして死兵を作り上げるのか。

 恐るべし十二使徒、第二位ワータイガ……。



「……あのッ!」


 そんなワータイガの背に、俺は呼び掛けた。

 彼はもはや用も済んで去ろうとしていたところだが……。


「……まだ何か?」

「あの、一つだけ質問させてください。セロという名前を憶えていませんか?」

「……」


 心が虎になった男は、ほんの少しだけ沈黙を経て。


「……知らんな」


 去っていった。



 それから半月ほど経って……。


「あれからギリーがどうなったかというとよ」


 久々に集まった俺たち四人。


 街のカフェでテーブルを囲み世間話に興じるさまは、まことに同世代のただの友だちグループあるかのようだった。


「御家取り潰しだってさ。たった一人のバカガキのせいで数代続いた名家が断絶とは厳しいねえ?」


 そんな噂話を伝えてくるのは、情報担当セキさんだ。

 本当コイツは色んなとこから話題持ってくるな。


「教官に賄賂を渡しての不正合格を画策し、特定の恨みでもって本来帝国の公共物である魔獣を駆って私戦に充てる。どれも一発アウトの醜行だけど、とりわけ皇帝陛下の下賜品である魔仗を持ち出したのがダメだったらしいねえ」


 帝国は家格より実力主義。

 そんな伝統を、貴族に生まれ落ちながら理解できず、門地を鼻にかけてきたギリー。


 あの夜山での戦いで頼みの魔獣を全滅させられて、恐慌しつつ逃げ出した。

 暗闇に覆われた山中なんだから当然のように遭難し、二日後谷底で泣いてるのを捜索隊に発見されたらしい。

 そのまま救助兼逮捕。


 そして裁きが進んでいる。


「御本家は……」


 レイが重々しく言った。

 関係者だけにセキが集めた噂話より核心的なことを聞き及んでいる。


「ギリー様を自発的に処分なさるそうだ。自家より出た罪人を自家の手で裁き、帝国への忠誠を示すと。それによって御家存続に望みを懸けるそうな」

「処分って……、殺すってことかよ!? 貴族えげつねえな!?」


 ガシは憤慨したが、その方法は恐らく有効だろう。

 実力主義の帝国。もし本当に上級貴族が重く用いられているなら、それは伝統のためでなく純粋に輩出される人材が優秀だからだ。


 優秀な親兄弟を、惰弱な親族一人のためにすべて潰してしまうような下手はすまい。


「悪いヤツ一人が処理されるだけで皆幸せか」


 そのさっぱりぶりも悪の帝国ならでは。


「レイは大丈夫なのか? 本家と揉めたりやらしないの?」

「今のところ何も言ってこない。私が十二使徒の候補に選ばれてしまったからな。今接触すると、どうなるかわからない微妙な時期なのだ」


 なるほど。

 まさかとは思うが、ワータイガはそこまで見越して、苦しい立場に立たされるレイを守るためにも十二使徒候補に彼を取り上げた。


 ……いや、ないな。


「ギリー様を止められなかったのは私の責任でもある。その償いのためにも私は十二使徒になり、その権限でもって御本家の存続に力添えするつもりだ」

「オレもやってやるぜ」


 ガシが重々しく言った。


「正規に十二使徒になれば、オレの最終目標に一気に近づくことになる。これはチャンスだ。こんなにも急にチャンスが巡ってくるとは思わなかったが、必ず掴むぜ」

「なんでオイラまでご一緒することになったんすかねー?」


 スラム出身のガシとセキは、彼らが生まれ育った悪所を少しでも改善できるように、力を求める。


「ここからはお互いライバルだ」

「ああ、必要なら蹴落とすことを躊躇わないぜ」

「しかし願わくば我ら全員十二使徒の座に並びたいものだ」

「オイラもっすか!? 勘弁してくださいよ!?」


 そう、今日は世間話をするために集まったのではない。

 正式に十二使徒の顔ぶれを決める選抜会の開催日が、今日なのだ。


 やっと帝国の正規兵になれたというのに慌ただしいばかりだが、とにかくこれから次のステップだ。

 帝国軍に入ったら、次は帝国軍の上へ上がる。


「行くぞ皆」

「「「おう!」」」


 いわばこれは固めの盃。


「受かろうが落ちようが恨みっこなしだ。第十八錬兵所出身者の心意気を見せてやろうぜ!」


 向かうは十二使徒選抜会場。

 皇帝の住む帝城へ。

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― 新着の感想 ―
[一言] そーいや、セロのお父さんの名前がタイガだったしそーいうことなんやろなぁ
[一言] ワータイガとセロってなんかあるんかね?
[気になる点] ワータイガがロイを見逃したのかな?もしくは叔父さんとか。まぁ敵側に親しかった親族がいるとかも有りがちだからワンチャンあるな。 [一言] うーむ、セキとレイは名前的に十二使徒に席が無さそ…
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