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勉強会 1

 翌週、ふたりは夕方に蓮の最寄り駅で待ち合わせした。

 彩月は約束のドラマCDの入った紙袋を蓮に手渡す。


 蓮は何か話したいと思ったが、彩月を引き留める言葉が思い浮かばず短く言葉を交わして解散となった。


 もっと話したかったと思いながら、家に帰ってからパッケージを見た蓮は驚いた。

 アニメショップなどで並んでいる作品と遜色ないイラストで飾られている。


 聞き始めてさらに驚く。

 ちゃんとBGMや効果音も入っていて、音量の調節もされている。


 演技の上手い下手は蓮には評価できないが、少なくとも違和感を感じる声はなかった。つまり皆しっかりと芝居をしているのだろう。


 キャストこそ蓮は誰も知らないが、話もしっかりしたファンタジーものだった。

 パッケージの裏を見ると、脚本家もいるようでクレジットされている。編集、というところにキャストのひとりである鴻上拓也と言う名前が書かれていた。


 自分たちで全部やっているということか、と蓮は納得した。


 ユーチューバーたちも撮影、編集などを全部自らやっているとテレビ番組で見たことがある。

 ドラマCDの編集も知識や機材があればできるのだろう。


「すごいな……」


 思わず声に出してつぶやいてしまう。


 こんな人たちに近いうちに会わせてもらえる思うと、彩月と出会えたことは本当に幸運に感じた。


 こういう行動力も必要なのかと考える。つい先日まで、やりたいと言えなかった蓮自身の心の在り方を見つめ直す必要を感じた。



 ♪



 ビジネス街の一角にある、五階建の狭小ビル。まるごと貸しスタジオになっていた。

 彩月と一緒にやって来た蓮は、こんな場所があるのかとキョロキョロする。


 受付にはギターやベースらしき楽器の入れ物を抱えた人が幾人かいた。


 彩月は受付へは行かず、エレベーターへ直行した。

 蓮はそれに続く。


 古めかしいエレベーターだった。四階のボタンを彩月は押す。蓮が案内表示を見上げると、そこはワンフロアで一室の貸しスタジオになっていた。


 エレベーターを降りるとすぐに防音室のドアがあった。

 彩月は重そうにドアを開く。


 二重ドアになっていて、蓮が扉を開けて彩月に先へ行くよう促した。


「おはようございます」


 一面が鏡張りになった広い部屋には、すでに数人の人影があった。


 三本のマイクスタンドを立てて、何やら準備をしているようだ。


「おはよー」

「おはようございまーす」


 みんなにこやかに、口々にあいさつする。

 初めての人と場所に戸惑っていた蓮だが、これではいけないと思った。


「は、初めまして。高橋蓮です」


 勢い良くお辞儀しながら挨拶をする。


「はじめましてー」


 マイクの用意をしていた、丸顔にメガネの女性が柔らかい口調で笑顔で対応してくれた。顔を上げた蓮の緊張は少し緩む。


「初めまして。一応主宰の鴻上(こうがみ)です」


 やはりセッティングをしていた、蓮より少し背の低い黒縁メガネの男性が彩月たちの前へやって来た。


 金髪でチャラい感じだが、良く言えば親しみやすそうな雰囲気だ。鴻上からどんどん話してくれそうに蓮は思えた。


 この人がドラマCDの編集をやっていた人だ、と蓮は姿勢を正す。鴻上と話してみたいと蓮はワクワクする。


「お久しぶりです」

「しんちゃん、元気にしてた?」

「おかげさまで」


 談笑する鴻上と彩月の隣で、蓮は声をかけるタイミングをうかがう。

 おろおろする蓮は、自身にこれではいけないと言い聞かせるが、声帯がうまく操れない。


 彩月の苗字は新川だから『しんちゃん』と呼ばれているのだろうか。あだ名で呼ぶくらいには親密な間柄なのか。そんなことが気になった。


「高橋くん、初めてだから緊張しないでってのは難しいかもしれないけど、まぁオーディションを受けるための練習だと思って、気楽にやってね」

「ありがとうございます」

「そんなワケで、今日は仮想オーディション原稿読もうなー」


 後ろにいた男性一人と、三人の女性に鴻上が呼びかける。

 四人はそれぞれの反応で返事をした。


 そしてみんな蓮に自己紹介をしてくれる。

 最初に話しかけてくれた丸顔にメガネの女性が篠原(しのはら)、ツヤツヤの黒く長いストレートヘアの女性が今泉(いまいずみ)、色白で細く小柄な女性は杉野(すぎの)と言うそうだ。


 ひょろりと背の高い男性は和田(わだ)と名乗った。この中では一番若く、二十歳だと言った。

 それを篠原に一言多いとからかわれる。


「これで全員ですか?」

「まっちゃんは遅れて来るって言ってたから、用意できたら始めようか」


 彩月の質問にそう答えた鴻上はミキシングコンソールの傍に無造作においた帆布の鞄に近づく。中からファイルを取り出し、蓮に紙をニ枚手渡した。


 一枚目には三つのナレーション原稿、もう一枚には男女それぞれ三つの台詞が書かれていた。それ以外は特に指定などはない。


「これ、去年大きめのオーディションで使われてた原稿だから、高橋くんなりに考えて、読んでみて。ヒントが欲しかったらここにいるお兄さんとお姉さんは聞けば教えてくれると思うから」


 鴻上の言葉に彩月はギクリとしていた。

 教えることは得意ではない。


 しかしすぐに蓮は彩月の隣にやって来た。

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