8話 よくあるあれを唱えてみた
さて。
これからどうしよう。
思っていなかった人物の裏切りに私はため息をついた。
人事権握ってる人が裏切ってるとか終わってるだろ公爵家。
ああ、でもグエン様が不在の時に無理矢理王子と婚約させられてたし。
それくらいの方がかえって納得できるのか。
もうシークと自分以外は信じない。
いざとなったら自分がお嬢様を守るくらいのつもりじゃないと。
お嬢様にはいつも空気のごとくシークが付き従ってはいるけれど。
もしセバスの他にも複数騎士が裏切っていたら?
シーク一人では対応できないかもしれない。
私もお嬢様を守れるようにならないと。
体術はリンゼの知識がある。
けれどリンゼは薬専門の暗殺者だ。
体術はそれほど秀でているわけではない。
あー。普通転生者ならステータスオープンとかですっごいスキルもってたりするのになぁ。
マリアもスキルもステータスももってたみたいだし。
もしかして私ももってたりしないかな?
「ステータスオープン」
ぼそりと言ってみる。
………。
…………。
……………。
何も変化がおこらない。
なんでー!!こういう時、転生補正あってもいいと思うのだけれど!!!!
ただ中二病発言しただけで終わるとは恥ずかしすぎる。
どうせ私は転生しても不遇ですよ。
虚しくなって私はそのままふて寝するのだった。
■□■
白い空間で女の子が泣いていた。
「なんで!?なんで私は誰も愛してくれなかったのに!?
なんで小憎たらしいあの女だけが愛されてるの!?」
茶髪の女の子が叫ぶ。
本来のリンゼは茶髪だ。
暗殺者ギルドで他の名を与えられたとき髪の色も強制的に染められた。
リンゼは商家のお嬢様だった。
誰もが最初はチヤホヤしたのに。
家が没落したとたん、誰も見向きもしなかった。
そりゃそうだ。
わがまま放題に育った少女は使用人を見下していた。
だが一代限りの爵位をもらった家を貴族が本来の貴族として認めるわけもなく。
自分の居場所と思っていた貴族の側にも居場所はなかった。
リンゼの家の不正が分かったとたん、嘲笑してけなしまくったのである。
使用人や下に見ていた者達にも散々罵詈雑言をあびせられ、失意のうちに親戚を転々としたあと結局暗殺者ギルドに売られた。
「そりゃあなた。自分の事ばかりで人の事なんて考えなかったからでしょう?
愛されようとするばかりで愛される努力をしなかった。
そして人に八つ当たりしようとしてる時点で愛されるわけないじゃない」
「あんたに何がわかるっていうのよ!!」
「わからないわよ。
自分が不幸だったからって、素直な幼女を虐めて楽しんでる人の気持ちなんて。
わかりたくもない」
「人の身体を奪っておいて!!!」
「……人をはめて殺すつもりの人にどうこう言われる筋合いはないわ。
アンタわかってるわよね?
このまま暗殺者ギルドの言うこと聞いてたらお嬢様の命が危ないことくらい。
それを分かった上で、面白がって、操っていた。
心酔してるお嬢様を、内心見下し笑ってた。
他人を貶める行為をしておいて、自分が同じことされたら悲劇のヒロイン?
笑わせないで。あんたはそれ相応の事をしてるんだから。
因果応報よ」
「酷い!!あの小娘には無条件に優しいくせに!!!
なんで私にはそうしてくれないの!?」
「笑わせないでよ?まずあんたが誰かに優しくしようとしたわけ?
自分はしもしないくせに愛される気でいるの?
自惚れもいいとこね?そんな傲慢な自信はどこからくるのか知りたいわ。
自分は無条件に愛される価値がある人間だと思ってるの?
たかが一市民のあんたが?
はっ、物語の主人公にでもなったつもり?
そこまで自分に酔いしれるってすごいわー」
私の言葉に、少女は……大声で泣き出すのだった。
そこで――私は目を覚ます。
気が付けばいつものリンゼの部屋で。
食器もこっそり戻したので綺麗に片付いている。
うん……夢か。
私自分で思ってるより性格悪いのかもしれない。