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34話 他視点

「らしくないじゃないか」


 マルクの告白の後。

 リンゼが顔を真っ赤に逃げ出したのを確認して、ジャミルは木の上からひょっこり顔を出した。


「趣味がよろしくありませんね。

 まさか見ていたのでしょうか?」


 マルクがニッコリと微笑めば


「人が昼寝してる木の下で告白をはじめて、盗み聞き扱いはないだろ」


 と、地にぽんと降りた。


「何もこんな雰囲気のないところで告白とか、勇み足なんじゃないか?」


 ジャミルに言われてマルクは苦笑いを浮かべる。


 余裕がない。


 それは自分でも自覚していた。






「それはよかったです。

 これで私も安心して死ねますね」






 神殿で、全てが解決したときに彼女が言ったこの一言が頭から離れない。

 もし、彼女の使命がリシェルの死を回避することで、それを達成したとき、元の世界に帰るのだとしたら?


 それとも命を奪われてしまうのだろうか。


 そんな疑問が常につきまとっていたときに、リンゼの身体で「本物のリンゼ」が自分の前に現れたのだ。

 表情には出さなかったが、どれほど絶望したことだろう。


 彼女は居なくなったのだと。


 

 いつから彼女にそういった感情が芽生えていたのか自分でもわからない。


 それでも。

 自分の命も危うい状態で、ただ一人の少女の為に逃げずに命をかけ、戦う彼女に惹かれていたのは事実だ。


 カティ家を継いでから、家の為と友との交流をやめ、損得だけで人付き合いを広げてきて、疲れていた所に気兼ねなく話せる関係になれた彼女の存在が心地よかったのかもしれない。


 彼女が居なくなった時の喪失感がいまだに忘れられない。

 それ故焦りすぎた行動に出た自覚はある。


「確かに、焦りすぎました。

 ですが、何も言わず失ってから後悔するよりは、ずっといいはずですから」


「ふーん。それは経験談ってやつか?」


 ジャミルが腕を組みながら聞けば


「さぁ、どうでしょう」


 言ってマルクは微笑み


「それで、貴方はどうなんですか?」


「ん?何が?」


「リンゼに興味はあるのかと聞いているのですが」


 物凄い悪い笑みを浮かべて言うマルクにジャミルはニッコリ微笑んだ。


「俺、旦那と女をとりあって、死にたくないし」


「……貴方もリンゼも、私に対する評価がおかしいと思うのですが」


 言ってマルクはため息をつく。


 それにしても、問題は本来の身体の持ち主のリンゼだ。

 彼女の件を解決しなければ、リンゼとの関係も前に進まないだろう。


 本物のリンゼに対する対処方がないわけではない。


「さてーー、どうしましょうかね」


 言ってマルクはつぶやいた。



■□■


「リシェルこんなところにいたら風邪を引くぞ」


 エルフの里のリシェルに充てがわれた屋敷のバルコニーで、リシェルは夜空を見上げていた。

 後ろからロゼルトに話しかけられる。


「ロゼルト……」


 言ってリシェルは儚げに微笑んだ。


「旦那様から事情は聞いたのか?」


 ロゼルトに言われリシェルは頷いた。


 自分が聖女だったこと。

 大神官が聖女である自分を囲うために暗躍していたこと。

 屋敷の中の者が麻薬などを使われて、暗殺者集団に手を貸していたこと。

 セバスが死んだ事。

 騎士団長もかなり前から入れ替わっていた事。


 夢物語を聞いているようで、リシェルにはよくわからなかった。

 正確には信じたくなかったのだ。


 自分が聖女だったがために、屋敷の者が中毒性のある薬で無理矢理密偵にさせられ、裁かれようとしていることも。

 仲良くしてくれていた人達が自分を裏切っていたことも。


 急にロゼルトにリシェルは抱き寄せられた。


「お前に責任なんてないからな?

 本来聖女は保護されるべき存在で、私利私欲のために自分の手元におこうとした大神官が一番悪いんだ。

 お前のせいじゃない」


 必死に慰めてくれる。


「有難うございます」


 言ってリシェルは微笑んで


「一つ聞いてもいいですか?」


「ん?」


「……リンゼは何時ごろから入れ替わっていたのでしょう?」


 リシェルが聞けば、ロゼルトはうーんという顔をして


「俺はそこまで聞いてないなぁ」


 と、ポリポリと頭をかいた。


「……そうですか。有難うございます」


 言ってリシェルは微笑む。


 本当は――グエンからリンゼが入れ替わっているなどという説明は受けてはいなかった。

 ロゼルトの様子をみると、どうやら入れ替わっているという自分の推理は当たっているのだろう。

 以前から引っかかりがあった。

 まるで中の人が入れ替わったのではないかというくらい、リンゼの対応がある時期を境に変わったのだ。

 魔道具で別の人がリンゼになっていたというのなら、それもまた説明がつく。


 今になって思えば、以前のリンゼはリシェルに会う人を制限していた気がする。

 あの頃の自分はリンゼしかすがる人が居なくて、リンゼに嫌われるのではないかと、いつもビクビクしていた。

 リンゼの前ではいい子に。嫌われないように。

 リンゼが嫌いな人とは距離を置かなければいけないと強迫観念に似た感情に押しつぶされそうだった。


 けれど、リンゼが変わってからは、リシェルの世界は大きく広がったのである。


 人に会うのも制限しなくなり、むしろリンゼがリシェルの世界を広げてくれた。


 グエンの話では、今回の事件の真相を暴くにあたって、リンゼとマルクのおかげだと言っていた。

 きっとリンゼが自分を守ってくれたのだろう。


 温かくて優しい人。


 本当の彼女は一体何者なのだろう?


「リンゼは何時ごろこちらに来れるのでしょうか?」


「うーん。俺も聞いてないな」


「はやく会ってお礼が言いたいです」


「うん。そうだな」


 リシェルの言葉にロゼルトも微笑むのだった。




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