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36話 最終話

 


 気持ちいい。

 白い空間を私はフワフワ浮いていた。


 何故か遠くで、リンゼが助けて、助けてと泣きわめいている。

 彼女は何をあんなに泣きわめいているのだろう?

 どうせ一緒に死んだのに。


 きっと私はあの時崖を飛び降りて死んだのだ。


 もう何も思い残す事なんて――。


「リンゼ。リンゼ」


 声が聞こえた。

 お嬢様の声。


 ああ、やっぱり最後くらい会いたかったな。

 お嬢様の結婚式も見てみたかった。

 可愛かったんだろうなー。

 フリフリのドレスだったのかな?

 それともスラッとしたウェディングドレスだったのだろうか。

 この話、微妙に現代日本の風習があるから、結婚式もきっと純白のドレスだったんだろうなぁ。

 結婚して子供を生んで。

 ロゼルトとイチャイチャしてればいいよ。

 私はそれを後ろからニコニコ顔で眺めるから。幽霊で。

 ああ、幽霊になれるといいなぁ。

 なんて思っていれば


「目を覚ましてください。リンゼ」


 今度は鬼畜の声。

 結局返事も言えなかったけれど。

 まぁ、イケメンだし外面はいいし、金持ちだし、きっといいお嫁さんをもらっているだろう。


 私なんかよりずっといいお嫁さんをもらってるんだろうなぁ。


 ……でもやっぱり最後に会いたかったな。


 思った瞬間。


 急にそこで景色が鮮明になり――私は意識を取り戻す。


「よかった!目を覚ましました!」


 嬉しそうに言うお嬢様。

 なんだか心無しかお嬢様が大人っぽくなっている。


「……よかったです」

「まったく心配させやがって」


 マルクもジャミルも嬉しそうに微笑んだ。

 見渡せばズラリとエルフの神官の格好をした人たちが私を取り囲んでいる。


 そして――横には魔道具でぐっるぐる巻にされたリンゼがいるのだ。

 研究室のような部屋に私とリンゼがベッドで寝かされていたらしい。


「えっと……これは?」


 私が辺りを見回しガラスの方に視線を向ければ――そこには私の知らない女性が映っている。


 日本人なのかな?丁度転生する前の私と同じくらいの少し茶髪のはいった黒髪の綺麗な女性。


 手を振ってみれば……その知らない女性が私がした通りの行動をしていた。


「えーっと」


 私が冷や汗をかきながら言えば


「おかえりなさいっ!!リンゼっ!!!」


 お嬢様が私に抱きつくのだった。

 


 ■□■



 事件のはじまりは、とある貴族の狂った思いつきだった。


 異世界人を召喚して――その異世界人が持つ特殊な祝福ギフトや魔力を自分のものにしたい。


 それが研究のはじまりだ。


 魔力や祝福ギフトは魂に内包される。

 そのため、まず始めたのは異世界人から魂を抽出する研究だった。


 その中で、未来が予知できる異世界人が発掘できたのはたまたまだった。

 彼女が未来を予知できたからこそ、その貴族は聖女の入れ替えなどという愚かな事を思いついたのだ。


 貴族は未来予知の異世界人のおかげで莫大な富と権力を手に入れる事ができた。


 あとは――計画通り進めるだけだった。


 だが、貴族が保護していた未来予知の祝福ギフトをもつ異世界人は環境が合わなかったのか、ストレスからだったのか、大事にしていたにも関わらず死んでしまった。


 こうしてまた貴族は、聖女の力を使うことのできる祝福ギフトを持つ、異世界人の召喚に邁進する。


 リシェルお嬢様と異世界人を入れ替えるために。


 そして、異世界から召喚されても祝福ギフトを持っていない者たちは……魂を抽出し、魔力を奪い取る研究がすすめられた。


 だが、その研究は……無謀としかいいようがない、研究とすら呼べないものだった。

 魂を抜き取るなどという技術を、たった一代で成し得るわけがないのである。

 研究者達は、急かす貴族に成果を見せようと、異世界人を魔法で仮死状態にして、魂を抜いては成果があったと言うだけで、実際は研究など何一つ進んでいなかった。

 魔法の仮死状態が長く続くと、魂が抜け出し死亡と同じになる状態になる。

 研究者達は貴族にそれを見せ、魂のような光を魔法でつくり、魂を抜いて抽出したと報告していたのだ。

 実際は魂を抜いただけで、その魂を所持などしていないにも関わらず、抽出できたと嘘の報告をしていた。



 そして――私が今いる身体も。


 召喚された異世界人の犠牲者の一人の身体だったりする。



 ■□■


「じゃあ、お嬢様が私の魂をこの身体に入れてくれたんですか?」


 私が聞けば少し身長の高くなったお嬢様が


「はいっ!マルクさんに聖女の聖なる短剣なら転魂が出来ると教わりました!」


 と、嬉しそうに微笑んだ。

 血のついた聖なる短剣を持って。

 そういえば、作中でもラストにロゼルトとガルシャ王子を入れ替えていた気がする。


 あの後。私は崖から落ちて、マルクさんも飛び込んで風魔法をまとって途中で受け止めてくれてなんとか落下は免れたのだけれど。

 落ちる途中に岩に頭をぶつけたらしく脳死状態だったらしい。

 エルフのクリフォス様が魂が出ていかないように、魔法で処置してくれて、私は仮死状態で何年も水晶の中にいたとか。

 仮死状態だったのは鬼畜の計算があった。

 私が小説のストーリーを話していたのでリシェルお嬢様が聖女になれば転魂ができるのを鬼畜は知っていた。

 そして捕まえたクロム・フォル・ロティエン達が所持している、仮死状態で魂のない生きた身体と入れ替える事を考えていたからだ。


 数年後、お嬢様が聖女になり、聖なる短剣を所持して、やっとこうして私を生き返らせる事ができたとか。

 うん、物凄く有難い。


 また、リンゼと一緒だったらどうしようと思ったけれど。

 エルフの長に見てもらったがリンゼの身体にはリンゼの魂がちゃんと残っているらしい。

 このまま彼女は延命処置を打ち切られ……死亡することになる。


 なんだかお嬢様を虐めたわりに、自殺して悔いる事なく死亡というのは、いろいろ納得できないけれど。

 脳死状態なので仕方ない。


「さて、リンゼが生き返ったのは喜ばしいことだが。一つ問題がある」


 ジャミルが深刻そうに言う。


「問題?」


「貴方の本当の名前です」


 言って鬼畜が手を差し出した。


 ああ、そっか、私はもうリンゼじゃないんだ。

 この体の持ち主にも名前があったんだろうけど、死んでしまったいまでは知りようもないし。


「私も知りたいです!」


 と、血のついた短剣をもちながらニコニコ言うお嬢様。

 血のついた短剣を持って微笑む少女。

 うん。ちょっと怖い。



 ……に、しても私の名前か。


 ああ、そっか。名乗っていいのか本当の名前。

 もう私はリンゼじゃない。

 偽りのメイドはもう終わり。


 私は私なんだ。

 少し嬉しくなって私は微笑む。


 本当の名前は。


「ハルナ……綾波春菜」


 私が言いながらマルクの手をとれば


「いい名前ですね」


 と、優しく微笑んでくれるのだった。




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