5話 乗っ取り
「お菓子作りですか?」
お嬢様の部屋でお嬢様に提案すれば目を輝かせた。
「はい。聖女様が伝えたと言われる、行事で2月14日は女性から男性にお菓子をプレゼントするのですよ?」
私が言えばリシェルお嬢様は顔を赤らめて、「シャトルワ神話第53説」にでてくる話ですね!
私も見たことがあります!と、嬉しそうに微笑んだ。
「でもリンゼ、あれは確かチョコレートだった気がするのですが。
リンゼと作るのはプリンやマドレーヌなのですね?」
「お嬢様チョコレートはとても高価な食べ物です。
貰った殿方達も、3月14日にお返しをと考えた場合高価な物を返さなければいけなくなります。
よってあまり高価すぎないものがよろしいかと。
かといってクッキーなどをプレゼントしてしまいますと、男性側が返す食べ物を思いつかなくなってしまいます。
クッキーなど安価な食べ物は男性陣のお礼のためにとっておきましょう。
高価なお返しは禁止にしてお礼はクッキーだけということで」
「流石リンゼですね!はい!作ってみたいです!
女性の方にもお礼はいらないので配りたいです!!」
と、嬉しそうに言うリシェルお嬢様。
よし!!話に乗ってくれた!!
これで招待された男性陣はお嬢様の前で食べるはず。
手袋をつけたまま食事などありえない。
手袋をとった状態でお嬢様のプリンを食べなければいけないわけで。
プリンの容器を陶器で作れば指紋もゲットだぜ!が出来る。
「お菓子作りは初めてです。私に出来るでしょうか?」
「私がお教えしますよ」
「……でもお父様が許してくれるでしょうか?」
言ってリシェルお嬢様がしゅんとなった。
父親のグエン様とリシェルお嬢様は確執がある。
国王陛下とリシェルお嬢様の母親が一緒にいた席で暗殺者の襲撃があった。
その時にグエン様はお嬢様と妻のラチェル様ではなく国王陛下を守ったのだ。
もちろんグエン様は魔導士として優秀なラチェル様ならお嬢様を守り自分の身も守れると疑わなかったからなのだけれど。
けれどラチェル様は死んでしまった。
リンゼの前任のメイドは妊娠後は薬の効きがいいと言っていた気がする。
恐らく魔法とギフトを封じる毒のせいでラチェル様は思った通りの行動ができずリシェルお嬢様を守るので精一杯だったのだろう。
父に何故母を見捨てたのかと責めた事をリシェルお嬢様はまだ気にしている。
そして父と娘がメイドのリンゼを通して会話することになったのをいいことに、リンゼに嫌われたと思い込まされている状態だ。
あー、マジ、リンゼとその周辺ムカツク。
元凶はすべてこいつらなのだ。
つーか、作者もなんでこいつらスルーして完結したのかな。
こいつらこそ、全員正体つきとめてギッタギッタのグッチャグッチャにしてやらないと。
……。
今普通に殺す図を想像してしまい、私は一瞬停止する。
日本人だったころなら絶対、自分で殺すなんて考えなかっただろう。
それがナチュラルに殺してしまいたいと思ったのだ。
……リンゼの記憶が残っているせいで私もリンゼに引っ張られてるのかな。
ちゃんと自分を強くもたないと。
「リンゼ?」
「ああ、すみません。旦那様なら喜びそうだなと想像したらおかしくなりまして」
「喜ぶでしょうか?」
「お嬢様が作るお菓子ですから。きっと喜びますよ。
娘の手作りが嫌いな親はいません」
私が言えばお嬢様はすごく嬉しそうに微笑むのだった。
■□■
自分でもおかしいとは思う。
お嬢様とお菓子作りの練習でプリン作りを終えて部屋に戻った私は考えていた。
思考がかなり残虐になっている。
恐らく日本人の時のままだったら、私はこの状況から逃げ出しただろう。
暗殺!?殺し合い!?無理無理一般OLがそんなのに関われるわけないと。
この屋敷から逃げ出す事をまっ先に考えたはずだ。
それなのに私は張り合う気でいる。
もちろんお嬢様を守りたいという意思だけは本物だとは思う。
……。
でもあれだ。
所詮素人の考えたweb小説で深刻に考えて答えが出るだろうか?
なんとなく乗っ取ちゃって、性格変わっちゃいましたとかだけかもしれない。
……ま、いいか。
答えが出なさそうなので私はそのまま考えるのを放棄する。
この時点でかなり、以前の私だったらありえない行動だということを深く考えないまま。











